ヒヨル よきひとのためのソナタ 忍者ブログ
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ペルソナ4。小西と海老原。























かまってほしいの。ひくい少女の声に小西は顔をあげた。すらりと伸びたしろい脚が視界に入る。海老原は携帯を片手にたたずんでいた。いつも通り、ほそい眉を寄せながいまつ毛の目をすがめて。小西はうるさそうにあたまを振り、なにも言わずに再びひざを抱えた。うっそりと曇り濃い霧が立ちこめた八十稲羽は、冬のさなかにひときわ寒々しい。十二月も、もうすぐ半ばだ。帰ってこないひとを待ち続ける、その行為がなおさら寒さを募らせる。らしい。小西は何度か指を握ったり開いたりした。こわばった指だ。悩むのはもうやめたとはいえ、か弱く頼りないあおざめた指。戦わないものの糸のような指。海老原の脚は抜けるようにしろく、発光しているみたいにまぶしい。ながく華奢でかたちのよい、新鮮な野菜のようだと小西は思う。携帯は鳴らないまま閉じられた。人待ちの海老原はいつにも増してさえざえと危険に艶っぽい。
海老原がやがてそのかたちのよい脚を振り上げて、うずくまったままの小西の肩をかかとで蹴飛ばしたときには、街には翼のように夜が舞い降りてけたたましく啼いていた。喪失から一年も経つのに、小西の中の鴉は啼き止まない。パンツ見えますよ。小西は肩に押し当てられた靴底から流れ込む燃えるような憤怒を、おなじもので押し返しながらぼそりと言った。いいよ。海老原は平然と答える。とげだらけのその口調。あいつに見てもらえないなら意味ないし。クソビッチが、と思いながらその脚を払いのけようとした、その手前で海老原は自ら脚を引く。小西の手がむなしく宙を掻き、思わず見上げた視線の先の海老原はうつくしい顔をかたくこわばらせていた。誰もが振り向くその美貌を、奪ったのはあのひとだという。小西から絶望を奪ったひと。その代わりに、深い深い喪失を教えたひと。
海老原はひゅ、と息を吸い、それと同時に小西のうしろにやわらかく撫でつけた髪の毛をわしづかみにした。ぎっと喉の奥で悲鳴を上げ、小西は思わず首をよじる。今の顔。海老原はほそい眉をひそめている。そっくり。あんた、なに。早紀の弟?呼び捨てにすんじゃねーよ!小西はあたまを振るって海老原の手から逃れる。弾かれたように立ち上がった小西の前で、海老原は幽霊でも見つけたみたいな顔をしていた。心の奥で鴉が首をもたげる。つややかな翼を夜のように、夜のように掲げて。思わず殴ってしまいそうになった、その手を押し止めたのは海老原のうつくしい顔だった。そして、その向こうの、あのひと。この女を傷つけたらあのひとが悲しむ。海老原の色素のうすい目に小西がかすかに映り込んでいる。ぽつりと孤独な球体は、なにもしないのに濡れ濡れと光った。
あたし。海老原が妙にしおらしい口調でプリーツスカートの後ろを撫でつけた。そのまま底冷えのアスファルトに腰を下ろす。あんたの姉貴に似てるって言われたことあるよ。小西は口をつぐんだ。見下ろす海老原はやわらかな髪の毛を海のようにたたえて、どこか遠くを黙って見ている。似てるとか、おっかしいよねぇ。ははっと自嘲するようにわらう海老原の口元から、しろい息がふわっと立ち上った。そのきよらさに小西は息を飲む。そんなん言われたって、嬉しくもなんともないのに。小西は糸のような指をそっと握り、かける言葉を必死に探す。似てないよ。ようよう見つけたその言葉に海老原は顔を上げ、そうだね、と言った。だから撤回。髪の毛を透明なマニキュアの指で掻き上げながら海老原はささやくように言う。鴉が啼く。ボオボオと吠えている。あんたと早紀、全然似てないから。大丈夫だから。
小西早紀は姉だった。よく似た姉弟だと言われていた。それこそ、彼女を失ってしまうまで、言われていた。似てなんかいるものか。おれはあの女が大嫌いで。だいきらいで。小西の中の喪失感が、ぽかんと球体になって浮かぶ。それを包む鴉の翼。大嫌いで、なのに、それを伝える前に、あの女は飛んでいってしまったから。だから小西は鴉を飼うのだ。絶望を食い荒らし、喪失を護るアイアンメイデン。あんたと、姉ちゃんは、似てなんかないよ。海老原は横顔だけでうつろにわらった。小西早紀は死んでしまった。もういない。あいつに見てもらえないなら意味ないし。このひともなくしたのか。大事なものを。それと伝える前に。
かまってほしいならそう言いなよ。そんなことを海老原は嘯く。小西早紀は死んでしまったし、ならばあの女に似ているおれたちは、幽霊みたいなものだ。光が差せば消えてしまい、悪意と喪失を這いずる哀れな影。ボオボオと鴉が啼き、ふたりの球体は護られていた。戦わないものの糸のような指は、いつだって虚無の向こうを探して、探して!小西は海老原の二の腕をつよく掴んだ。あのひとの帰らない家の前で。ようやく見つけた後ろ姿の、触ればあなたになる場所を。






よきひとのためのソナタ
ぺよん、小西と海老原。
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