ヒヨル いざ立ていくさびとよ 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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動物のようだと彼はいう。
それも別にわるくはないと影野はゆっくりと首をかしげた。首筋にはまだあおく痣が残っている。言葉をあやまたずに地面をうつ雨の音がやけに遠くてやあらかい。「雨のにおいがする」そう言ったのは朝練が終わったあと、やたらと水が広がって飛び散る水道で手を洗っていたときのことで、それを隣で聞いていた染岡はあからさまにしぶい顔をした。影野はそれ以上を避けて、ずぼんの腰にはさんだハンドタオルで手を拭いながら壁山に場所を譲る。地面が蒸せるような雨のにおい。学校全部がうすいうすい水分のまくに覆われてしまったようだ。まとわう湿度の重みを嫌う。髪の毛はすぐにそれとわかるのだ。影野の檻。彼はそれを動物のようだという。
ぽってりと厚い葉を水滴がすりりと滑り落ちてゆく。こまかくも降り続く雨にいきいきと歓喜するのは植物ばかりで、吹きだまりの空気はべたついて淀むばかりだ。うんざりした顔と目。それでも素直すぎるまなざしは厭うほどのものでもない。空気の流れがほんのわずか自分に向いている、と感じた次の瞬間には彼が仏頂面をしている。机から教科書を抜き出して渡してやる、その表紙がうっすらと湿っていた。影野は眉をひそめる。彼が持っていってしまった教科書は、もういらないと思った。ビニルカヴァを買わなければ。エコなんて言葉はしない善よりする偽善より気分がわるい。そうかと影野はてのひらを広げてじっとながめた。動物のようだ。か。
そんなことがあったよ。影野は屋上でビニル傘を差しながら靴を脱ぐ。へえ。円堂が学ランをべたべたに濡らしたまま寝転がっている。注意深く雨の当たらない場所に靴を立てかけ、素足が水の這った屋上を打つ。雨と草と錆と砂のにおい。円堂はからだを起こし(てらてらに変色した学ランがくしゃりとよじれる)、伸びをして肩を回した。影野は円堂に傘を手渡す。ビニルの下の不景気な顔の、くすんだくらげのような円堂。おまえのこと動物とか見る目ねえな。円堂は傘を肩に器用にもたせて、弛緩した様子で遠くを見ている。そう。影野はサッカーができない。足もそう速くないし、伸びすぎたからだの使い方は、お世辞にもうまいとは言いがたかった。影野の素足はしろい。ゆたりと伸びやかな、動物のようなそのかたち。
影野は身軽にフェンスに取りつき、ぎしぎしとそこをきしませながら上っていく。一番上で綱渡りの道化みたいにくるりと円堂に向き直ると、影野は濡れて重くなった髪の毛を払った。首のあおい痣は鮮やかな空色をしている。はい、チーズ。ぱぱっとフラッシュが光り、それと同時にひゅんと現実は逆転する。彼の手元の濡れたデジカメ、それにピースサインを送った影野のからだは、円環状の鋼鉄の蛇になって高々と舞い上がった。誇り高き無限の蛇。吠え方を忘れた気高き四つ足のいきもの。曇天を猛然と平らげていくウロボロスを見ながら、円堂はぱきんと傘を閉じる。「くそきもちわりいやつ」
けだものだと彼はいう。牙を隠し爪を隠し、口をつぐんで檻に永らう、けだものだと、彼は。







いざ立ていくさびとよ
影野。
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