ヒヨル 黄泉ヶ辻 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

不健康なその肌の色を見るたびに、気が滅入って仕方がない。宍戸が薄っぺらな手のひらの間でサッカーボールを揉むように回している。泥がさあっとこびりついたボールを、ひとさし指を軸のようにしてくるくると回転させ、一度地面に弾ませてから膝で打ち上げてまた受けとめる。その膝にまるく骨が出っぱって、いつ怪我をしたことやらうす汚れた絆創膏がべったりとはりついていた。それどうした。気だるい調子で染岡が尋ねても、宍戸は黙々とボールを回している。おい。やや強い語調でふくらはぎをかるく蹴ると、うぇ、と変な声をあげて宍戸はようやく振り向いた。えあ、あ、おれっすか。あ、あーボール。あー。染岡に蹴られたことに動揺したのか、宍戸から離れていったボールはでこぼこのグラウンドを転がって水たまりにひたった。あーあー。宍戸は後ろあたまを掻きながら、泥水に浮かぶボールを見おろす。染岡さんのせいっすよ。おれかよ。仕方なく染岡も宍戸の隣に立ってそれを見おろした。染岡のきれいに筋肉がついた腕に並んだ宍戸の腕は、野ざらしの骨みたいに痩せてくすんでいる。
やーもーまじやめてくださいよ。宍戸はだるそうに首を回して、ゆっくりとその場にしゃがんだ。指を伸ばしてひたひたに濡れたボールに触れる。あーあー。なんだよおれがわりぃのかよ。完全に染岡さんのせいじゃないっすか。あーと宍戸は喉の奥でうめくような声をあげ、泥水をしたたらせるボールを持ち上げた。おまえのリフティング下手なんだよ。見てらんねぇ。ひっでぇ。宍戸は形ばかりかすかにわらい、ずぶ濡れのボールをまたゆっくり回した。宍戸の手のひらは枯れかけた木の葉に似ている。筋と血管の目立つ、くたびれたつめたい手のひら。おとなしーィ。宍戸が突然声をはり上げたので染岡は驚いた。わりー。水たまりに落とした。なにやってんのよもー傷むからやめてって言ってんじゃん!さっくんのばか!ボールを持っていったとたんに音無のローキックをくらって宍戸が沈む。だーもーおれのせいじゃねって。その言葉に音無が染岡をにらんだので、染岡は慌てて首を振った。
音無が怒りながら行ってしまうのを見送って、染岡は尻を払って立ち上がる宍戸に手を伸ばした。指が軽々と回ってしまう腕をつかんでひっぱり起こすと、ひゃひゃひゃ、と宍戸はだらしなくわらう。あざっす。あー、や、わりい。いいっすよ。宍戸は空いている腕をかくかくと振った。あおい静脈が川のようにだらだらと流れる宍戸の腕。いいんすよ。無言の染岡に、ふふふ、としずかに宍戸はわらう。そのくちびるがあまりにやわらかにわらうことに、そのすんなりと切ないことに染岡はいつでも苦しくなるのだった。不健康な色の宍戸のひふから、染岡の指が冗談みたいに浮き上がっている。ああ。染岡はふと、水がしみこむほどにはっきりと理解する。気が滅入るのは宍戸が受け入れてしまうからだ。どこにゆくにしても、なにを言われても。
あの。宍戸はそっと視線をめぐらせた。染岡さん、離して。その言葉に染岡は弾かれたように宍戸の腕を離した。ああああ、あ、わるい。や、いいっす。宍戸はさりげない調子で染岡がつかんでいた場所を木の葉の手のひらで撫でる。そこにあおぐろくあざが浮かんでいた。まるで代わりの目玉のように。おまえって。染岡は言いかけて口をつぐむ。口にしたら逃げてしまうもの、を、逃がさないようにしっかりと握りながら。宍戸は首をかしげ、足元に転がるボールを拾い上げた。さっきみたいに指で回し、それをしながらひとりごとみたいに言う。どーしょーもないって、つらいっすね。その言葉の重みを量りかね、染岡は黙った。おれ、染岡さんにだけは気づかれたくなかったのに。どうして、と問いかける前に、その答えはもう染岡の中にあった。逃がすまいとつかんだ手のひらの中で、あわれに苦しくもがいている。中学卒業して高校行って大学とか行っても、あんたにだけは二度と会いたくないっす。そう言う宍戸の横顔がさびしくやさしくわらっていた。
宍戸の手のひらから泥水が涙のようにしたたっている。染岡は右足をかるく引いた。ほそい脇腹を思いきり蹴りつけるその瞬間にすべては逃げていってしまって、だけど染岡にはそれ以上は必要なかった。それこそがあの瞬間の答えだったのだ。グラウンドに転がる骸のようなからだを、やっぱり気が滅入るな、と染岡は見下ろす。絆創膏がべろりと剥がれて、ぐずぐずの傷口が覗いた。死んだように寝ころんだまま、宍戸は遠くを見つめている。髪の毛に隠れた目がまばたきをするのが見えたような気がして、染岡はいそいで目をそらした。宍戸といると苦しい。(でもそれは理由ではない。)葛藤がゆっくりと、ふたりの終わりに近づけてゆく。すり減らすだけの毎日さえも、宍戸はわらって受け入れてしまうのに。







黄泉ヶ辻
染岡と宍戸。
リクエストありがとうございます。わたしもこのふたりすごくすきです。
PR
[264]  [263]  [262]  [261]  [260]  [258]  [256]  [255]  [254]  [253]  [252
カレンダー
09 2024/10 11
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
プロフィール
HN:
まづ
性別:
非公開
自己紹介:
無印雷門4番と一年生がすき。マイナー愛。

adolf_hitlar!hotmail.com

フリーエリア
アクセス解析

忍者ブログ [PR]