ヒヨル きかく 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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考査前は部活動が禁止されて図書館が混む。しかし閉館直前で今はまばらな人影の中、目金は読んでいた本を閉じて立ち上がった。目金は試験のための勉強なんてしない。がたんと椅子が鳴って、あ、とちいさな声がする。振り返らなくてもわかっていた。そこには音無がいる。
いいかげんぼくをつけ回すのはやめませんか。視線の先で音無は肩をこわばらせる。違うんです、そんなつもりじゃ。じゃあなんですか。目金はすうっと目をほそめる。音無はなにも言わない。そういう類の言葉をもたないことを、目金はちゃんと知っていた。違うんです。半端にわらって視線をおよがせ、髪をなで、てのひらをこすり合わせて、ようよう音無は言う。そんなつもりじゃ、ないんです。目金が呆れて目をそらすと、あの、と今度は呼び止めてくる。まだなにか?あからさまにうっとうしいと訴える目金の視線を、音無は受けた。それ、なんて本ですか。手の中の本を音無は指す。いちどそれを見下ろして、目金は眉をひそめる。それだけですか。いけませんか。そんなことでぼくを。音無は目金をまっすぐに見る。いけませんでしたか。その嫌悪感を目金は隠しもしない。目金は彼女がきらいだ。そんなことでぼくをつけ回してたんですか。ほそいため息に、音無は答えない。
目金の指が本をくるりと持ちかえる。いいでしょう。え?これはあなたにあげます。音無が目をまるく見開く。ぼくはもう読み終わりましたから、くれぐれも返したりしないでください。持ちかえた本を、目金は音無のしろい指にすべり込ませてやる。いくつもの絆創膏がまきついた指を、目金は見なかったことにした。どうでもいいことだ。些細なことだった。音無と同じくらい。その思いと同じくらい。音無の指がちいさくわななく。そこに収まるあおいキャッチャーインザライ。先輩。はい?ありがとうございます。音無は見開いた目を、たぶん無理やりほそめてわらう。わたし、うれしいです。鞄を肩にかけて、目金はそうですかと言った。ぼくには必要なかったものです。音無がそれを抱きしめる。ふっくらとしたほほがわらう。このひとなら面白いと思うのかもしれないと目金は思った。ゆきすぎた感情の爆発を。
部屋を出る前にちらりと振り向くと、音無があたまを下げた。そうして突っ立ったまま、目金を見ている。ライ麦畑できみが逃げても、ぼくは決して捕まえない。コールフィールドがちいさな子どもたちに、そうしたいと願ったようには。目金は後ろ手でぴしゃんと扉を閉めた。音無はライ麦畑で手を伸ばしている。だけれどぼくはその前に崖から落ちますよ。すみませんね、サリンジャー。
目金は音無がきらいだった。目金のしてやった気まぐれをうれしいとわらう、そんな音無がきらいだった。しろい指にまきついた絆創膏とあおいライ麦畑、その夜。けしてけしてけしてけしたかった。けして音無をまっさらにしたかったのだ。あんな些細な思いまで、けしてけしてけしてまっさらに、したかったのだ。





