ヒヨル ならば三人目の登場人物を指せ 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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影野のまっしろい右の耳殻と耳朶には、今はそうでもないが、やがていくつもの穴が並ぶことになる。なんらかの偏執的なその思いが彼を掻き立てたわけではなく、それ以上に悲惨なやり方で、それは並ぶことになる。その穴はすべて、さらに時間がたつごとに引きつれてふさがってゆく。消せない傷ではあるが、まるでそれはなんでもないことのように。砂を噛むような彼の数年を、その頃の彼とその周りのだれがしかはまだ知らない。知らない。
少林寺が首のあたりをせわしなくこすっている。もつれて巻きついたほそい髪の毛を、影野の指が取り除いた。ながいそれは、抜けてもなかなか落ちることができない。ひざの上に腰かけて足をハの字にひらき、ぶらぶらとそれを揺らしている少林寺の背中は、影野の胸にぴったりと寄せられている。ぐすぐすと鼻を鳴らしているのは、とうとう花粉症デビューをしてしまったから、らしい。人形でも抱くように影野は少林寺のからだに腕を回し、前に回されたポニーテールを、少林寺のちいさな手がしきりにいじくっている。そうしてると兄弟みたいですね。目金が箱ティッシュを片手に、影野のとなりに腰を下ろした。そこからいちまい引き抜いて、少林寺がつらそうに鼻をかむ。なかなか治りませんね。なおらない、ってゆうか、なおるもんなんですか。首をかしげる目金に、使用済みティッシュをコンビニの袋につっこみながら、少林寺が鼻声でぼそりと言う。目金がぼうっと熱を持った少林寺のまぶたをてのひらでおさえ、少林寺の手が気だるくそれにふれた。そっちの方がよっぽど兄弟らしい、と、影野は口には出さずにそう思った。目金は少林寺がすきなんだろうな、とも。
少林寺がぐったりと力を抜いてからだを返し、影野の肩のあたりにひたいをこすりつける。だるいです。背中をそっとさすると、浮き上がった肩甲骨や背骨が妙に気になった。ちいさなからだはやたらとあつく、呼吸ばかりぜいぜいと荒い。かわいそうに。ぽつりと影野が口に出すと、なってしまったものは仕方ありませんと、目金のしろい指がフレームを押し上げる。少林寺がだるそうに腕を伸ばして、目金のほほをかるくこづいた。先輩、ひどい。目金はまばたきをして、かなしそうに眉をしかめた。少林寺は影野にからだを寄せて、目金の方をいちども見ていない。なんかジュースでも買ってきます。うなだれてしおしおと部室を出ていく目金を、影野だけが見送った。
いいの。髪の毛をなでながら影野が問うと、少林寺は無言でうなづいた。目金、へこんでたよ。少林寺はのどの奥で唸るような声をあげ、まっかにうるんだ目で影野を見た。にらむように。ふたたび影野の胸元にひたいを押しつけ、少林寺はほそいため息をつく。先輩っていつまでサッカーやるんですか。え?少林寺は鼻をすすり、からだを勢いよく返してティッシュに手を伸ばした。ずびーと鼻をかみ、またそれをコンビニの袋につっこむ。おれね、たぶん目金先輩とはうまくやれると思うんです。なんとなく、このままずるずるーっていける気がするんです。うん。でも、なんか最近ちょっと思うんですよね。少林寺がおもたく息をつく。鼻がつまっていて苦しいのか、鼓動がすこしはやい。影野先輩がもしサッカーやめちゃったら、おれはいろいろなくしちゃうと思うんです。最近。
影野はそっと髪を耳にかけた。少林寺のそれよりも、やわらかでこしのない慣れた手触り。耳にひやりとした何かがふれて、びくりと顔を上げると目金が仏頂面で立っていた。水滴のまといついたペットボトルをつき出して、こっちはあなたのです、と言った。つめたいポカリスエットを受けとると、あなたはこっち、と少林寺には百パーセントオレンジジュースを手渡した。花粉症には柑橘系ののみものがいいんですよ。先輩それどうせ2ちゃんの知識でしょ。嘘を嘘と見抜けないわけじゃないんですから、別にいいでしょう。目金があかくなった少林寺のほほをぺたぺたとさわって、はやく花粉おわるといいですね、と言った。心底の調子で。ぼくがかわってあげたいくらいです。
影野はペットボトルを持ったまま、手首の辺りで耳をこすった。目金は少林寺にふれた手を、神経質に握ったりひらいたりしている。ああ照れてるんだな、と思った。あの程度のことで。さわってしまったくらいで。目金はあまりひとにさわらない。たぶん、さわれない、のだ。気持ちはわからないわけでもない。少林寺がペットボトルのふたをひねった。ひとくち飲み下すのを、目金はやけに真剣に見ている。どうですか。おいしい。いやだから花粉は。えっそんなすぐ効くんですか。えー違うのかなぁ。でもすぐ効くってあった気がするんですよね。目金がもにょもにょと口ごもり、少林寺はなぜかちょっとわらった。先輩ありがとう。大丈夫だよ。目金はぱっと顔をあげて、少林寺のあたまをそっとなぜた。わらいながら。
そうだな。かわってあげたい。影野は少林寺を抱く腕に、ほんのすこしだけ力をこめる。少林寺からオレンジのにおいがして、それでもさっきよりは楽そうになったな、と思った。なにを怖がる必要があるのか。ふれることも怖くなければ、なくすことだって、怖くない。それ以上のものを得られると、影野はほとんど確信している。ふたりなら。そっとかたわらに置いたペットボトルには、ほそくながい指の手形がだらだらと涙をこぼしていた。サッカーはあと一年とすこしで、ちゃんと止めようと思っている。卒業してからのことはそれから考える。今はなにも知らない。知らない。あなたは耳のかたちがすごくきれいですねと、いちどだけ目金がほめたことがある。だからかわってあげたい。少林寺、目金のほうにうつってあげれば。






ならば三人目の登場人物を指せ
影野と目金と少林寺。
三人目は誰だ。
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