ヒヨル 石の上 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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花びらがあまりにもたくさん川を流れているので、宍戸がスパイクを脱いで靴下も脱いで足をひたしてしまった。春の水はまだつめたい。足首にしろくさざ波のように水が立つ。そこを割るように、埋めるように、花びらがどんどんと絶え間なく流れてくる。栗松はその背中をじっと眺めていた。ゆうひのような宍戸の背中。
おまえもしてみれば。気持ちいいよ。振り向きもせずに宍戸が言うと、栗松は口ごもった。えー、なんか。ごにょごにょと言いながら、それでも宍戸のとなりにしゃがみこむ。宍戸はジャージのそでもまくり上げているので、骨ばったひじやひざが夕日にはえている。痩せたしろい腕。ふとそのしろい腕に自分のそれを並べてみたくなるような、筋が目立つ宍戸の腕。
きたなくね?栗松が水面を見下ろしてぼそりと言うと、えーなにがだよと宍戸はわらう。なんか、おれはやだ。まーいんじゃね。おれおまえのそーゆーとこかっけぇと思うし。なにがだよ。なんか。うん、と宍戸はすこし首をかしげた。なんかおまえって、わかってる、って感じ。今度は栗松が首をかしげる。なにそれ、どゆこと?なんかさー、例えばおれなんかさ、あーこれいいかもーって思ったら、あんま考えずにぱーっと行っちゃうわけ。そんであとからすげー後悔するの。うわーやっちまったーアホだわおれ、みたいな。ひひひと宍戸はわらう。ざばざばと足を動かすたびに、しろい波がやわらかく立って花びらがくるくるとまわる。ずーっと向こうにたくさん桜がさいていて、それが散ると全部全部流れてくるのだ。ここへ。そして、ここを通り越して、海へ。
だけどさ。宍戸は両手を後ろについてからだをそらした。栗松ってそーゆー線引きしてんじゃん。嫌だったらやらね、みたいな。やなことをやだって言えるの、おれはすげーかっけぇと思う。ほめんなよと栗松はしたくちびるをつき出し、別にほめてねーしと宍戸はわらった。しろい腕を伸ばして、栗松のほほにかるくこぶしを触れさせて、だからおれはわりとおまえがすきだよ、と宍戸は言った。宍戸は今後悔してんの。ほほを押さえられたまま栗松は言う。別にしてねーよ。じゃーいーじゃん。おれなんてまいんち後悔してっからね。ひひひと今度はふたりで声をあわせてわらう。
栗松は水面に手を伸ばす。もちろん届きはしない。この花びらってさ、海まで行くのかな。さあ。行くんじゃね。海まで行ったら、どうなるのかな。さあ。魚がくうのかな。おれそこまで考えたことねーわ。栗松は想像する。からだじゅうにたくさん桜を咲かせた魚が群れをなして泳ぐ春の海。さびしい、うつくしい、さびしい、その光景。おれもいつか後悔するよ。どうにもならないことになくんだ。宍戸は手を今度は栗松のあたまに触れさせた。じゃーおれもないちゃるよ。つかさびーと宍戸はざばりと足を水から引き抜く。そのしろいほそい足首に花びらがたくさんはりついていた。さびしい、うつくしい、さびしい、わが身の影をあゆまする石の上。





石の上
宍戸と栗松。
三好達治すきです。
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