ヒヨル 寒馬チャイルド 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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木曜日の練習後、円堂がバインダー片手に部室から顔を覗かせ、壁山と影野居残りなーと言い残してまた引っ込む。あーと影野は壁山を見た。日曜?そうっす。練習試合の日程だ。それぞれがトンボを手にグラウンドをならしているときも、円堂は部室にこもったまま出てこない。手早く整備を済ませ、円堂と影野と壁山以外のメンバーはできるだけ急いで着替えて部室を出る。練習試合を控えた週には必ずいちにちこういう日があって、円堂とDF確定のメンバーだけが居残ってフォーメーションを練ることになっている。ふたりか。影野がぽつりと言うと、めずらしっすねえと壁山も首をかしげた。先々週の金曜日、同じようにミーティングがあったときには影野は呼ばれず(ベンチだった)、壁山と風丸、土門と栗松が呼ばれた。そのときの試合、対木戸川清修戦は、四人のDFと円堂とでゴールを守りきった雷門が二点を挙げて勝っている。
円堂はつめたいコンクリにジャンプを敷いて、バインダーをじっと見ながらすわっている。ふたりはそのまま地面にすわった。けつつめたくね。平気っすよ。影野もうなづく。円堂はバンダナの下に人さし指を突っ込んでごりごり掻きながら、バインダーをふたりに見せる。今回ベンチは風丸と半田と松野、あと鬼道な。差し出されたそれを受け取って、影野はあーとひくくうなづいた。半田が外された理由は、たぶん遅刻が多かったからだ。松野は練習にキレて帰ったのが、二回。風丸さんはなんでっすか。調子わりーし。あいつ一回テンション下がったらながいな。風丸の不調は先週あたりから続いている。どうも周りのプレイとひとり噛み合わず、ちぐはぐに浮いてしまっているのだ。この間も危うく松野にけがをさせそうになり、そのせいで松野は帰ってしまった。それに関して円堂はどっちもどっちだと言い切ったまま放置してある。それもまた、風丸の不調が続いている原因かもしれない。
つうわけで今回スリートップでやるぞ。円堂が指さすバインダー、FWには豪炎寺、染岡、目金の名前があった。目金出すんだ。影野の言葉に円堂はくちびるを曲げる。まぁあいつ頑丈だし。いざとなったら火事場のクソ力ぐらい出すだろ。けがしないといいっすけどねぇ。そんで次なと円堂は指をずらす。その下のMFは五人。少林寺、宍戸、栗松、一之瀬、土門の名前が並んでいる。あーみんないる。壁山がぱっと嬉しそうな顔をした。栗松MFっすか。あいつ今キレキレだしな。チャンス逃したらあいつもスランプ入りそうだから使ってみる。ガンガン上げるぞ。栗松最近シュート技覚えたって言ってたから打たせてやってほしいっす!にしても今回、超攻撃体勢っすねえ。ばんばん打って削ってかないと点取れないからな。つか千羽山相手に守る試合とかできるわけねーし。影野はちょっとほほえむ。なんだかんだで円堂は一年生を使いたがるし、それぞれをちゃんと観察しているのだ。
鬼道を外した理由をうぜえからと円堂は言いきった。あいついちいちうるせえし。ふふふっとわらった影野に、失礼っすよおと壁山が間延びした声を投げかけた。ちゃんと考えて動くこともやんねえとな。考えてることが裏目にでるあほもいるし(宍戸のことかな、と壁山は思う)、考える脳みそ入ってねえクソもいるし(松野のことだ、と影野は思う)。あーと今回おれ技封印するから。おまえらがきっちり守らないと負けるから覚悟しろよ。壁山はまぁいつもどおりで。影野足引っ張るなよ。下手こいたら音無と交代だからな。ひどいなと影野はわらう。影野さんならだいじょぶっすよと壁山が力強く請け負ってくれた。一緒にがんばりましょう!うん、と影野はひどく満たされた気持ちでうなづく。いつもどおりな、と、たぶん円堂が無意味に繰り返した。
いつもどおりで、という言葉を影野は少しだけうらやましいと思った。円堂は一年生をかわいがっているが、その中でも特に、端から見てもあからさまなくらいに壁山をひいきしている。壁山は優しくて穏やかで、いつだってチーム全員の味方だ。円堂は壁山に全幅の信頼を寄せていて、それが決して裏切られないことを誰もが知っている。円堂はきっと壁山をひとりじめにしたいんだろうなと影野は思った。なんだかずるい。うらやましい。いつもどおりで、で通じるほど、ふたりが強く結ばれているのがうらやましい。足引っ張るなよ、かぁ。影野がほんのわずかくちびるを曲げると、壁山が気遣うようにやさしくわらった。大丈夫っすよ、影野さん。おれがミスしたら、カバーお願いします。影野は壁山を見る。にこやかにほほえむ壁山。うん。影野はうなづく。ありがとう。おなじポジション。ふたりっきりのDF。全幅の信頼。素敵なことだ。
ミーティングは毎回、円堂がどうするのかを言って終わる。今回はエコな感じの試合にしたいとわけのわからないことを言いながら、円堂は部室に鍵をかけた。影野このあとどうする。おれ?影野はちょっと考えて、帰るけど、と応える。ふうん。円堂が意味ありげにわらった。校門の前でそれじゃあと手を振った直後、円堂が壁山の背中をぱしんとはたくのを影野は聞いた。ラーメンくいに行くぞ。その声に影野はぱっと振り返る。おれも行く。はぁ?視線の先で、肩ごしに振り向いた円堂が思いっきり、心の底から嫌そうな顔をしている。おまえ帰るって言っただろ。はやく帰れよ。おれも行く。円堂の言葉を無視し、そう言いながら影野はほとんど小走りでふたりに向かって歩き始めた。円堂の隣で、同じように振り返った壁山は目をますますまるくしていて、だけど確かに、影野に向けてにっこりとわらった。はぁいや意味わかんねーしおまえまじ空気読めボケ。円堂は次から次から罵声を飛ばすが、そんなもの影野は右から左だ。
並んでいたふたりの間に強引に割り込み、雷雷軒だよなはやく行こう、と影野は壁山の肩を押した。いやいやいやおれが壁山といきてえだけだから。おまえ帰れよ。円堂がさらにふたりの間に割り込む。いやだおれも壁山とラーメンくう。いつでもくえるだろ今日は譲れ。壁山、おれも行っていいよな。えぇと、おれは嬉しいっすけど。壁山てめー勝手なこと言ってんじゃねー!ちょ、まじおまえ、なに今日なんでこんなしつけえんだよ。しつこくない。しつけーよぼけ!三人はもつれたり離れたり押したり押されたり、ぐるぐるしながらひとかたまりのいきものになって商店街へと歩いていく。霧の荒野をとつとつと歩く寒馬のように。おれがおれがとにぎやかな円堂と影野のまん中で、久しぶりに四人で試合出れて嬉しいなぁと、壁山はまったく違うことを考えているのだった。全幅の信頼を寄せられ、それでもそれをものともしない。きっといい試合にしようと、ほうっとついた息がまるく漂った。壁山はにぎやかな先輩たちをゆったりと穏やかに眺める。心優しく辛抱強く、頑健な蹄をしたのどやかな馬のような瞳で。







寒馬チャイルド
円堂と壁山と影野。
リクエストありがとうございました!ごしゃごしゃしたおはなしになってしまいすみません。この三人で書くのは新鮮で、すごく楽しかったです。
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