女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。
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影野からのメールはいつもみじかい。わかった、か、じゃあまた明日、のどちらかしか少林寺の携帯には入ってなくて、しかも返ってこないことが大半だったりする。疑問形のメールはだいたい返ってこなくて、単純な業務連絡なら、わかった、と返してくれることだけを少林寺は覚えた。影野のメールは影野とおなじくらいそっけなくて、だけどそれでも喜んでしまう。
甘えようと思って甘えれば、きっと影野は甘やかしてくれるだろうと思う。近づきがたいだけでつめたいひとでは、あのひとは決してないのだ。だけど、ただ単純に甘やかしてもらうなんてことは少林寺にはできないのだった。もう、それはできないのだった。ぱかぱかと携帯をとじたりひらいたりしながら、ぐしゃぐしゃに濡れたままの髪を片手でなでる。寝間着がぬれるからきちんと乾かしてから部屋に戻りなさいと祖母はいつも言うのだが、どうにも言うことを素直にきくのが難しい時期だったりする。
ぱかりと携帯をひらいて、新規メール作成画面のしろい画面を呼び出す。それからアドレス帳をひらいて、2をいっかい横キーをいっかい2をよんかい下キーをいっかい、押して影野のアドレスを呼び出した。携帯からインターネットにつないだり、くだらない自己紹介にこころを砕いたりするような愚にもつかない趣味は少林寺にはない。携帯電話はメールと電話だけの道具で、学校以外であのひととつながっていられる唯一のものだ。液晶画面をつるりとそででなでて、だけれど画面はしろいままうまらない。ぶぶぶ、と手のなかでそれがふるえて、思わず少林寺はそれをとり落とした。ひろい上げて画面をきりかえると左上のメールマーク(少林寺はこのアイコンもすきではない。だいたいがつまらない内容だからだ)がきえて、新着メールの画面になる。ぼっとほほがあかくなった。まさに今から送ろうとしていた相手のアドレスが、未開封のアイコンとならんでいる。
『忘れ物を預かっています。明日渡します。じゃあまた』
「ありがとうございます!わざわざすみません!なに忘れてましたか?」
親指がふるえる。ぐしゃぐしゃにぬれた髪の毛から、ぽたりとしずくが布団におちる。疑問形で返しても、このひとからの返事はこない。こないこないこない。土門の目があたまをよぎる。わらっていたろうか。わらっていたのだろうか。やさしくされてそれを、おれがよろこんでいるとでもおもったのだろうか。
だん、と畳をふんで少林寺はたち上がる。携帯を振りかぶって思いきり投げたら、ふすまを破ってぼたりとおちた。髪の毛のしずくがまるで星のようにあちこちに飛び散って、首すじをつたうそれがつめたかった。どこにも自分は行けない。この部屋からさえも出られない。
携帯のバイブが鳴った。ひろい上げてひらいて電源をおとす。あのひとからでないのなら、誰からの電話もメールもいらない。穴のあいたふすまを少林寺はうつろな目でながめた。あのとき床にころがった携帯をおおきな甲虫の死骸のようだ、と思って髪の毛をまたなでる。しずくがまとわりついてひじまで流れていった。自分はどこにも行けない。この部屋からも出られない。土門がわらっていたのならそれはなぜだろうか。少林寺にはもうなにも考えられない。死骸はあのひとに会いたいとなくのに。わずらわしいほどいつまでもなくのに。
(ああ、こないこないこないこない)
(なきたいのはおれだよ。ばかやろう)
手紙の雨
少林寺。
あとひとつ書いて、いったん区切りをつけます。
甘えようと思って甘えれば、きっと影野は甘やかしてくれるだろうと思う。近づきがたいだけでつめたいひとでは、あのひとは決してないのだ。だけど、ただ単純に甘やかしてもらうなんてことは少林寺にはできないのだった。もう、それはできないのだった。ぱかぱかと携帯をとじたりひらいたりしながら、ぐしゃぐしゃに濡れたままの髪を片手でなでる。寝間着がぬれるからきちんと乾かしてから部屋に戻りなさいと祖母はいつも言うのだが、どうにも言うことを素直にきくのが難しい時期だったりする。
ぱかりと携帯をひらいて、新規メール作成画面のしろい画面を呼び出す。それからアドレス帳をひらいて、2をいっかい横キーをいっかい2をよんかい下キーをいっかい、押して影野のアドレスを呼び出した。携帯からインターネットにつないだり、くだらない自己紹介にこころを砕いたりするような愚にもつかない趣味は少林寺にはない。携帯電話はメールと電話だけの道具で、学校以外であのひととつながっていられる唯一のものだ。液晶画面をつるりとそででなでて、だけれど画面はしろいままうまらない。ぶぶぶ、と手のなかでそれがふるえて、思わず少林寺はそれをとり落とした。ひろい上げて画面をきりかえると左上のメールマーク(少林寺はこのアイコンもすきではない。だいたいがつまらない内容だからだ)がきえて、新着メールの画面になる。ぼっとほほがあかくなった。まさに今から送ろうとしていた相手のアドレスが、未開封のアイコンとならんでいる。
『忘れ物を預かっています。明日渡します。じゃあまた』
「ありがとうございます!わざわざすみません!なに忘れてましたか?」
親指がふるえる。ぐしゃぐしゃにぬれた髪の毛から、ぽたりとしずくが布団におちる。疑問形で返しても、このひとからの返事はこない。こないこないこない。土門の目があたまをよぎる。わらっていたろうか。わらっていたのだろうか。やさしくされてそれを、おれがよろこんでいるとでもおもったのだろうか。
だん、と畳をふんで少林寺はたち上がる。携帯を振りかぶって思いきり投げたら、ふすまを破ってぼたりとおちた。髪の毛のしずくがまるで星のようにあちこちに飛び散って、首すじをつたうそれがつめたかった。どこにも自分は行けない。この部屋からさえも出られない。
携帯のバイブが鳴った。ひろい上げてひらいて電源をおとす。あのひとからでないのなら、誰からの電話もメールもいらない。穴のあいたふすまを少林寺はうつろな目でながめた。あのとき床にころがった携帯をおおきな甲虫の死骸のようだ、と思って髪の毛をまたなでる。しずくがまとわりついてひじまで流れていった。自分はどこにも行けない。この部屋からも出られない。土門がわらっていたのならそれはなぜだろうか。少林寺にはもうなにも考えられない。死骸はあのひとに会いたいとなくのに。わずらわしいほどいつまでもなくのに。
(ああ、こないこないこないこない)
(なきたいのはおれだよ。ばかやろう)
手紙の雨
少林寺。
あとひとつ書いて、いったん区切りをつけます。
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