女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。
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きみとは笑顔で出会いたかったのです。
だけどおれはおこってばっかりだったのです。だから。
「染岡」
(きみがおれを呼ぶたびにおれはかなしかったのです。)
染岡はかすかに目をほそめて閉じた。窓の外にはいまにも咲きそうな桜がいくつもならんでいる。
情けなくてださいださいださい、と思う。もうすぐ春になってしまうのに。
もうすぐはなればなれになってしまうのに。
窓の外の桜が咲くころに、このこころとこのきもちがどうにかなるものならば。
でもそれはかなうわけがない。
いままでかなわなかったことが、みじかい時間でかなうわけがないのだ、と知っているから。
せめて笑顔で別れることが出来れば、はなればなれになったとしても。
呼び声に目を開けず、染岡は影野のかおをおもう。
そのとき、つめたい手がうしろから染岡の耳をおおった。びくりと肩をこわばらせて染岡は振り向く。
「ちょっおま、なに」
振り向くと影野がぬうぼうと立っている。つめてえと耳をこすると、ごめんとかすかにわらう。
おれがわらうよりも先に、影野はやわらかくやわらかくわらうもので、つられてくちびるをゆるめた。
こういったいつもの景色が、これからはいつもではない景色にかわってしまう。
その前にいちどだけでいいからやさしくわらうことが出来れば。
きみのことをおもってやさしくわらうことが出来たなら。
笑顔で出会えなかったむかしをなつかしいとおもえるような気がして。
ゆるめたくちびるをそのまま持ち上げようと、思って。
「ごめん」
その言葉に染岡のくちびるがかたまる。その視線の先で困ったようにさびしそうに、影野はわらう。
染岡にふれたしろい手をこすりあわせて、そうしてそっと指さきで髪の毛をなでる。
眉間にしわをきざんで、染岡は振り向いた。
「おまえ、さむいの」
「え」
「おまえの指が」
さむそうに見えた、と言う前に口の動きを止める。
その言葉を言ってしまえば、先にすすむ以外の道はなくなってしまう。
振り返ることが出来ないのならば思い出さえも、このまま消えてしまうような気がして。
けしてうつくしいものではなく、どろどろとしたみにくいものをも全てまぜて、存在するものでも。
染岡、と影野はもう一度呼ぶ。しろい指先を、もういちど髪の毛にすべらせて。
「覚えてる」
「なにを」
染岡はいちばんさいしょにもおれにおんなじことを言ったよ、と、そう言って影野は、そっとわらう。
覚えてる。おれはそのあと、染岡にすごくおこられた。
その指はどろどろしたみにくいものをまぜる。まぜて、まぜて、染岡にも見えるようにしてしまう。
(覚えてる)
(覚えてないわけがない)
つめたい指を、つめたいままにひとりうみの底に沈めてしまう。
そのすがたを嫌って何度も影野をおこった、いまはもうとおい日。
届かないゆびを、しまったこころを。
一度だけでも影野が、見せつけるのではなくはくじつの元にさらしてくれたのならば。
染岡は届かないゆびを追いたいとおもいかなうことはなくこの日をむかえて、やはりおこることしか出来ないでいる。
せめて笑顔でと、さいごの願いをひとりうみの底におれも沈めた。
「いままでありがとう」
沈めて
「覚えててくれてありがとう」
沈めて
「またどこかで会おうね」
沈めて
「染岡」
ばいばいと影野はわらった。ごめんに似たやさしく困った顔でわらった。
きみがおれを呼ぶたびにおれはかなしかったのです。
きみがおれを呼ぶときおれはいつもきみのなにかを失うからかなしかったのです。
メヌエット
染岡と影野。
たなさんと一緒。
だけどおれはおこってばっかりだったのです。だから。
「染岡」
(きみがおれを呼ぶたびにおれはかなしかったのです。)
染岡はかすかに目をほそめて閉じた。窓の外にはいまにも咲きそうな桜がいくつもならんでいる。
情けなくてださいださいださい、と思う。もうすぐ春になってしまうのに。
もうすぐはなればなれになってしまうのに。
窓の外の桜が咲くころに、このこころとこのきもちがどうにかなるものならば。
でもそれはかなうわけがない。
いままでかなわなかったことが、みじかい時間でかなうわけがないのだ、と知っているから。
せめて笑顔で別れることが出来れば、はなればなれになったとしても。
呼び声に目を開けず、染岡は影野のかおをおもう。
そのとき、つめたい手がうしろから染岡の耳をおおった。びくりと肩をこわばらせて染岡は振り向く。
「ちょっおま、なに」
振り向くと影野がぬうぼうと立っている。つめてえと耳をこすると、ごめんとかすかにわらう。
おれがわらうよりも先に、影野はやわらかくやわらかくわらうもので、つられてくちびるをゆるめた。
こういったいつもの景色が、これからはいつもではない景色にかわってしまう。
その前にいちどだけでいいからやさしくわらうことが出来れば。
きみのことをおもってやさしくわらうことが出来たなら。
笑顔で出会えなかったむかしをなつかしいとおもえるような気がして。
ゆるめたくちびるをそのまま持ち上げようと、思って。
「ごめん」
その言葉に染岡のくちびるがかたまる。その視線の先で困ったようにさびしそうに、影野はわらう。
染岡にふれたしろい手をこすりあわせて、そうしてそっと指さきで髪の毛をなでる。
眉間にしわをきざんで、染岡は振り向いた。
「おまえ、さむいの」
「え」
「おまえの指が」
さむそうに見えた、と言う前に口の動きを止める。
その言葉を言ってしまえば、先にすすむ以外の道はなくなってしまう。
振り返ることが出来ないのならば思い出さえも、このまま消えてしまうような気がして。
けしてうつくしいものではなく、どろどろとしたみにくいものをも全てまぜて、存在するものでも。
染岡、と影野はもう一度呼ぶ。しろい指先を、もういちど髪の毛にすべらせて。
「覚えてる」
「なにを」
染岡はいちばんさいしょにもおれにおんなじことを言ったよ、と、そう言って影野は、そっとわらう。
覚えてる。おれはそのあと、染岡にすごくおこられた。
その指はどろどろしたみにくいものをまぜる。まぜて、まぜて、染岡にも見えるようにしてしまう。
(覚えてる)
(覚えてないわけがない)
つめたい指を、つめたいままにひとりうみの底に沈めてしまう。
そのすがたを嫌って何度も影野をおこった、いまはもうとおい日。
届かないゆびを、しまったこころを。
一度だけでも影野が、見せつけるのではなくはくじつの元にさらしてくれたのならば。
染岡は届かないゆびを追いたいとおもいかなうことはなくこの日をむかえて、やはりおこることしか出来ないでいる。
せめて笑顔でと、さいごの願いをひとりうみの底におれも沈めた。
「いままでありがとう」
沈めて
「覚えててくれてありがとう」
沈めて
「またどこかで会おうね」
沈めて
「染岡」
ばいばいと影野はわらった。ごめんに似たやさしく困った顔でわらった。
きみがおれを呼ぶたびにおれはかなしかったのです。
きみがおれを呼ぶときおれはいつもきみのなにかを失うからかなしかったのです。
メヌエット
染岡と影野。
たなさんと一緒。
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