ヒヨル 生ける仲達 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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多摩野っておまえ。居丈高な、それでもかん高いその声に多摩野はふり返った。ながいポニーテールを動物のしっぽのようにたらした、小柄な自分と負けず劣らずちいさな少年が目の前にいた。くろい目をななめにして、めんどうくさそうに多摩野を見ている。あ、うん。不機嫌な空気に急いでうなづくと、彼はずいとノートを付き出した。冬海から。二冊にまたがってしまった課題の、まだ返されていなかったノートを受け取り、多摩野はまばたきをした。なんで、少林寺くんが。少林寺は眉間にしわをきゅっと刻み、なんでおれのこと知ってるのと逆に問い返した。えっと、聞いてる。誰から。あの、えと。多摩野は言いよどむ。まるい目をそわそわとあちこちに飛ばすと、たまちんなにやってんのと後ろから両肩を押さえられた。あ、さっくん。げっ宍戸。ふたりの声が重なって、宍戸が一瞬驚いた顔をする。
ひらひらとわざとらしく手を振るしぐさに少林寺がうわーと嫌そうな顔をして、知り合い?と多摩野に問いかける。うん、体育で。おんなじグループ。そーそー。ところでたまちんとあゆむって知り合いだっけ。しらね。今日はじめてはなした。少林寺はそっぽを向く。たまちんはあゆむのこと知ってるけど。なんでよ。宍戸は多摩野の肩に手を置いたままわらった。おれがいっぱいしゃべったから。おまえかよ!つかたまちんってセンスわるすぎるだろ!言いながら少林寺は宍戸にグーパンをぶちかます。ほほを強打されていってぇとのけ反る宍戸に、多摩野がびくりと肩をすくませた。おまえもなんか言えって。たまちんってどうなの。あっ、ぼくは別に、いいよ。急いでぱたぱたと手を振る多摩野に、少林寺は侮蔑に近い視線を投げかける。
宍戸がほほをさすりながら、たまちんもキャプテンに声かけられてんだって、と言った。へー。知り合い?う、うん。小学校のときとか、遊んでもらった。サッカーすんの。もじもじとノートを曲げたり伸ばしたりしている多摩野に少林寺は問いかける。その表情がはじめてすこしだけやわらいで、多摩野はのどの辺りがそわそわするのを感じた。えっと、しない。ふーん。おれはやればいいと思うけどねえ。宍戸が突然後ろから少林寺を抱き上げて言った。たまちん、運動神経わるくないじゃん。ちょっ離せモジャ。腕の中でじたばたもがく少林寺がふと止めた視線が、呆気にとられた多摩野の眉間をちりちりと焦がす。多摩野はあわてて目をそらした。だって。腕の中からするんと器用にすり抜けた少林寺は、ぺん、と多摩野の額をてのひらでたたいた。じゃ、サッカー部こないで。
鳴り響く予鈴にああっと少林寺は顔をあげ、そんじゃ教室戻るからと宍戸に言った。おー。じゃ部活でな。あたまをわしわし撫でる手をうるさそうに払いながら、少林寺はにっとわらった。いっそいじわるく、いっそ爽快に。それが自分に向けたものだと、多摩野はなぜかわかっていた。サッカー部こないで。いかにも簡単に投げかけられたその言葉が、多摩野の背筋をたまらず押しつぶす。ひでーこと言うねと宍戸がちょっとわらった。許してあげて。あいつあれでも真面目なんだ。言い訳がしたかったわけじゃないけど、だって(かっこわるいじゃないか)。あの。多摩野は声をあげた。ノートありがとう、少林寺くん。もう駆け出していた少林寺がふり返って、そのくちびるがちいさくわらう。多摩野はそれをおとぎ話のようなとおくとおくとおくで眺めていた。手の中ではへこへこにノートが曲がっていて、あだ名はそのあともずっとたまちんのままだった。少林寺と二度とはなすことはなかった。そしてサッカーは結局しないことに決めた。
(あのときぼくはうらやましかったのだろうか)
たまにこの感情を、思い出さずにはいられない。






生ける仲達
たまごろう。
遅くなりましてすみません。リクエストありがとうございました!
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