ヒヨル 天国で反抗期 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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おれが切り売りしてるのは、言うなれば正常で常識的な感覚だ。おれはいっつも自分の両目を隠して世捨て人的なやつを気取って、その実は周りをちゃかして煙に巻いてへらへらへらへら生きてるわけですが、実はおれの両目にはひとには見えないものが見えちゃうわけなんです。だから正常な常識的な感覚をごく当たり前にずばずば切り捨てて、非常識でそこを埋める。おれが切り売りしてるのは正常で常識的な感覚と、たぶん、あとは、疑うこと。おれは単純明快であほで、それはおれが見えるものをいちいち疑ってたら、ほんとにきりがない。からです。
例えば鏡で見るおれはふつーのおれ、ヒョロガリでモジャな宍戸佐吉だけど、たとえばこの目が先輩たちを見ると、中学二年生のサッカー野郎はどこにもいなくてそのかわりに怪物みたいなこえーのがいっぱい見える。つぎはぎだらけの金色の魔神、まっかな魔神、花柄のドラゴン、折れかけたそら色のクレヨン、けたたましく吠えるチワワ、棒人間、どろっとした不定形のなにか、極彩色の影法師、などなど。少林寺をみんなはちっちゃくてかわいいって言うけどおれの目には誰より巨大に見える。あおい四本の腕の巨人。壁山は、なんていうか見えない。そこに壁山っていう人間がいる気配はあるしひとのかたちも手触りもおれはわかるんだけど、おれの目には壁山は空気に希釈されたすげーでかいものに一体化していてうまく捉えられない。音無はピンクのラメラメのはと、栗松はなんでかいっつも顔を覆うように腐りかけたりんごをかぶっている。今ではだいぶそういうものたちと折り合いがつけられるようになったけど、今でも目を見せるのは怖い。おれの目は恐怖をいつでも満タンに詰め込んでいる。そんな怯えた目であのひとたちを見ていると知られると、ちょっとつらい。
おれは空ばっかり見ている。空めがけて口をひらくと、そこから空がこまかい氷みたいに砕かれてしょりんしょりんと降ってくるみたいな感覚がからだを突き抜けて、気持ちいい。なにしてんの、と少林寺が不思議そうにおれを見ている。四本腕の巨大な少林寺。グラウンドでは有象無象が有象無象になって試合をしていた。まるで戦争だ。おおーこわっ、とわざとらしく言うと、少林寺は腑に落ちない顔をしておれから目をそらす。グラウンドのはじっこのほうにきらきらっとなにかがひかって、おれはついそちらを見た。そのきらきらはにょきにょきにょきっとすごいスピードで伸びて、蔓みたいに絡まりあい、見る間に一対の翼に化ける。うはっ。おれは少林寺の肩(とおぼしき場所)をつかんで揺さぶった。おいあゆむ、あそこ、鳥がいる。鳥?少林寺はおれが指差す方を見て、見ながらへーんな顔をした。グラウンドに鳥なんかいないだろ。あーそっかーと手を離すのと同時に、棒人間がひょろひょろとこっちに走ってきた。宍戸こうたーい。半田さんだ。
グラウンドに入るとおれはいけにえにされたみたいな気分になる。こういうとき、常識なんかさっさと切っといてよかったって実感する。おれは脚で、おれの脚でボールを蹴る。だけどそれを受け止めるのは、脚という器官さえないけだものたちだ。があがあ吠えて、ぐるぐる唸る。まったく狂ってる。ふふっとちょっとわらうと、また視界のはしできらきらがはじまる。目金さんがからだをがっちんがっちんに硬直させながら身構えていた。目金さんは、よくわからないけどなんだかメガネサンぽいものとしておれの目には映るのだが、そのメガネサン的いきものの背中の辺りに、苔が密集するようにきらきらがびっしり植わっている。なにげなくそこを払うと、目金さんはびくっとして、なんですかぁ、と情けない声をあげた。あーそっかー見えないのかーと思っておれはニチャニチャわらい、へーたーれー、と言ってやった。目金さんの顔がめっちゃ不機嫌そうになる。
こっちにボールが飛んできたのでざっと踏み出すと、ぶわっとほっぺたを風が撫でた。風よりもっと質量があるものでばちーんとぶたれたみたいに。おれははっとそっちを見る。目金さんの背中に翼が生えていた。きらきらきらきらひかる、金色の、巨大な、かみさまみたいな翼。おれはぽかんと立ち尽くし、ボールを取ったのは目金さんだった。目金さんはドリブルをしながらどんどん空へ駆け上がっていく。もちろん実体の目金さんはグラウンドで速攻ボールを取られてぜえぜえ息を切らしていて、おれは花柄のドラゴンに思うさま体当たりされてうろこがぶつかった部分をざりざりにすりむいた(ような気になる)。おれはからだを起こしながら空を見る。金色の翼がばらばらっとほどけて、目金さんの背中に雨みたいに降り注ぐ。びっくりした。目金さんは目金さんだった。メガネサン的いきものじゃなくて、正真正銘の人間だった。その瞬間。おれの目は金色の洪水で満たされる。どわっと押し寄せてくる光景。みんないる。みんな人間だ。みんなみんな、生きている!
気づいたらおれはだらだらに涙を流していた。洪水が引き、またいつもの光景が戻ってくる。ドラゴンとチワワががあがあぐるぐる吠えまくり、おれの腕をどろっとしたヘドロみたいなやつが引いてグラウンドの外に連れ出した。おれと入れ代わりに、四本腕の巨人がグラウンドへ入る。メガネサンがこっちを見ている。きらきらのひかりの苔を背中に生やして。棒人間が気づかうようにおれを覗きこむ。どしたんだよ。あんたらにはわかんねえから言わね、って言いかけるのをおれはぎりぎりで飲み込み、ちょっとわらう。目金さん、かみさまにでもなるんすかねぇ。はぁ?棒人間は黙る。おれも黙る。黙って空を見上げる。空がしょりんしょりんと降ってくる。からだを突き抜けたのは、たぶん、かなしみをざぶざぶに薄めた得体の知れない喪失感だった。
おれの他のひとたちが見ている景色は天国だった。天国なんだと思った。おれが知らんまになくしたもの。おれも天国に行きたいって思った。だけどそうしたらおれのかみさまってメガネサンだなぁって考えたらちょううけて、ばんばん腕を振ってやったらグラウンドからへんないきものたちがばんばん手を振り返してきた。それを見てたらまぁいっかって思う。だってもう正常さとか常識的な感覚とか捨てちゃったし。ぼーくらーわーみぃんなーいーきているー、し。メガネサンも手だかなんだかをばんばん振っている。翼は今は見えないけど、いずれまたおれはあの景色を見て、また泣くんだろう。きっと。へたれって言ってごめんねって、あとであやまろっ。メガネサンはなんだか嬉しそうに手を振る。きらきらとひかる背中をして、誰よりも楽しそうな、嬉しそうな、かみさまみたいな能天気な笑顔で。







天国で反抗期
宍戸視点の目金。
リクエストありがとうございました!なんか絶対違うものが出来上がってしまいほんとすみません。でも楽しかった!あれだったら別のん書きますので言ってください。
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