ヒヨル 反逆エトランジェ・彼ら 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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一年生と二年生の時間割がずれる日に、担任が早めにホームルームを切り上げたりすると影野は憂鬱になる。一年生の方が先に授業を終える日の部室はやけに親密でゆるやかな空気で満たされていて、そこに入っていくのはあまりひとの感情の機微に聡いわけではない影野の足さえ鈍らせてしまう。そのがらくた入れみたいな空気は扉を引いたとたんにひび割れて跡形もなくなってしまうし、さらに後輩たちはおかしな具合に緊張してさっぱり会話なんかしなくなる。影野は後輩たちがいつつのあたまをつき合わせてごちゃごちゃしゃべっている、そのくすぐったいようなひとときをこのもしいと思っているので、それが自分によって壊れてしまうことが単純に嫌だった。無情にも担任はホームルームをあっという間に終わらせてしまう。放課までまだ十五分近くも残したままばらばらと席を立つクラスメイトにあわせて、影野も重たい腰を上げた。
部室の前まで来ると、話し声がもれて聞こえてくる。ときどきかん高い声を上げているのは音無だろうか。ああ。影野は鞄をゆすり上げる。憂鬱だ。松野や染岡みたいには後輩を邪険に扱わないし、むしろなにを咎めることもしない影野は後輩たちに疎んじられることはない。ただ特別親しいわけでもなく、誰にでも平等に親切な壁山が穏やかに気遣ってくれたり、興味だか好奇心だかで寄ってくる少林寺をかまう程度だった。面倒くさがりの宍戸は親しい数人以外には近づかないし、先輩嫌いの栗松や音無とはたぶんまともに話したこともない。憂鬱だ。それでもいつまでも部室の前に突っ立っているわけにもいかず、影野は扉を引いて開けた。空気が一瞬でかたまる。そっとロッカーを回り込むと、顔を上げた五人がばらばらに挨拶を寄越した。
鞄をなるべくしずかに置くと、先輩、と壁山が影野を呼んだ。ちょっといいっすか。なに。影野は首だけで振り向いた壁山のおおきな背中に歩み寄り、まるくすわった五人の輪の中を覗き込んだ。中心にコートの絵を描いたホワイトボードが置かれてあり、そこに名前の書かれたマグネットがいくつか貼られている。風丸、と書かれたあおいマグネット(DFのものだろう)を音無が持っていたので影野は思い出す。今度の練習試合と陸上の記録会が重なってしまって、風丸は陸上に出ることになっていた。今度の試合、DF足りないんすよ。壁山が困ったようにそう言い、他の四人は難しい顔でホワイトボードを見下ろしている。先輩の意見も聞きたいんす。円堂は。おまえらでやっとけって。音無が首をかしげる。でもきっと意見程度ですねー。オーダー予想みたいなものです。
やけに快活に言う音無にあーと影野がうなづくと、だからさーやっぱりこうだって、と少林寺が松野と書かれたオレンジのマグネットをDFの位置まで下げた。いやでも上がってくるしょ、あのひとなら。そう言って宍戸が指でそのマグネットをFWまで押し上げ、やっぱおれかなぁ、と自分のマグネットをDFにずり下げる。壁山と栗松がまん中やってくれたらできるんじゃね。先輩もいるし。あー、じゃ、これは。栗松が目金と書かれたしろいマグネットをDFに置き、宍戸をMFに戻す。ザ・無難。えーこれ無難ー?宍戸と少林寺が不満そうな声をあげ、だったらこの方がましだって、と少林寺が松野をDFに下げて目金をFWに上げる。ええーこれもどうかと思うけど。つかあゆむ松野さん嫌いな。ボールと一緒に蹴っ飛ばしてくるから離れてほしいんだよ。ふふ、と思わずわらうと五人が揃って影野を見たので思わずひるんだ。あ、ごめん。先輩はどうっすか。壁山が促したが影野はかるく手を振って、もう少し考えてもいいかな、と言った。壁山はやさしい調子でうなづき、五人はまた議論に戻る。
戦力外の目金をどこに置くかにこだわる栗松(なるべく邪魔にならないとこに立っててほしいらしい)と、できるだけ松野と離れてプレイしたい少林寺はかみ合わず、さらにより堅実な方法を選ぼうとする宍戸の意見は面白いようにすれ違った。だったらおれがDF下がる、と気短なことを言う少林寺をふたりが一蹴し、しかし目金をDFに置きたがる栗松と、自分か半田をDFに下げるべきだという宍戸はどちらも譲らない。ここでいっつも詰まるんすよねぇ。壁山がのんびりした口調で言う。おれはDFやりたいひとがやればいいんじゃないかって思うんすけどねぇ。うん。影野はうなづいた。音無は。え、あたしですか。うーんと音無は考えて、いっそあたしが出ましょうか、とわらった。それもいいかもね。影野もやわらかくわらい、ちょうどそのとき扉が開く音がした。
無言で入ってきた円堂に影野はかるく手を挙げ、壁山と音無は会釈する。クッキーフレーバーを噛んでいる円堂は影野を押しのけ、壁山の肩に手をついてぐっと身を乗り出した。そこではじめて三人は円堂に気づいたらしく、それぞれ間延びした挨拶を投げかける。これ。円堂はフレーバーの食べかすがついたくちびるを親指で拭い、そのまま手を伸ばした。目金と松野をFW、栗松をMF、あとはいつも通り、にマグネットを並べかえて、円堂は手を払う。栗松MFやれ。さらにその手を横に伸ばして、音無に飲み物を催促しながら円堂は言う。人数足りないでやんすよ。DFはふたりで足りる。相手傘美野だろ。(と音無を見た。音無はポカリを渡していそいでうなづく。)十点入れて勝つからと円堂は離れていった。染岡と豪炎寺は二点であとのFWとMFは一点ずつ。できなかったらグーパンな。
五人はなんとも言えないような表情を見合わせ、いっせいに影野を見る。え。影野はうろたえ、すこし考えてから、じゃあそれで、と言った。それでもいかにも腑に落ちない顔をしている五人にちょっとわらいかけ、大丈夫だよ、とつけ加える。まぁ、やるだけやろうか。はーいと気だるげに後輩たちは腰を上げ、ボールを手にばらばらと部室を出ていった。音無が壁のいちばん目立つところに引っかけたホワイトボードを影野はちょっと指で撫でる。コートの線がにじんであたふたしていると、もー先輩触っちゃダメですよと音無がそれを描き直した。ごめんと謝って自分もボールを手に取り、影野は幸福なため息をついた。今日はたくさんしゃべった。後輩たちといると楽しい。せんぱぁいと外から壁山が呼ぶ。今いく、とぼそりと声を上げると、おまえ声まで地味なのなーと円堂が愉快そうにわらった。







反逆エトランジェ・彼ら
影野と一年生。
リクエストありがとうございました。影野は何だかんだで一年生すきだといいなぁと思っています。
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