ヒヨル ナイトウォーカーズ 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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夜には鬼が来てねないこを喰うというので、夜になるほど目を開きたがるおれは本当は鬼なのだと思う。夕焼けを喰い荒らすくろい群れの翼がまっかに焼けてぎらつく光景、ながくながく伸びる影には確かに鬼が棲んでいた。

遠くの街並みに覆いかぶさるように育ったしろくおおきな雲は、つい何日か前まで梅雨だったとは思えないほど夏のにおいで健康的にひかっている。グラウンドを巨大なあしあとみたいに雲の影がぞろりと横切ると、燃える陽をさえぎったのとはまた違ううそ寒いような気持ちが足元をざわざわとくすぐっていく。光のあまりの強さにまっしろに飛んだ校舎やグラウンドが、雲の影に撫でられるたびに形を取り戻し、そしてまた光に消える。とおくでかげろうが揺らいでいて、てのひらを目の前にかざすと血がうすあかく透けた。汗が目のすぐわきをだらだらっと伝っていく。骨を喰いつぶすような疲労。休憩、と言うなりなが袖のユニフォームを脱ぎ捨てて、まっしろな背中をさらす円堂を見て、一歩、ベンチに戻ろうとした足がぶれた。雲の影が困憊のイレブンを飲みこんでは流れていく。
まるで海岸に打ち上げられた魚の群れのように、ベンチでは誰もが疲れきって声も発しない。マネージャーがていねいに打ち水をした上で、さらにホースにミストの出るノズルをつけてそこら中に水を撒いている。スポーツドリンクを煽ってはつめたく冷やしたおしぼりを顔に当てて黙りこむ、真夏にはそぐわないほどに静かな午後。せみばかりがにぎやかに鳴き立てて鼓膜をじりじりとふるわせる。ミストが撒かれると空気中のほこりが落とされてなんとなく視界がクリアになる。よくできたポートレイトのような光景を眺めながら胸を撫でていると、気分わりーの?と宍戸が顔を覗きこんできた。別にー。一度顔を拭っただけで砂まみれになったおしぼりを手の中でぐるぐる揉みながら、栗松はくちびるを曲げる。毎日これだけ運動しているにも関わらず、最近は夏ばてで食欲がない。事情は似たり寄ったりの様子で、マネージャーが愛情をこめてむすぶおにぎりの数も減った。余らないよう必死で食べるが、どことなく皆億劫な顔をしている。
おまえ今日なんか元気な。あー、まあね。宍戸は暑いのが得意らしく、誰もが参っている暑さの中で、いつもどおりの飄々ぶりだった。汗を拭いながら平然としている宍戸の腕はあかく焼けて、皮が剥けはじめている。ちゃんとくってるから。うなじの後ろを撫でながらそんなことを言う宍戸に、栗松は眉をひそめた。宍戸はもともとひどく少食だ。アイスとかばっかくってんの。ちげーよ。ちゃんと肉とかくってる。あと、なんだ、鉄分とか、カルシウムとか。うえーめっちゃえらいじゃん。だろーと宍戸はなんだかうれしそうにわらった。急にどしたの。やーなんか気づいた的な。なにに。昼間活動してるからよくないんだわ。だからおれ今ちょー夜型。夜いいよ。涼しいし。へー。栗松は目を丸くする。宍戸は以前学校から帰ったら寝てばかりいる、というようなことを言っていた。意外な。そうかなー。宍戸は首を左右に揺らす。夜楽しいよ。一緒にいこうぜ。どこにだよ。栗松は半端にわらう。宍戸は答えずにほほえんだ。そうすると犬歯が目立つことに栗松ははじめて気づく。
いいだけ木野にあおいでもらってすこしは満足したのか、円堂がユニフォームに腕をとおしながらやるぞーと声をあげた。締まりのない返事をしながらベンチからばらばらと立つメンバーにまぎれて、栗松も重い腰をあげる。影。不意に聞こえた言葉に肩ごしに振り向くと、宍戸はベンチの前に突っ立って栗松を見つめていた。おれの影、踏むなよ。栗松は宍戸の足元に視線を落とす。宍戸の足の先からは奇妙にほそながい影が栗松とは逆方向に伸びていた。あれ。栗松は自分の足を見下ろす。栗松の影は栗松から見て右手に伸びている。その瞬間、ぐにゃりと宍戸の影が波打ったかと思うと、まるでいきもののように宍戸の周りを旋回し、その足元にくろく広がってかたちを変えた。なにかとてもおそろしいものに。栗松は目を見開く。宍戸の影はまっかな口をひらいてわらった。昔話に出てくる残虐非道のばけものみたいに。
宍戸がかるくかかとで地面を叩くと、影はまたかたちを変えて動き、栗松のものとおなじ方向におなじくらいのながさで伸びた。なに、今の。え?宍戸はきょとんとする。なに言ってんだよ。なにって今。知らないふりしてもむだむだ。そう言うと宍戸は栗松の肩をつかんでくるりとグラウンドへ向けた。そのまま両手で肩を押す。ほんとはわかってんだろ?耳元に氷のような鋭さで囁きかけられた言葉。栗松は息を飲む。グラウンドは灼熱で、誰も彼もが影ぼうしみたいだった。太陽がまっかに腕を伸べ、やがて空はマグマの海になる。栗松は汗を拭ってまばたきをする。ほんとはわかってる。宍戸の中に棲むもの。あれに真っ先に喰われたのは栗松だった。だから栗松に夜は来ない。いつの間にか意識をなくし、気づけば東はあおくうるむ。もうすぐ宍戸の時間が来る。宍戸の影がぞろりと伸びて、栗松の足首を、そっと、つかんだ。

夜はおれの味方だった。誰もおれを守らない。おれは子どもを探してあるく。ねないわるいこを喰いに行く。流れて消えても、ちぎれて飛んでも、咲いて散っても、泣いて逃げても、おれは止まらない。おれの影がながくながく伸びて夜風の中をはしゃぐ。おおきなまっかな口をあけて、子どもたちを喰っている。そんなことを繰り返すために生まれてきたのではなくても、今はそれでよかった。夜はおれの味方で、おれには鬼が棲んでいて、いつか気づいてしまったときには、今度はおれが誰かの影になってそこに棲む鬼になる。置いてゆこう置いてゆこう置いてゆこう。おれには靴だっていらない。おれはずっと前泣き虫だった。夜には泣いてばかりだった。今夜もきみのところへゆくよ。きみを迎えにゆくよ。きみと一緒にゆくよ。きみと一緒にゆくよ。


(そういえば最近朝起きるとやけに腹がいっぱいで)









ナイトウォーカーズ
8月5日に寄せて。
実はおなじ穴のむじな。
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