ヒヨル 殻のマイセンは知っていた 忍者ブログ
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ファミリーレストランではひとの性格が出る、と壁山は常々思っていて、今目の前でいかにもからだにわるそうなみどり色の炭酸をすすっている宍戸は、それに照らし合わせればかなり性格がわるい、と思う。別に食べちらかしたり店員に文句をだらだら言ったりするわけではない。しかし、箸だけでオムライスでもグラタンでもきれいにたいらげる少林寺や、つけ合わせのパセリまで食べて米つぶひとつ残さない栗松と比べると、やっぱり食べ方にやや難があるな、と思う。もちろん壁山自身は食べることが無上のたのしみであるために、誰よりもうつくしくがっついて見せるのだが、それを見るたびに食欲が失せると宍戸は文句をたれる。ソファにだらりと足をなげ出してすわる宍戸の前には、ひとくちかふたくちだけ残ったミートドリアが、ソースを皿にかさかさにこびりつかせて置いてあり、なん十分もそれに手をつけないまま、宍戸はみどりの炭酸ばかりを延々と飲んでいる。そでで口をおおって、げほ、とたまった炭酸をはき出し、これどこに売ってんのとコップをぐるぐるまわして見ながら宍戸はひとりごとのように言った。そんなにすきなのか?や、なんか、うまい。そんなことを言いながら、さしてうまそうでもなく宍戸はコップをかたむける。ぐーっと一気にそれを飲みほして、宍戸は壁山にむけて舌をべろんとだした。きもちわりー。のみすぎ。炭酸まじきちー。だからのみすぎだろ。壁山はあきれたように立ちあがると、ふたりぶんの水を注いでくる。ここらへんが、宍戸のしょうがないところだ。食べられるものを食べないくせに、するべきでない無理をする。あたまは決してわるくないのに、甘ったるい炭酸を飲みつづけたら気分がわるくなるだろう、ということまで考えが及ばないのだ。席にもどると宍戸はひじをついて膝をたて、かちかちと携帯をいじっていた。目の前に置かれた水にすこし顔をあげる。さんきゅ。ん。ぱたんと携帯を閉じてポケットにつっこんだ、その手を抜きだすときにぱたりとなにかが落ちた。壁山の足もとに転がった、あおいパッケージのそれは。拾いあげた壁山の手からそれをうばい返し、にやっと宍戸はわらう。あとで吸ってみよーぜ。言葉をなくす壁山の前で、宍戸は小銭をばらばらっとテーブルにぶちまけた。色のしろいほそい指がそれを数えている。壁山もあわてて鞄からサイフをだした。計1642円。
くらい公園のぶらんこにこしかけて、同時に火をつけたそれを吸いこんだ。うまく火がつかなかったし、いがらっぽい煙が鼻やのどにあふれかえってふたりとも盛大にむせた。想像とちがうな。な。もっといけるもんかと思った。つかそれ誰の。兄貴。いくつ。18。だめじゃん。あのひとはそーゆーの気にしないから。いやいや気にしなきゃだめだろこれは。はんざーい。わかってて持ち歩くなよ、お前のが犯罪だからね。まだ三本ほど中に紙巻きが残ったパッケージを、さっき小銭を数えた指がにぎりつぶす。へーい。心のこもらない返事をしながら、宍戸はそれを思いきりふりかぶってごみ箱になげこんだ。ついでにライターは池に放り込んでしまう。迷いないその動作に、壁山の心のすみの方がわずかいたんだ。あかく火がついたままのそれをくちびるのはしにくわえたまま、あーきもちわりーと宍戸は言う。ひとくち吸ってみただけでいやになったそれを、しかし捨てることも消すこともできずに手にもって、そのまま壁山は宍戸の背中を見た。すんなりと伸びた奇妙にさびしいそのうしろ姿から、煙がひとすじまっすぐに立ちのぼっている。かえろーぜ。ぷっとそれを地面にはきだし、ニューバランスのかかとでじゃんとこすって宍戸はふりむきもせずに言った。ファミリーレストランではあんなにも傍若無人なのに、普段からへらへらとわらっているくせに、ときどき宍戸が見せる潔癖さや清廉さに、壁山はおいていかれたような気分になる。それをあまりにも宍戸が、心の奥のほうにじょうずに隠してしまうから。壁山も宍戸とおなじように火を消した。きもちわりー。繰り返された言葉が、一気に温度をさげたくらやみにぽつりと落ちてすこしにじんだ。宍戸さ、あんま考えんなよ。お前いいやつなんだから。その言葉に宍戸はじゃりっと地面をこすった。その足音がざくざくと移動して、隙ありっ!という声とともに壁山はきれいにぶらんこから落ちた。べしゃりとうつぶせたその背中に、宍戸がどっかりとすわる。あのさーそーゆーこと言わないで。宍戸が体重を移動させるたびに、からだがゆらんゆらんとゆれる。いつでもあんなふうにいてくれたらいいのに。見せたくないところなんか、壁山だって見たくないのに。宍戸。だまれよ。壁山が言葉をつむぐ前に宍戸がそれを立ちきった。だったら壁山に言うべき言葉はもうない。うつぶせた目の前に、靴底でこすられたマイセンがしおれて落ちていて、それがすこしぼやけたので壁山はたくさんまばたきをした。ふたくちだけ残されたミートドリアを、結局宍戸は食べなかった。かさかさにかわいて、きっとあれは今ごろすてられている。食べてやればよかったと今さらのように壁山は後悔して、後悔しながらそれがどんなに無意味なことかをかみしめる。壁山の背中で宍戸がうたをうたっている。やや調子のはずれた、かすれたうたごえだった。そのかかとががりがりと地面をかいている。靴底にはあの灰が、くろくこびりついていることだろう。壁山には言葉など必要なかった。言いたいことならとっくにマイセンが雄弁に語っていたではないか。はじまらずにおわったすべてのことを。そしてその顛末を。





殻のマイセンは知っていた
壁山と宍戸。ファミレスジャンキーなふたり。
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