ヒヨル イヨマンテの子 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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行きつけのコンビニが彼のからだを作っている。それはあながち間違いではなく、両親ともに多忙でさらには妹の見舞いに時間を割く豪炎寺には仕方のないことだった。豪炎寺は面会時間ぎりぎりまで病院にいて、それから汗だく泥だらけのからだを引きずるようにコンビニに寄る。練習後に円堂と半田と雷雷軒に行ったが、そのときにたべたものはとっくに消化され尽くしていた。空腹だ。豪炎寺は常時しかめっ面をしているために大概のひとに遠巻きにされるが、そのわりになにも考えていないものだから、そんなふうに腫れ物に触れるよう扱われるたびに、豪炎寺は理由がわからずに戸惑う。コンビニの店員はそんなことしないからいい、と思っていて、その正確で機械的な所作に豪炎寺はどことなく好感を持っていた。だから二回目の夕食はいつもコンビニで買う。気分がよければ、スナックやジュースなんかも。
いつものコンビニにのそのそと入っていくと、勝手に豪炎寺がいちばんレジが上手だと思っている店員はいなかった。健康的なラガーマンみたいな店員が、無感動ないい声でいらっしゃいませーと告げる。かかとを引きずるように弁当の棚の前までいくと、そこにはもう先客がいた。豪炎寺はまゆをひそめ、ぬっと後ろから彼を覗きこむ。うわ、と驚いた声をあげ、宍戸が肩をびくんとこわばらせる。宍戸はくすんだあいねずのラグランシャツにくろいスウェット姿で、ごわごわのマフラーを巻き素足に健康サンダルをひっかけている。おつかれさまっす。にっと歯を見せてわらう宍戸になんと返してよいかわからず、半端にああなどと言って豪炎寺はその隣にのそりと並んだ。宍戸がすっと場所を譲る。ふと豪炎寺は汗くさい自分をわずか恥じた。宍戸は明らかに風呂上がりの風情で、さっぱりしたしろい手指をしている。
先輩も晩飯っすか。宍戸が普段より抑え気味の声で訊ねてくる。豪炎寺はうなづき、特大めんたいパスタを手に取った。サラダスティックと餃子をそれに重ねる。くいますねぇ。腹が減ったんだ。宍戸はなにやら手巻きのようなもののパックにミルクティーの紙パックを重ねているきりだ。それで足りるのか。少食なんで。豪炎寺は痩せぎすの宍戸を眺め、確かに、と口には出さずに納得する。それはなんだ。そして宍戸の手元のパックを指さす。トルティーヤっす。くえるのか。くえないもんは売ってないでしょー。そう言って宍戸は噎せるようにわらった。豪炎寺はちょっと考え、サラダスティックを戻してトルティーヤを手に取る。最後のひとつだ。うまいのか。しげしげと眺めながら問いかけると、宍戸はたぶんうまいと思いますよと答えた。おれはすきです、と、最後に添えられたその一言で豪炎寺はトルティーヤをめんたいパスタに重ねた。
健康的なラガーマンはてきぱきとふたりの晩飯をレジに通して、パスタと餃子はちゃんと温めてくれた。どうしてコンビニなんだ。は。店を出て唐突に切り出した豪炎寺に宍戸はわけのわからないような顔をして、やがてあーとうなづく。おかんが仕事なんで。そうか。いつもなのか。まー大体は。おれもだ。豪炎寺の言葉に宍戸はやわらかくほほえみ、コンビニもわるくないっすよ、と言った。わるくないというのは額面どおりの意味だろうと豪炎寺はうなづき、それじゃあと帰ろうとする宍戸を呼び止めた。一緒にくおう。ええ、と宍戸はあからさまに困った顔をするが、河川敷ならすわるところがあるなと豪炎寺は続ける。一緒にくおう。まぁいいっすよ。宍戸はしぶしぶといった風情で言い、あんまりにもその肩が寒そうなので豪炎寺はジャージを貸してやった。痩せぎすの宍戸。
春に差し掛かっているとはいえまだまだ夜は寒い。屋根のついた木のテーブルにコンビニの袋を置き、向かい合ってはしを割る。宍戸はあからさまに食欲がない様子でミルクティーをのろのろとすすっているが、豪炎寺はそれを全く気にせずに力強くめんたいパスタをすすりこんだ。よくくいますね。宍戸が感心したように言う。腹がへったからな。言いながら餃子をふたつまとめてはしでつかむ。はぁーと驚愕とも侮蔑ともつかない息をして、宍戸は気だるげに頬づえをついてちょっとわらった。水の音がする。せせらぎを這いのぼる底冷えが、つめたいてのひらのように足元へ絡みついてくる。腹がへったら。餃子を咀嚼して豪炎寺は言う。サッカーができないだろう。宍戸はなにも言わずに、ようやく開けたトルティーヤをひとくちかじった。野菜のちぎれる音に、豪炎寺は不思議と安堵のような思いをする。
豪炎寺はトルティーヤをひとくちでたべ、もしゃもしゃと噛みながらこれはうまいなとうなづいた。飲みこむ。おれもこれはすきだ。そうっすか。ふふ、と宍戸は奇妙に大人びてわらう。コンビニは確かに彼のからだを作るが、その中身をどこかに置き忘れてきてしまったみたいだ。ふたりともふたりとも、かける言葉を探せない。もうやめましょうよ。豪炎寺は顔をあげる。宍戸がうんざりした顔で、あきれたように、わらっている。やわらかな弧を描くくちびる。やめましょう。不毛です。そうか。豪炎寺は目を伏せた。じゃあ、もうやめようか。宍戸はジャージを脱いでおざなりに畳むとたべかけのパックをざっと片付け、飲み干したミルクティーをごみ箱に叩きつけるようにして行ってしまう。ぽつんと取り残されたまま、豪炎寺はふたつめのトルティーヤを頬ばった。足音が遠ざかる。さびしいさびしいさびしい音だ。
楽しかったのに。口には出さずに豪炎寺は思う。おれはとても楽しかったのに。なのに楽しかったはずの豪炎寺はにこりともせず、宍戸はずっとわらっていた。ちっとも楽しくなんてなかったはずなのに。豪炎寺にはよくわからない。宍戸がどんな気持ちでコンビニにいたのか。どうして、不毛だ、などと口にするのか。仕方のないことなのに。どうしようもないことなのに。それをどうやって飲みこめばいいのか、豪炎寺にはわからない。おなじ場所で機械に作られた、おなじものをたべて生きているふたりなのに。豪炎寺はジャージをたぐりよせる。それを学ランの上から羽織り、すっかり冷めきってしまった食事の続きをはじめた。コンビニ弁当がどんどんからだに染み渡る。どんどん、どんどん、生かされてゆく。豪炎寺がそれをそれを望むからだ。明日もサッカーができるように。
星の降る寒い夜だった。さびしい夜だった。明日謝ろうか、と思いながら、だけどどんな言葉で謝ってよいかわからない豪炎寺は、そこで思考を止める。どんな言葉なら許してくれるのだろうか。それとも許してはくれないのだろうか。許してくれなければ、もう一緒にめしをくうことはできないのだろうか。今日はとても楽しかったのに。腹は満たされたのに、他の場所はぽっかりと空洞だった。あの健康的なラガーマンが打つレジに、空洞を埋めるものをひとつも持っていかなかったから、だ。








イヨマンテの子
豪炎寺と宍戸。
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