ヒヨル バイバイヘブンズドアー 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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雨の音がする。壁山はふと目を開けて、ぽっかりと眠りに沈むキャラバンを見回した。自分の左右に寄りかかって眠っている木暮と目金をそうっと支えながら座席を降り、ふたりを静かに横たえてやってから抜き足差し足で出入り口に向かう。ごろごろと座席に横たわったりシートにもたれたりしているさなぎのような一同に、不思議とほほえましいような気持ちが込み上げてきた。よだれを垂らして寝ている円堂の口元を、起こさないようにそっとジャージの袖で拭う。キャラバンを降りると雨なんかちっとも降っていなくて、女子専用のテントが月光を浴びてつつましくうずくまっているばかりだ。澄みきった空気に星が降るほど輝いている、名もない山の静かな夜。ゆっくりと息を吸うと、肺が引き締められるのと同時にやわらかな水の香りがした。遠くからしんしんとせせらぎの音がする。無風の山はそれ自体が眠りに落ちているようで、壁山はそのひそやかな空白にあたまの先まで満たされる。
ぐるりと車体を回り込むとそこには栗松がいて、携帯を片手にうろうろと歩き回っていた。栗松。小声で名前を呼ぶと栗松はびくんとからだをこわばらせ、あからさまに怯えた顔をして肩ごしに振り返った。下から携帯のライトに照らされているせいで、ひどく顔色がわるいように見える。なんだ。壁山をみとめると栗松は顔からもからだからもぐにゃんと力を抜き、脅かすなよーとへなへなの声でささやいた。なにしてんの。やー電波をね、探してて。栗松の手元を覗き込むと、ディスプレイのアンテナ部分には圏外の文字が表示されている。山ん中だからね。栗松は携帯を無意味に振りながら、あーやっぱだめだなーと下くちびるをつき出す。急用?そういうわけじゃないけど。ぱちんと携帯を閉じてジャージのポケットにしまい、栗松は両手を手持ちぶさたに組み合わせる。連絡したいなーって。ああ。壁山はなんとなく察してそこから先を言うのをやめた。
つい先日、稲妻町に戻ったときに、壁山は栗松と入院している一同を見舞いに行った。少林寺も宍戸もベッドで時間を潰すだけの単調な日々に倦みきっていて、ふたりの訪問を恐縮するほど喜んでくれた。コージーコーナーのシュークリームは差し出したとたんに松野と半田に奪われ、次はメロンを持ってこいと三回くらい言われた。いろんなことをしゃべったし、キャラバンの中では考えられないほどわらった。それなのにあれ以来、栗松は妙に元気がない。里心でもついたのなら壁山も仕方がないと思うが(自分だってもちろんさびしいのだ。両親やサクに会いたいし、母の作ったカレーを腹いっぱいたべたい)、栗松は変に頑固なところがあるので、なんでもかんでも我慢してしまう。せめて自分にはなにか言ってくれてもいいのにと思いながら、壁山はそっと栗松を伺った。もう戻ろう。おずおずと言うと、栗松はぱっと顔をあげる。うん。その表情が思ってもみないことを言われたみたいにこわばっていた。
壁山くん壁山くん壁山くん。目金が壁山の広い背中をぱちぱちと叩きながら早口で言い募る。栗松くんが最近元気ないんですけど、壁山くんなにか知ってますか。知らないっすねぇとなるたけやんわりと聞こえるように、壁山は心を砕いて返事をする。そんなこと自分だってわかっている。そうですかぁと目金は落胆したように肩を落とし、せっかく高個体値パーティー組んだから相手してほしいんですけどねぇと言った。壁山くんからも頼んでくれませんか。うなづく壁山の視界の端で栗松と土門がなにかしゃべっている。ふたりとも背中を向けているが、たぶんなにか冗談みたいなことを言い合っているのだろう、あかるいわらい声が聞こえてくる。今ならだいじょぶじゃないっすかねぇ。あっほんとだ。目金はぱっと顔を輝かせ、栗松くーんとふたりの間に割って入った。ちらりと見えた栗松はいつも通りに見えた。だけど片手をジャージのぽけっとに入れっぱなしにしている。壁山は知っている。そこには鳴りっぱなしの携帯が入っているのだ。
雨の音がする。壁山はあれからときどき雨の音に目をさます。だけど目を開けても見えるのはキャラバンに射し込むやわらかな月光ばかりで、雨が降っていたためしは一度もなかった。そういう日は必ずななめ前のシートに栗松は起きていて、携帯のディスプレイをうつろな目をして眺めている。無機質なしろい光に栗松のおばけみたいな影が天井を横切り、そのぞっとするほど寂しいことに壁山はいつだっておののいた。ぐにゃりと影が歪む。栗松はあたまを抱えるようにして、嗚咽をこらえている。壁山に術はない。雨の音が鼓膜を打つ。ぱらぱらとばらばらと。しろい光がふつりと消えた。壁山。栗松は絞り出すようにささやく。おれはまだここにいていいかな。いいよ。間髪入れずに壁山は答えた。いてくれよ。おれを置いてどこに行くんだよ。栗松はがくんとうなだれ、悲壮な声でごめんと言った。謝ってなんかほしくはなかったのに。
結局、栗松は病んで去り、壁山は残された。壁山は諾諾と流されていくだけで、たぶん、だからいけなかったのか、と考える。あのときも、あのときも、いつだって何度だってチャンスはあったはずだ。自分にできることならなんだってしてあげたかったし、どんなことだって受け止めるつもりでいた。かと言ってそれを口に出すことをしなかった自分が、なにもできなかった自分が、ただ見送ってしまった自分が、いけなかったのだ。自分が彼らを追いつめたのだ。あんなふうに飢えてしまうまで。あの日も雨が降っていた。音だけの幻想の雨がいつまでもいつまでも降っていた。
あの日、円堂よりもずっと壁山は憤っていた。ずっとずっと怒っていた。病んだけもののような彼らを、そうなるように見逃してしまったのは自分だったのだから。天国への扉は閉じ、悪夢のような現実が始まる。空洞のようなまなこをして、彼らは高らかにわらうだろう。目を凝らし、息をして、壁山はそのときを迎えるのだ。ほころびていく意識の中で、壁山は怒りのままに友人たちを蹂躙してゆく。断末魔を拾い集め、彼らのうつろな目に空を映すまで、壁山はその手を止めることはない。できることならなんでもする。後悔だってちゃんとさせてやる。あの日壁山の神は死んだ。だから代わりにやらねばならない。代わりに与えなければならない。当たり前に積み上げてきた今までのすべては、もう二度と戻ることはないのだと。
雨の音がする。雨の音が鳴りやまない。雨の音がする。雨の音が消えない。







バイバイヘブンズドアー
DE戦壁山。
リクエストありがとうございました!DE戦に至るまで、がメインになってしまいましたが、壁山は実はDEメンバーに対して一番怒っていたんじゃないかなーと思います。
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