はたの捕縛
目金と春奈。
静かな拒絶の奥。
たなさんが書いてくださったものより、あからさまに濁っています。
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練習が休みになったある日、松野は出不精の影野をむりやり引っぱり出した。行き先はスイーツ食べ放題、イチゴフェア開催中をうたい文句にしたカラフルなレストラン。家から出すのにもよっぽど苦労したのに、店構えを見たとたんに影野はいやそうな顔をする。はやく来いよと松野は声をかけて自ら扉を押し開けた。九十分食べ放題。魅惑的なその響きに、魅惑的なオレンジのエプロンのおねえさん。席につくなり松野は立ち上がる。食べなきゃ損だ。ケーキを皿に積み上げながら影野をちらりと見ると、席に座ったまま動こうとしない。手の中にはウーロン茶のグラスがひとつ。
ようやく席について、いちごのタルトをひとくちでほお張る。くわねーの。いらない。くえよ。おまえがあまいのきらいなのは知ってるけどと松野は次はショートケーキを口におしこむ。カラフルなケーキが満載された皿を見てあからさまにいやそうにくちびるを曲げて、それでも松野があまりにもにらむので影野は立ち上がる。大皿ふたつに山ほど積まれた松野のケーキとは逆に、影野は小ぶりのまるい皿に、ヨーグルトと杏仁豆腐ふたつきり乗せて戻ってきた。うえに乗ったミントごとヨーグルトをまぜる手つきがひどくゆっくりで、それがまた松野をいら立たせる。なにおまえ、葉っぱもくうの。くうよ。悪趣味。あっという間に皿をからにして松野はまた立ち上がる。
な。これくってくんね。影野とおなじものプラスアルファを取ってきて、松野はそのうえのミントをスプーンの先でさす。いやだ。なんでよ。それは松野のだろ。いやならよけろよと言い残して影野は席を立つ。松野はスプーンでミントを全部よけた。アプリコットも、ひまわりの種も。全部。親のかたきのように取り去って、松野はその残りを悠々とたべる。戻ってきた影野にそれを押しやって、な、と松野はわらう。くって。影野はフォークを取り上げる。クリームやヨーグルトでよごれたそれらをまとめてすくい上げ、うすくひらいたくちびるに吸いこむのを、松野はだまってながめていた。おまえくやしい?別に。おれのくいかけ。きひひと松野はわらう。おれはわりとうれしい。悪趣味だなと影野は言う。にこりともせずに。そのながい髪のしたから、影野はきっとだけど松野を見ていない。じん。松野は声をあげる。ありがとう。
あまいにおいの立ち込める陳列台のそばに立って振り向いたとき、影野はほおづえをついて壁にかかったダリのレプリカをながめていた。なにがおもしろいのか松野にはわからない。その絵になにが描かれているのかも。ひとつだけわかることは、影野が松野の望むなにがしかをしてくれたことなんて、ないというそれだけだった。あーやなもんみちったと松野は視線をそらしてトングをにぎる。皿のはしで影野がつかったフォークがひかっていた。あれであいつの目玉を突き刺してくってやりたい。どんなにかにがくて、それはまずいことだろう。






燃えるキリンと宇宙象
松野と影野。
原型消えました。そしてなにもしなくてもちょっと病んだ雰囲気のふたり。
たなさんとの企画文でした。
部活動が禁止されている考査前の図書室に、いまは目金とまばらな人影しかない。がたんと音を立て目金は椅子を立つ。あ。と聞こえる小さな声。後ろには音無がいる。振り返らなくてもわかっていた。
いい加減つけまわすのは止めてもらえませんか。ちがうんです。そんなつもりじゃないんです。じゃあどんなつもりなんですか。目金は音無が返す言葉なんてもたないのを知っていた。そんなつもりじゃないんです。もういちど音無は答える。じゃあどんな。同じ時間をくり返し音無がようやく口にしたのは先輩が読んでいる本のことなんて言うありていの言葉で、目金は眼をほそめる。そんなことでぼくを。いけませんか。音無は目金のあからさまにむけられた嫌悪をまっすぐに見つめようとする。目金は音無のことがすきではない。そんなことでぼくを。たたみかけた言葉に音無は答えない。
いいでしょうこの本、あなたにあげます。え?ぼくはもう読み終わりました。手に持っていた新書版を音無のゆびに滑り込ませる。そのゆびにはいくつか絆創膏が貼られていたけれど、そのすべてに目金は感慨ももたなかった。あおい表紙のキャッチャーインザライも目金にとっては、目の前でかすかにふるえている音無とおなじように、なにもなかった。ありがとうございます。いいんです、ぼくにとっては面白くなんてありませんでしたから。はあ。あなたなら面白いと思うのかもしれませんね。どうでしょう。音無のゆびのなかあおい表紙はないているように見えた。
先輩。わたしうれしいです。そうですか。目金は椅子に置いてあったかばんをつかんだ。ぼくもう帰りますから。はい。あおい表紙を持ったまま音無は立っている。むぎばたけのかかしのように立っている。目金はひとの心情をよみとりたいなんて思わない。頭を下げている音無のすがたも見たくない。閉めた扉ごしにさえ、けして。






はたの捕縛
目金と春奈。
静かなる拒絶。

Tanapps!のたなさんが書いてくださったものです。

感謝企画。
夢見ガチさまリクエスト、土門と目金。
リクエストありがとうございました。

続きに本文。

感謝企画。
納谷亜さまリクエスト、宍戸の家族設定。
リクエストありがとうございました。

続きに本文。
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