ヒヨル 捕まえて独り占め 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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感謝企画。
影野とマネージャー(木野)。
リクエストありがとうございました。

続きに本文。


今度の休みのときにふたりでどっか行かない。
え。と木野はふり返る。そこにはどろどろにながい髪をしたせいの高い影野が、うつむきがちに突っ立っている。その後ろでは松野と半田がにやにやわらっていて、土門がどうしようみたいな目で木野を見ていた。どっか行かない。影野はとつとつとくり返す。断られることを待っているようなその口調。木野が影野と話すと身長差がずいぶんあるためにのぞき込まれているような気分になるのだが、そのわりにふたりの視線は絶対に交わらない。松野と半田の目は、今からどんなふうに断られるのか楽しみにしている。そして土門の目はどうか断ってくれみたいなことを訴えている。どっちも知るか。木野はにっこりとわらう。いいよ。ちょうど行きたいとこあったから、つきあって。おおおいみたいな顔で松野と半田が目をあわす。半田は笑みをふかくして、松野はあからさまに戸惑っている。土門はあーあーみたいな顔をしていて、でもいちばん驚いているのは声をかけてきた影野だった。いいの。いいよ。なんで。なんでって誘ったの影野くんじゃん。そうだけど。またメールするから、待ち合わせの場所とか考えといて。そう言うと影野はちょっとわらって、うん、と言った。影野はあとで松野に蹴られていた。
日曜日の駅前朝十時。影野はすとんとしたラインのグレイのニットカーデにくろいスキニー、バンズのくろしろ千鳥格子のスリッポンをはいていた。木野はサマンサモスモスのワンピースと、行きつけの雑貨屋さんでものすごく安くなっていた(80パーセントオフなんで値段つけないほうがいいじゃん、と姉が言っていた)タマラヘンリケのバレエシューズ。上にはおったアフリカタロウのちゃいろいブルゾンを影野はそれいいねとみじかくほめた。ながい髪の毛をうなじでひとつにまとめて、しろい首筋をむきだしにした影野。今日はどこ行こうか。とりあえず電車に乗ろう。木野は影野の手をとる。お買い物してごはん食べてお買い物して、それから帰ろう。ふたりでつったって電車を乗り継いで、おおきなショッピングモールでそれはもう木野はたくさん買い物をした。ハートダンスの三連ネックレス(1260円)をじっと見ていたら、影野がぼそっと買ってあげようかと言った。なので買ってもらうことにした。木野はお返しに、手首につけていたしろいふわふわのシュシュを影野の髪にまいてあげた。荷物は全部影野が持ってくれる。ふたりは店にはいるとき以外はずっと手をつないでいた。驚くべきことに。木野はそれがまったく苦痛でないことに一種の感動さえ覚えていた。土門とはこんなことはできない、とすこし思う。もちろん円堂とも風丸とも染岡とも、ほかの誰であってもそれはできない。かわいてつめたい影野のてのひら。
それからはときどきふたりで遊びに行く。影野が唐突に、今度の休みのときにふたりでどっか行かない、と言うこともあれば、木野の方から、今度の休みのときにふたりでどっか行かないって言って、と言うこともあった。形としては、かならず影野から木野を誘う。そして木野はそれを断らない。朝十時に駅前で待ち合わせして、今日はどこ行こうか→とりあえず電車に乗ろう、の流れを毎回する。動物園にも水族館にもアウトレットにも秋葉原にもふたりは行った。そしてその間はずっと手をつないであるいた。言葉にならない約束事を、ふたりは殉教者のように守り続けた。
十八のときに影野は免許を取って、たぶん最初のドライブの相手は木野だった。髪切ったの。かわいいね。木野は助手席にすわるとそう言った。母親のなんだというくろくてまるっこいタント。その日は御殿場を経由し、籠坂峠をとおって山梨に行った。影野はものすごく真剣な顔をしてハンドルをにぎって前を見ていたので木野はひとりでいろいろなことをしゃべった。右手に大きなみずうみが見えて、そこにはたくさんボートが打ち上げられてかわいていた。それは茫洋として模糊として木野の目の奥にひろくふかくしずんでしまう。かすかに霧のかかったたいらかな湖面。木野はハンドルをにぎる影野のてのひらに自分のそれを重ねた。その夜はじめて影野の家でセックスをした。こんなことはまったく苦痛でない。まったく。山梨にも静岡にも行ったのに、そういえば一度も富士山なんて見なかった。わらってしまう。まったく。
たぶんわたしたちこのまましぬまでいるんだねと木野は言った。影野はなにもいわずにてのひらをひろげて木野に見せてくれた。そこを人差し指でがりがりとこすりながら、しぬまでこのままいられたらいいね、と木野はわらった。誰からもひとしくはなれたとおいとおい場所で、ひとしく離れたままふたりでならんでつったっている、若木のような影野と葦のような木野。たぶんわたし何年たってもこうやって影野くんを呼ぶんだと思う。いいよ。影野と視線が交わることはない。あのときからずっと。ずっとずっと。いつでも行くよ。
今度のやすみのときにふたりでどっか行かない。影野はぼそりと言う。影野が大学に行ってひとりぐらしをして卒業して就職して結婚して子どもができて離婚して結婚して子どもができて退職して奥さんと死に別れて痴呆のあわれな老人になっても。木野は目をとじる。いつまでも今度のやすみのときにはふたりでどっか行くんだ。てのひらをかさねてつないで、ぼおっとつったったまま。いつまでも視線がまじわらないまま。木野は何度でもそれをよろこぶだろうし、だけどその百万倍くらい毎回後悔するんだろう。三連ネックレスは一之瀬に捨てられてしまったのであてつけのように同じものを買ってまだつけている。一之瀬くんすき。だいすき。あいしてる。




捕まえて独り占め
影野と木野。
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