ヒヨル 月面着陸 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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※大変不愉快な描写あり。閲覧注意。































媚びるようなそのわらいかたが好かない。
基山は両手であたまを抱え、背中を丸めて横たわっている。ひっ、ひっ、とときどきからだが引きつっているので、円堂には基山がわらっているのだとわかるのだ。ぞぞ、と草がゆれる。耳を引きちぎる寒風に、基山は手足のない虫のように悶えていた。じゃ、とスパイクの底で砂がよじれる。基山がごそりとからだを起こし、いかにも構ってほしそうな顔でわらっているので円堂はそちらに向けて地面を蹴る。ばらばらっとこまかい砂が彼の顔を打ち、そのうちのいくらかはべたべたに濡れた頬にこびりついた。四肢をもがれた虫のような基山。円堂は汚物でも見るように基山を眺める。事実、基山はみにくい少年だった。唾液がくちびるの端からあごへ伝う。笑みが消せないらしい。ひっ、と基山は痙攣たようにわらっている。汚い。円堂は左のスパイクを脱いで、彼に向けて振りかぶった。



一問一答。イエス、オア、ノオ。
『昨日たべたものを覚えていますか』
・イエス
『今朝たべたものを覚えていますか』
・イエス
『すきなもの、こと、ひと、を、三つ以上挙げることができますか』
・イエス
『では、四つは』
・イエス
『五つ』
・ノオ
『それらが四つより増える可能性はありますか』
・ノオ
『神様、あるいはそれに準ずるものを信じますか』
・イエス
『神様はいると思いますか』
・ノオ



あのとき彼の脚を折ったのはきみだろ。隣のぶらんこに立ち上がった基山ヒロトがなんでもないみたいに言う。円堂はちらともそちらを見ずに、手もとのキャストドルチェに視線を落としている。案外ひどいことするんだね。きみ、彼のこと嫌いだった。基山はなにが楽しいのか、やけにうきうきと語りかけてくる。基山の言葉の真偽について言えばそれは本当で、ただ、別に嫌いではなかった。ひざの関節を横から踏んで、ゆっくりねじるように体重をかける。軟骨や、あるいは神経が傷ついて、しまうように。ゆっくりと丁寧に、踏んでやった。痛みは、あっただろうか。あっただろうな。今さらながらそんなことを考える。ついでに足首もかかとで叩き折ってやった。けもののような悲鳴が、ほそくながく、彼のくちびるからまっすぐに流れ出ていて、それが非常にあかかった。そんなことしか覚えていない。


なんにも思い出すものがなくなったとき、わたしは最後になにを思い出すだろう。


一問一答。イエス、オア、ノオ。
『思い出せないことはありますか』
・イエス
『思い出したいことはありますか』
・ノオ
『思い出したくないことはありますか』
・イエス
『あなたに思い出はありますか』
・ノオ



ぶらんこがぎゅうっときしんで、基山のからだが地面と平行に持ち上がる。耳元でびょおびょおと風が唸っている。守、覚えてないのかい。基山は確かにそう言った。あれはぼくのせいじゃないんだよ。あれは守がやったんだ。守が望んで、守がそうしようと思ったから、あれは起きたんだ。かわいそうな彼。泣いてたじゃないか。
円堂は基山のわき腹を蹴りつけた、ぎゃ、とその喉の奥で苦痛がはじける。円堂くん。円堂くん。基山が狂ったように名前を呼ぶのでいらついた。まるで脳を噛んでいくような、そのむかつき。泣いているのかと思ったら、基山はわらっていた。ひいひいとかすれた声が喉を波打たせている。円堂くん、ぼくは、きみがわるいなんて思ってないよ。不意にかっと脳裏を燃やした衝動に、円堂は彼の頭部を全力で蹴飛ばした。いやな音がした。ぞぞ、と草がゆれている。ぞぞ、ぞぞ、ぞぞ。

ござんなれかみさま!ひとはこんなにもみにくい!!
みんなうそつきだ。



一問一答。イエス、オア、ノオ。
『昼間に見る夢はありますか』
・イエス
『夜に夢は見えますか』
・イエス
『あのひとのことを愛していますか』
・ノオ
『覚えていますか』
・イ
『忘れましたか』
・あ
『恐怖ですか』

『羨望ですか』
『あなたはあなたですか』
『あなたのことを覚えているひとはいると思いますか』
『あなたは』
『わたしは』
『なんにも思い出すものがなくなったとき』
『あなたは』



みんなうそつきだ。



そう言ってくれ。誰か。



ぎゅん、と視界が一回転して、気づいたら円堂は暗やみの中にぽかりと浮かんでいた。星が見える。ちらちらとまたたいて、その静寂はまるではじまりの鐘のようだった。ぼかりとあおい球体が輝いている。胎児のように手足を生やした星だ。昼間に見る夢はいつもこんな場所にいる。やがて円堂はくるくると回りながら地面に降り立った。花が咲き乱れている。風も光も水もないのに、その花たちはうつくしかった。キャストドルチェを手放すと、それはふうわりと浮いて円堂から離れていく。手足を生やしたあおい星はうぞうぞと宇宙を掻くが、どうしてもそこから動けないらしい。月だ。円堂は突然自覚する。さびしい胎児がそこにいる。だから。
「見て、守!ぼくたち月の裏側だ!」
振りかぶったスパイクを叩きつけた。
どうでもよかった。







月面着陸
二期に寄せて。


※分裂症の円堂。分離している基山ヒロト。足を折られたのは栗松。質問者はかみさま(=円堂大介)
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