ヒヨル バイバイ・ミー 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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焼却炉の前で少林寺が返ってきたばかりのテストをやぶりまくっている。あかの入れられた答案をすべて、文字も読めないくらいにずたずたにしてから最後に焼却炉のなかにつっこんで、金属製の扉をがしゃあんとけたたましくしめた。そうして栗松をふりかえって、仔犬のようなくろ目がちの目をきゅうっと細める。その目にうつる栗松は、こまった顔をして立っている。うえからしたまで栗松をながめた少林寺の眉間に、ちいさなたてじわがよった。
なにみてんだよ。両手で栗松の胸をおしのけながら、少林寺はむっとしたように言う。だってお前。つきのけられて二歩うしろにさがった栗松は、眉尻をさげてすこしわらう。はらいたいって、言ってたじゃん。あんなんうそだよ。腹痛をうったえた少林寺を保健室に見送ったのは、一時間以上も前のことだ。ながい髪の毛が砂ぼこりのまじる風に、ほどくように流されている。しろいカルシウムのつぶのような歯をのぞかせて、ついてきてんなよこの変態、と少林寺はほそい肩をいからせた。わるかった、ごめん。口先だけで謝りながら、栗松はひらいた二歩ぶんの距離を一歩でつめる。もろに反抗期思春期に突入した少林寺は、ここ最近は常時むしのいどころが思わしくない。部活ではそれでも素直な後輩をつらぬいているが、少林寺がいつになくぴりぴりした空気をまとっていることは周知の事実のようだった。いつぶち切れやしないかと壁山なんかは目に見えてびくびくとおびえていて、またそれが少林寺のいらだちをあおる。
手を伸ばして、栗松は少林寺のちいさな手をとる。もうもどろう。ぱっとそれははらわれて、いやだ、という言葉があとにのこった。まるでパフェのうえのミントの葉のようだ、と栗松は思って、それを連想したのが少林寺の手がやたらとつめたかったからだと気づいた。風に吹き散らされて焼却炉につっこまれることをまぬかれた答案のかけらが、ひらりと栗松のあしもとにまいおちる。ふたつ並んだゼロ。顔をあげると少林寺はそっぽを向いて、おれもうなにがやりたいかわかんないんだよね、とひとりごとのように言った。栗松はさ、やりたいこととかあんの。それができたら、うれしーの。棒をのみこんだように、言葉はすきまなくまっすぐに、無機質に、少林寺からおし出される。そうして栗松の胸を、今度はその両手ではなく言葉でつきはなす。
(やりたいこと、なら、あるよ)(それができたらもちろん、うれしいだろうよ)(でもそれを言うとおまえはわらうだろうし)(その前にそれがかなうことなんて絶対に、絶対にないんだから)別にないかなと答えた栗松をおもしろくなさそうに少林寺は見て、おれとおんなじだね、さびしいね、と言った。もどろうと伸ばした手に少林寺がふれることはなく、その指はあかい答案をつまんでひらりと風にほうった。つらいときになけたら、どんなにしあわせだろうねぇ。少林寺の言葉に栗松はかすかわらう。だったらそれは今しかない、と思う。くせに。
少林寺の髪の毛がすこし伸びたことに、自分以外の誰が気づいただろう。そしてその仔犬のような目が追っているひとのことを、自分以外の、誰が。奥歯をかみあわせるとミントをかんだように鼻の奥がつうんとした。なきたいときになこうと思えるだけおれの方がおまえより大人だ、ざまあみろ。






バイバイ・ミー
栗松と少林寺。
ゴーサインが出ましたので、記念にひとつ。
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