ヒヨル エリエリラマサバクタニ 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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うふふ、と、すぐそばでわらう声がした。目金が肩甲骨をさらしたままそちらに目をやると、影野がとおくを見つめたままくちびるを持ち上げてわらっていた。インナーをずぼんとあたまからかぶり、しろい背中を綿とポリエステルでおおってしまってから目金は目をそらす。影野の見ているさきには格子のはまったがらす窓があって、その向こうはなにも見えない。窓はちいさいし格子がじゃまくさい。影野は首をかしげるようにしながら爪のわれかけたながい指でくちびるにふれ、それからそれをぬうっと目金に伸ばした。どこかしらにさわってしまう前に、ばちんと目金はそれを払いのける。しろい指は抵抗なくはじかれてロッカーにあたった。骨と金属のふれあう音がぼわんぼわんぼわんと耳のうずまきにしずんでゆく。
影野が足の指を怪我したのはスパイクで松野が思いきり踏んだせいだ。部活が終わったあと、影野がゆっくりスパイクを脱ぐとそこにいた全員が絶句した。血でざぶざぶに染まった靴下とスパイクとその中敷き。う、と誰かがみじかくうめき、松野はほそい悲鳴をあげた。血の源泉は靴下の先っぽのまんなかのあたり。あからさまに変なかたちにくぼんだ、そこ。影野はまったく無頓着に靴下を脱ごうとするものだから、土門がその手首をつかんで止めた。だめだよ。もっと血が出る。結局その足で影野は病院に行き、何針か縫ったという。中指がちぎれかけていたとは付き添った土門の談だがどこまで本当かはわからない。翌日影野の足はしろい包帯で幾重にもまかれ、ふとく醜悪なそれを引きずるように影野は学校に来た。平然とした顔で。そしておなじ顔で部活にもふつうに来るから困ってしまう。
目金。見えないの。影野はロッカーにひどく打ちつけた手を伸ばして窓を指差した。見えないの。目金は耳をふさぎたい気持ちを押さえて着替えを終えた。しろくふとく醜悪な影野の足。したたった血はマネージャーと宍戸が水と洗剤できれいにこすり落とした。いまだに部室のすみにはあのスパイクが置いてある。だけど血がついた方は松野が靴底の金属を強引にはがして捨ててしまったため、無事だったもう片方だけが風化しながらそこにある。
あのときの叫び声を今では冗談だったのかもしれないと目金は思う。この世の終わりみたいな、七つ目のラッパの悲鳴。あれが本当にあの喉からあふれたのか。影野はその日確かに喉をからしていた。目金は影野を見る。やっぱり影野はとおくを見ながらうすくわらっていた。そのながい髪をわしづかみにしてつよく引く。ぐっとさがったそのあたまを、目金は腕にかかえてやった。よしよし。影野は目金の腕の中で、うふふ、とわらった。目金も見えてるんだね。うれしいね。おれと目金はおなじものを見てるんだね。つややかな髪の毛をなでる手の甲をぞっとあわ立たせながら、目金はくちびるをやわらかにわらわせる。あのときの悲鳴がぼわんぼわんぼわんと目金の奥に積まれて崩れた。がらす窓を通り越してかたちのないものがじわじわと染み込んでくる。ふたりきりの部室であるならそれは天国に似ていた。(と言えなくもない)







エリエリラマサバクタニ
目金と影野。
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