ヒヨル きみをつれてゆけない 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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感謝企画。
夢見ガチさまリクエスト、土門と目金。
リクエストありがとうございました。

続きに本文。


目金のぴょんと左右にはねるくせっ毛を、よく少林寺はつかんでひっぱる。ぴよぴよ、というなぞの擬音と、それをかき消すいたいいたいいたいいたいという目金の声。あああ、もう。あなたは。あかい顔をして髪の毛を押さえる目金と、きひひ、とわらう少林寺。だけどこれを、ふたりはみんなの前では絶対にしない。たまにある、ふたりとかさんにんとかよにんとか、ほんの少ない人数が、部室に残ってしまったとき。あるいは、部活がはじまるまえの少しばかりの空白。そこを埋めるように少林寺は目金のくせっ毛に手を伸ばすし、あたまのいいくせに学習しない目金は隙だらけでいたいいたいとわめく。円堂はそれをまねたがって手を伸ばすし(そして目金はヒステリックに怒る)、宍戸はもーやめたげなよとあきれた顔をしてそれを見る。松野はそんなきめぇの触りたくもねーよと毒づいて、そして土門はわらう。そんなとき少林寺は絶対にわらわない。そして絶対に自分からは手をはなさない。いたいいたいほんとやめてと目金はさんざん抵抗し、結局影野あたりがやんわりとそれをとめてやることになる。少林寺は土門がきらいだ。
ねーかけるちゃん。土門はこわれかけたパイプ椅子をぎちぎちと揺らしながら、奥のベンチで背中をまるめて携帯ゲームに目を落としている目金を見る。なんですか。ボタンを動かすかちかちというかすかな音のすきまに、目金の声がまぎれこむ。今日の鍵当番は目金で、それは土門が帰らないとできないのだった。神経質なちいさくとがった文字がならぶ部誌を、土門は学ランのそでをまくってぱらぱらと開く。かけるちゃん書道とかやってたことある。ないです。ふーん。字ぃめっちゃきれいだよね。どうも。勉強してるから。それはないです。でもあたまいいよね。関係なくないですか。土門はこの間の、つまらないけんかを思い出していた。一位。目金欠流。500。衝撃的だった。五教科を完璧に仕上げてもなお、うれしくもなんともなさそうだったそのしろい横顔。ばしんと叩いた背中があまりにもうすっぺたくて、それでも驚いたのだ。おれちょっとかけるちゃんのことうらやましーって思った。なにがです。おまえさーサッカーなんかできなくてもいいんだろ。そう言うと、まるまった背中がすこし伸びて、肩ごしにしろい顔がのぞいた。ぼくがうらやましい、ですか。そのくちびるはわらいもしない。レンズにしたからうつるカラフルな光が、ふ、と消えた。
ぼくは週に一度、秋葉原に行かないと満足できません。目金は突然、そんなことを言う。あと、ガチャガチャを見つけたら千円は突っ込まずにいられません。土門は目をまるくする。漫画やゲームのジャケ買いなんて当たり前です。プレミアボックスという言葉にはときめきが押さえられませんし、新シナリオ追加版なんて即買いします。新ボカロ発売日は、寝ずにニコ動と2ちゃんに貼り付いていました。フィギュアはよく吟味して、顔がいちばんかわいいのを必ずふたつ買います。DVDは通常版限定版ブルーレイディスク全部につぎ込みますし、ボックスが出たらそれも買います。アニメの通常録画なんて当たり前ですし、最近は深夜番組もたくさんありますからぼくの睡眠時間は削られる一方です。おまけに早朝アニメのチェックもありますし、それに狩りにも行かなきゃいけない。それだけを一気にしゃべって、それでも目金のくちびるがわらわない。あなたはぼくをうらやましいと言います。ぼくはあなたがうらやましい。あなたにはサッカーがある。ぼくにはそれがない。勉強もアニメもゲームも漫画も、ここではなんの価値もないんです。あなたがした同じことを、たとえばぼくがしたなら。そこで目金は中指でフレームを押し上げる。しろくてほそい、いっそ繊細な指。みんなはぼくを許しはしなかったでしょう。
少林寺はそのちいさな手で目金にまとわりつく。目金はそれをいやがらない。土門が捨ててしまったものを、目金は今さらひろいあつめている。たったひとりで、ゆっくり、ゆっくり。それでもぼくがうらやましいと言うなら、ぼくはあなたを理解できませんね。目金のくちびるが、くっと弧をえがく。はやく出て行ってください。鍵が閉められません。でも。土門は椅子から立つ。できなくてもいいんだろ。ええ。いいんです。なんで。だって。目金はゲーム機をかばんに押し込む。ぼくにはそのほかのものがある。ぼくには、それしかないんです。
目金は嫌われている。友達はほとんどいないという。同じくオタク趣味のグループとつるんで、過去にひどくいじめられたこともあると聞いた。目金の耳のうしろには、よく見ないとわからない傷がある。なにかをつき刺されたような、あかぐろいみかづきの形の傷。背中を叩いたとき、土門はそれに気づいていた。そしてそれに触れたいと思った。くせっ毛をつかんでその傷をかくす、少林寺のちいさなてのひらのように。
はやく出て、と繰り返した目金の腕を、土門は後ろからつかんだ。ほそいほそい腕だった。目金は振り向きもしないし、薄暗い部室は墓場のようだった。きみがうらやましい、けれど。
(きみをつれてゆけない)




きみをつれてゆけない
土門と目金。
ほんの些細なことで永遠にすれ違うふたり。
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