ヒヨル スピラ 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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スニーカーのつま先がやわらかいものにくい込む感触が足首をゆらす。土門はつま先をそこにつき込んだまま、ぐりぐりと足首をひねった。学ランがそれにあわせてらせんのようにねじれ、くるしい息がそのそばでひとつだけした。ちいさな呼吸がつま先をふるわせるのがまた気にくわなくて、足を上げて今度はそのあたまを横にかるくけとばした。無抵抗にしめった土にほほを押しつけるように倒れた、そのあたまに遅れて髪の毛がかぶさって、さらにスニーカーの底でそのほほをかるく踏んづけてやる。またにじるように足を動かすと、顔と靴底のあいだで髪の毛がぐしゃりとよじれた。ね。土門はみじかく言う。もうサッカーやめなよ。お前、正直むいてないよ。ひゅうひゅうとほそい呼吸が耳に届いたので、顔を踏む足にすこしだけ力を込めてやる。ひくくうめくような声がひらきっぱなしのくちびるからこぼれて、ね、と土門は口調ばかりやさしく、さとすように言う。俺がいるからもういいじゃん。人数あわせの必要なんてないし、チームはもうできてるだろ。だから。地面になげだされたそのしろい手が、ちからなくしめった土をかく。顔から足をはなして、今度はそちらをかかとで踏みつけた。つーか俺もこんなことしたくないけどね。学ランの至るところに足あとをつけておきながら、この言いぐさはさすがになかろうと土門は内心わらった。したくないけどしちゃうんだな、これが。確か最初はなぐってやって、手がいたいしよごれるからいやだな、と思ったのだった。お前ばかだろ。シカトしてればいーじゃん(それでもぜってーやるけど)。ぐったりとしてうごかない足のしたのチームメイトをさめた目で見おろして、土門は理不尽なことをしゃあしゃあと言ってのける。どんなひどい目にあってもなお、呼べばかならず来るのだ。この男は。このくらくしめった部室裏に。今日はまず一発腹を蹴ってやって、それがいいところにクリティカルヒットしたらしく、くずれ落ちてせき込んだ。それがうるさかったのでもう一発おなじ場所を蹴ってやって以下略。最初に顔をなぐったときに、盛大に鼻血がでてそれに手をよごされてから、土門は顔はなぐらないようにしようと思い、また実際にそうしている。それでもどこをぶっても蹴っても、この男はおおむねおなじような反応しかしない。おこりもこわがりもしないし、いたがったりなんかは、特にしない。ただただひたすらこらえるように、ぐっと声さえも飲み込んでしまう。今にもきえそうな呼吸に、いきてるー?と土門はかるく足を蹴る。ぴくりともからだはうごかないが、それでもあのながい髪のしたで、目がたしかにこっちを見た、と思った。影野はいじめ甲斐がない。全くない。髪がじゃまで顔も見えないし、ぶあつい布団にくるんだ象みたいに反応も感覚もにぶい。さらには言葉まで足りないので、ぶったり蹴ったりの相手としては、物足りないことこの上ない。しかし土門は別に、影野のおびえる姿やいたがる姿を見たいがために、わざわざ暴力をふるってやっているわけではない。ただ単純に、したいからそうしているだけだ。ぶってやりたい蹴ってやりたい。ただそれだけのことだ。サッカーのことなんて口実にすぎない。たしかに能力的には、土門はおろか一年生にもおとる体たらくではあるのだが、影野が部をやめようがやめなかろうが、土門にとっては今さら、なにひとつ関係ない。
影野の顔をのぞきこみながら、サッカーそんなにすきなんだ、と土門は言う。影野はなにも言わない。もう言葉を発する元気すらないのかもしれない。俺もすきだよ、サッカー。へたくそがサッカーするのを見るのはきらいだけど。ごめん。影野がようやく口をひらく。あれだけ手ひどくやられながら、それでも謝ったりするのだ。別に謝ることなんてねーし。でも。土門はにっこりとわらって、影野の顔に自分の顔を近づける。俺のことすきって言ってくれたらゆるしてあげてもいいよ。顔を近づけると土の有機的なにおいがして、あまりにも不愉快だったので土門はもどしそうになった。その言葉に影野はあらく息をしてから、言わない、ときっぱりと言った。絶対、言わない。今までに聞いた、両手でかぞえられそうな影野の言葉のなかで、その言葉はひときわ意志的に清廉にひびいた。つよすぎて、はっと息を飲んでしまうほど。影野は土門が呼べばかならず来る。なぐられようが蹴られようが、かならず、来る。なのに。あまりにもくっきりと残ってしまったそれを消してしまうように、土門は影野を引きずりおこして、その顔を思いきりなぐった。ひじのあたりまでがしびれるようにいたんで、手をはなすと影野は地面にどさりとくずれた。俺のどこがいやなの。髪の毛がひどく土にまみれて、耳のしたから首筋がしろくのぞいている。血の気のひいたそのラインがくっきりと網膜にのこり、今日のオカズはこれにしようとふと思った。こういうとこが、いやなの。なんと答えられてもうれしくないに決まっているが、土門は聞かずにはいられない。手を取ることができなければ、あとは傷つけるほかに道はない。しかし傷つければ傷つけるだけ、影野への口にだせない思いは募るばかりで、はけ口を求めて渦をまくそれが、今ではどうすることもできない。なぐったところで消えるわけがない。そんなものが。そんな風には。影野のくちびるのはしがきれて、あかいものがにじんでいた。土門は顔をゆがめる。顔は傷つけたくないと思っていたのに。影野はその問いには答えず、授業がはじまる、とほそい声で言った。予鈴がふたりの耳をおおって、土門は影野の髪の毛を踏みつけた。いかないで。その言葉に、影野のつめたい指が髪の毛を踏む足首をやわらかくつかむ。そのとたんにまわり続けていた渦が、ぴたり、と凪いだ。俺おまえのことすきよ。泥だらけの髪の毛を踏みつけたまま、ふるえる声で土門は言った。足首にまきついた影野の指の感触は、ひどくよわくてたよりなかった。しってる。影野がそう答えたときに、耳から首筋にかけてのラインがひきつるようにうごいた。そこは抜けるほどしろかった。もうどうしようもなかった。渦がまたまわり始める。ごうごうと音をたててまわり始める。いっそ飲み込んでしまえばいいと土門は思った。声を飲み込んでうずくまる、影野のしろいしろい背中のように。






スピラ
土門と影野。バイオレンスかつ変態くさい話。
近すぎるがゆえに近づきすぎることをそれぞれがものすごくおそれていて、なんとか線引きをしたいけれど、こんな風にしか結局はならないのだと思います。
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無印雷門4番と一年生がすき。マイナー愛。

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