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感謝企画。
シャム様リクエスト、土門と影野。
リクエストありがとうございました。
続きに本文
「死んでしまいました」
「ならばよし!」
(蒼天航路/曹操北部尉)
後悔がないといえばうそになる。いつでも自分にだけは正直に生きてきたので、本当は断りたかった、のだと、今さら誰が信じてくれるだろう。あの日々はいつになったら消えるのだろうかと土門は指の先でペンを器用に回す。英語なら勉強しなくてもだいたいわかる。SVO構文なんてばかばかしいシステムつかうんじゃねーよ。だからあほになるのだ。より効率的に合理的にシステマティクに。自分の中に棲みついたその考えを放棄しようと苦しむのはもうやめた。できないことはするものではない。忘れられないものがいつまでもまずそうな料理さながら残ってしまうように。ああまずそうな料理だ。だから困る。面倒くさい。皿の上で腐るままに放っておけばいいものを、わざわざつまんで食おうとする。ばかは自分だ。
たぶん、許されたかったのだろう、と思う。できれば彼に。本当は断りたかったのだと知ってほしかった。本当は。なにも言わずに行く影野の胸倉を掴んで引き止めた。ねえ行かないで。それ以上の言葉は、もう土門の中には残されていなかった。すべてをさらってさらいつくして、後悔で絞って哀願が燃やした。影野は土門に視線もくれない。言葉をかけることもない。土門はその痩せたからだをゆさぶった。影野はうるさそうにあたまを振る。ながい髪が幻想のように揺れた。あの日の影野の背中にも、それと同じものがまとわりついていた。言葉もない。許してもくれない。それを受け取ってももらえない。なくしたものを、その重みを、はじめてそれを、いたい、と感じた。それならもうなにもないじゃないか。たとえこの空が落ちてきたとしても。たとえきみが背中を向けても。そう信じてきたのに。それが罪ならば償おうと。いつか。
(いつか記憶からこぼれ落ちるとしても)
土門は腕を振り上げた。その腕の行方はどこにもなかった。振り下ろすにも引っこめるにも、全部が全部邪魔をする。びょう、と急かすように風が吹いた。視界がまるく火のように焼けた。そうか、と土門は声をなくした。気を抜くとあふれそうな感情が、涙も笑顔も奪っていった。行くあてなどもうどこにもない。影野の指が伸びてくる。それは土門の手をつめたく払った。土門は影野を再び掴んだ。突き放されて行くあてなどもう、どこにも、ないのだ。三百六十五日を漂う、土門は無駄で無意味だった。わかってくれ。影野はわらった。影野の目が土門を見た。刺すようなそのまなざしがあの日の絶望にあまりにも似ていたから。だから土門もゆっくりとわらった。おまえががしねばよかったのにな。おまえがしねばいいのにな。影野の拳が鼻を捉えた。感情が音を立ててあふれ出す。そうだ。いつかそうしてくれればいい。いつか忘れてくれればいい。そうしたらきみが、しねば、いいのに。
(いつか記憶からこぼれ落ちるなら、きみがしねばよかったんだな)
折れた鼻は手術もせずに治した。償いはまだできずにいる。
いつか記憶からこぼれ落ちるとしても
土門と影野
リクエストありがとうございました。