ヒヨル アンダーパス・サンセット 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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飛鷹という無愛想な先輩のことを、壁山はとてもいいひとだと思っている。眉毛をそり落としてリーゼントを揺らすクラシカルなヤンキースタイルの飛鷹は、当初こそとげとげと不必要にとがっては周りといらない悶着を起こしていたが、元来の一徹さを響木監督とのサッカーだけでなくチームにも向けるようになった辺りから、チーム内でその類の軋轢が起こることはなくなっていた。ぶっきらぼうでぶしつけな物言いは変わらないものの、たどたどしい口調で年下の壁山にこれこれこういうプレイをするにはどうやって動けばいいのか、などと質問をしてきたりもする。響木監督や円堂には及ばないものの、壁山もその質問を受けて一生懸命に考えたり、それでもわからないときには実際に動いてみる練習相手になったりもしていて、やはり以前よりはずっと和やかに接することができるようになっていた。飛鷹はとてもいいひとだ。イナズマジャパンに選ばれてしかるべき選手なのだと壁山は思っている。
飛鷹はチームに溶けこんでなお、ひとりでいることを好んでいるが、壁山にはどことなく気安さを感じているのか、それとなく声をかけるとまんざらでもない風に応えたりする。試合後の夕焼けの甲板にひとりで背中を丸めてあぐらをかいている飛鷹に、壁山は隣いいっすかとさりげなく声をかける。以前なら敵意もあらわににらみ返した飛鷹は、おう、などと言ってわずかからだをずらした。膝を抱える壁山をじっと見て、かしこまるなよ、とわざとらしくすごむように言うので、おれはでかいからこれがいいんです、と壁山はわらう。そうか。飛鷹は眉間をこすって黙る。船上はどたばたとにぎやかなものだが、目の前のまっかな海は静けさそのものだった。エンジン音や歓声がかえって静寂を際立たせる。飛鷹は雰囲気に飲まれたのか、なんとなく眠たそうな様子でしきりに首を回していた。が、そのうちにうしろあたまをがりがりと掻きはじめたので、なにか言いたいことがあるのか、と壁山は気づく。
たぶん飛鷹はしゃべることがきらいではなくて、ただ会話をはじめるきっかけがわからないからもどかしい気持ちが動作になる。こころの機微に鋭く、相手の言葉を魔法のように引き出して見せる会話上手な同輩のことを思い出しながら、壁山は黙って遠くのほうを見ていた。そのうちに飛鷹はあたまを掻くのをやめて、さりげない調子で(、いかにもそれがさりげなさを装った風だったのでちょっとおもしろかった)、なあ、と言う。監督の娘ってかわいいよな。ええええと内心びっくりしながら壁山はまばたきを繰り返し、飛鷹がちょっと不機嫌そうにこちらを見ていることに気づいて慌ててにこりとわらう。そうっすねぇ。冬花さん、きれいだしやさしいっすよねぇ。そうだろ。なぜか飛鷹は壁山の当たり障りのないほめ言葉に得意げにわらう。選手とマネージャーの関係は微妙で、それはいつも必ずどこかで円堂の存在が絡んでくるからだった。久遠冬花も例外ではない。はかなげな容姿の可憐な視線がひたすら円堂を見つめていることに、気づかないわけもなかった。
飛鷹さんは冬花さんがいいんっすか。壁山は首をかしげる。いいっていうか、なんだ。かわいいだろ。ほせえし髪なげえし色めっちゃしろいし。すげえ女っぽい、みたいな。飛鷹は考え考え言葉を並べている。大事なものをひとつひとつ置いてゆくみたいに。木野さんとか音無は、どうっすか。飛鷹は壁山を見て意外そうな顔をする。そんなにおかしいか。いやいや別にそういうわけじゃないんすけど。飛鷹さんあんまりマネージャーとはなしたりしないじゃないっすか。あーまーなーと眉間をこすりながら飛鷹はじっと考えこみ、あんま考えたことねえ、と答える。冬花さんひとすじなんすねぇ。壁山の言葉に飛鷹はリーゼントをゆわんゆわんと揺らしてあたまを振ると、誰にも言うなよ、と語気も鋭くささやく。今さらの照れ隠しに壁山はわらって、冬花さんなら仲よくしてくれると思うっすよ、と答えた。
飛鷹は目をまるくして、仲よくできるのか、と壁山に詰め寄る。あっでも冬花さんからはきっと難しいですねぇ。壁山は前のめりの飛鷹をそっと押し戻しながら言う。呼び方とか変えてみたらどうっすか。呼び方。飛鷹は視線を泳がせて、はっと壁山を見る。キャプテンみたいにふゆっぺって呼べばいいのか。い、いきなりそこっすか。ふゆっぺ。飛鷹は何度かそう口に出し、満足そうにわらう。いいな。まぁ飛鷹さんがいいなら。よし、今度からおれはあいつをふゆっぺって呼ぶぞ。ふゆっぺ!飛鷹がそう口に出した瞬間、後ろからどさりとなにかが落ちる音がした。ふたりは反射的に振り向く。そこには話題の張本人、久遠冬花が顔をまっかにして立ち尽くしていた。足元に洗濯物を回収するかごが転がっている。あ。あ。あの。壁山がおそるおそる声を出すと、冬花はくるりと後ろを振り向き、船内に駆けこんでしまった。まっまっまもるくん!という焦った声とともに。
次の瞬間飛鷹は立ち上がり、猛然と冬花を追いかけていった。壁山が止める間もなく。やがて船の中から悲鳴と怒号、なにかが壊れる激しい音が聞こえてくる。壁山は目を閉じて、それらを聞かなかったことにした。ゆったりと水尾の引く海に視線を飛ばすと、船が大きくかしいだ。その衝撃でころんころんと転がってきた木暮を受け止める。キャプテンがすげー怒ってるんだけど。壁山にさかしまに支えられたまま、木暮は器用に首をかしげた。なんでかな?さぁ。飛鷹さんとケンカしてたっぽいよ。なんか知ってんだろー、とからだを起こして首に抱きつく木暮をあたまに乗せてやりながら、壁山はちょっとわらった。そういうときもあるんだって。そういうときもある。飛鷹はいいひとで、とてもいいひとで、だけどそれに気づいてもらえない。そういうときもある。円堂は知っている。だからそれを冬花に見せたくない。あのときの冬花の顔はこの海ほどにまっかだった。なんだかとても幸福で、それを噛み締めながら壁山はゆっくり立ち上がり、騒ぎの方へ向かった。







アンダーパス・サンセット
飛鷹と壁山とふゆっぺ。
リクエストありがとうございました!あんな些細な妄想にご意見いただけてとっても嬉しかったです。トビ冬推しです。
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