ヒヨル サバンナの風 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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例えば彼の手の指なんかは浅ぐろく焼けてざらついていて、爪のひとつひとつがコートから切り離されたくすんだぼたんみたいにとつとつとまるく並んでいる。そのぼたんみたいな爪にはそれをくるむようにすうっと周りにくろくかわいた土が沈んで、ところどころささくれで皮がめくれあがっている。指は、なんていうか、取れ立てのやあらかいごぼうみたい。あんまりきれいじゃないけど、よくしなうやさしい指。てのひらはいつでも太陽のようにぽかぽかしていて、ひなたの落ち葉みたいなにおいがする。うまく言えないけれど、彼の手は彼そのものみたいだ。繊細さはないけど、その代わりに限りなくあたたかな手。彼は木登りがとっても上手で、彼そのものみたいなてのひらをぴたりと幹に押しあててするするするっと上までいってしまう。そのときに彼のてのひらが、木の皮とあんまりにもなじんでいるみたいで、あんまりにもなじみすぎてひとつになってしまうんじゃないか、と、いつもいらない心配をしてしまう。
いちばんはじめにふたりが出会ったとき、猿田登は気をつけの姿勢のままほんのちょっぴり前かがみになって、ものすごくおおきな声で、さるたのぼるでえす、よろしくおねがいしまあす、と言った。その挨拶を向けられた瀬川流留は目をまるく見開いて、ちょっとあごを引いて姿勢を正し、せがわるるでえす、こちらこそよろしくおねがいしまあす、とおなじくらい声を張り上げてみせたのだった。その声のおおきさは近くでパス練をしていた土門と栗松がぎょっと振り向き、その拍子に足元をくるわせた土門のボールが栗松の横をひゅうっとすり抜けて、キャラバンの横腹にでくぼくの模様をくっきりつけてしまうくらいだったのだが、当の本人たちはお互いがお互いを予想外だと思っていたらしく、ただぴっちりと直立不動で見つめあっていた。なにやってんの、と土門が不審そうにたずねなければ、きっとふたりはなん時間でもそうやって、お互いを予想外だと思いながら立っていただろう。
そのころルルは高いキック力と制球力に反して冗談みたいに低いガード、というアンバランスな能力を、自分自身でも、そしてキャプテンの円堂ももて余していた。どうにもうまく攻撃陣と噛み合わない突出したルルの能力をコントロールするために、円堂が採った方法はルルをコンビ技での斬り込み役とするものだった。そのために選んだパートナーは野生中でミッドフィルダーとして活躍していた猿田で、こまやかなボールコントロールとバランスのよい能力、加えておおらかな気質と些細なことにも動じない精神的なずぶとさが円堂の気に入ったからだ。ルルより先に雷門中でプレイしていた猿田はこの提案をふたつ返事で引き受け、そしてこの対面と相成ったのだ。ルルはくちびるをちょっと曲げて、足ひっぱったらごめんなさい、と言い、サルはそれにキキキっとあかるくわらって、あいきどうの秘伝書をルルに差し出した。
年齢性別は違えど努力を惜しまないふたりであるから、ふたりはあいきどうをそれは一生懸命に練習した。足を踏み出すタイミング、腕の振り、呼吸、どういうモーションから技へ繋げるか、技のあとにどうやってボールをさばくか、技をかわされた、あるいは打ち破られたときはどうやったらふたりともけがをしないように避けられるか。ふたりは寝る間を惜しんで特訓し、あたまを絞って考え、ときどきは技を鏡に写したりビデオに撮ってもらったりしながら練習に練習を重ねた。ルルがもうできないようとだだをこねるとサルが励まし、サルが飽きて練習をやめようとするとルルが引き止めた。なんかもうわたしの手ってサルくんの手のこと覚えてるみたい。うん?うん、とルルはまじめな顔で自分の手をぐうぱあさせながらサルに差し出した。なんだかへんだよ。
ルルの手はしろくほそく華奢で、それでもスポーツをするひとによくあるみたいにてのひらといわず甲といわずかわいてかさついている。つるりとしたさくら色の爪が、砂浜に落ちた貝がらみたいにぽつぽつぽつっと並んでいる。ちょっと伸びた爪のあいだには少しだけ砂がつまって、それがほそい三日月みたいなカーヴを描いている。しろくてほそくてやわらかな、ルルの手はマーガレットの花みたいだ。サルくんの手って植物みたいだよねえとルルは言って、自分のぐうぱあの手をサルのてのひらに並べた。なんかねえサルくんの手っていきものーって感じがする。いきものだよ。うんそれはそうなんだけどね。ルルはそう言いながらサルのてのひらに自分のそれをぴたりと重ねた。こうやってると栄養もらってるって感じ。そうかな。そうだよーとルルはあくまでまじめな顔で、あいきどうのときにいつもそうしているみたいに、サルの指に指を絡める。
あのねーサルくんてさー木登りするじゃんね?そんで上手じゃんね?うん。あれねーやめてほしいなー。なんで?なんかねーサルくんの手って植物みたいだから、サルくんが木にひっついちゃって取れなくなったらどーしょって思うの。ひっつかないよ、とサルはびっくりしたように、ルルと繋いだのとは反対側の手を見た。特別おかしなことはなにもない、ただの自分のてのひらだ。だって今までひっついたことないもん。そんなのわかんないじゃんとルルはしたくちびるをつき出す。これからもしかしたら、ひっついてサルくんも木になっちゃうかもしれないじゃん。ならないよ。サルはルルの顔をのぞきこむように首を曲げた。先輩、どしたの。そう言ったとたん、ルルがひゅっとからだを返してサルの首にその腕をまわす。えーんと頼りない声音でルルが泣き出したのはそのときで、サルは思わずこわばらせた全身から力を抜いた。
ぶあっと吹いた突風がふたりの頭上の木を揺らし、葉っぱをなん枚もひらひらひらっと落とした。雨みたいに降り注ぐ葉っぱの中で、ルルはだだっ子のように泣きじゃくりながらサルから離れない。ルルの指がサルのバンダナの結び目をしっかり掴んでいて、やがてそれがほどけて吹き飛ばされる。マーガレットみたいにやわらかななルルの手。サルくんいないとサッカーできないし。しゃくりあげながらルルは言う。やだよ。わかった。サルはそうっと自分の手をルルの背中にまわした。もうしない。先輩と一緒に、サッカー、する。ああこのままひっついてしまえばいいのに、とルルは思っていて、本当のところ彼と一緒にいられるなら方法はなんだってよかったのだ。遠慮がちなサルのてのひらからは栄養がからだにどんどん流れこんでくる。ルルはその栄養でどんどんつよくなって、いつか彼をさらっていってしまいたい、くらいに思っている。けれど今はなぜか涙が止まらないし、それなのにずっと彼が一緒にいてくれて、それがまた新しい涙をぼろぼろこぼさせる。せめて離れないようにてのひらに力をこめてつよくつよく彼を抱く。なくしたくない、なんてことは、ずっと前からもう知っていた。







サバンナの風
サルとルル。
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