ヒヨル 硝子は液体である。◯か×か 忍者ブログ
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○。
影野のしろい左手がばあんとおもいっきりガラス窓をぶちくだいた。びびった。映画みたいなあめ細工じゃない本物のガラスをだ。染岡はまるく目をむいた。ガラスの破片が鉢植えのさぼてんにつつましく主張するとげとげのようにいっぱい生えた影野の手。それはもう悲惨なことになっている。めちゃくちゃで血だらけ。まる。影野はみじかく繰り返す。知ってた。ガラスは液体。時間がたつとゆっくり流れてしたの方にたまる。知ってた。影野が左手をつきだす。なまぐさい血がぼたぼたとゆっくり流れる。透明なとげにきらきらとひかる影野の手指。爪の根本につきささったひとかけがいちばんいたそうだった。
染岡は手を伸ばして影野の左手をしたからそっと支えた。びびらせんなよ。ふれ合った面がとたんに鉄分とヘモグロビンで癒着する。にかわのようにぴったりと。影野はすこしわらう。うすいガラスに息を吹き込んでぴこんぺこんと鳴らすおもちゃを思い出した。あれに思い切り息を吹き込んだみたいに、ガラスはちからいっぱい砕かれていた。痩せた影野のしろい腕にはその残滓がやたらにまといついている。クリスマスのあおじろいイルミネーションのように。液体であるガラス。液体である影野の血。なまなましい生を主張するその熱にもにおいにも辟易しているというように、くちびるを裂いて影野がわらう。
染岡は爪の根本に破片がつきささった指を口に含んだ。知ってた。舌になまぬるい鉄の味がひろがる。おれはずっとおまえがすきだったんだけど。知ってた。時間がたつとゆっくり流れてしたの方にたまる、それは影野がぶちくだいたガラスに似ている。知らなくてもどうということはないが、さりとて知っていてもなにが変わるわけでもない。ガラスは液体だし影野がくだかなくてもいつかはかならず割れた。染岡は影野がすきですきで今すぐにでも抱きたいと思うけどたぶんそれをさせてはくれない。おれはいまもおまえがすきなんだけど。知ってた。
染岡の舌に破片が深々とつきささった。鉄分とヘモグロビンで染岡と影野はひとつになる。口の中で影野の指がぼきんとくだけた。うふふ、と最後にわらったのはどっちだったろう。どっちだったのだろう。






硝子は液体である。◯か×か
染岡と影野。
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