ヒヨル 下り坂にて 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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影野の背中は痩せていて、背骨がうっすらとまるくたわんでいる。ひふがうすくて色がしろく、だけどながい髪の毛がそこをやわらかくおおい隠すので、こぶこぶの背骨やとび出た肩甲骨を、普段は見ることができない。ひょろひょろと背が高いけれど猫背ぎみで、地面にすわるときはいつも膝を抱えているその奇妙な同輩を、松野はおそらくすきだった。ようす。松野は挨拶がわりに、いつも影野のうしろに立って膝かっくんをする。これがおもしろいほど毎回決まるので、いくらやめろと周りに言われても(影野はそんなことは言わない)やめられない。影野が膝を抱えているときは、こころもち膝をまげて、それを背中にぶつけてやる。膝かっくんも膝タックルも、くらわしたあとに影野がやわらかく、松野、と呼ぶのが松野はすきで、だから松野は影野がすきだった。おまリアクションまじうすい。そうかな。そーだよつまんねーよ。いつものように膝かっくんで転ばされたあと、松野が言うその冗談みたいな言葉に影野は真剣に考えこんだりする。つまんないか。影野のよれた制服のズボンのすそから足首がのぞいていて、いそいで上履きを脱いだ足でそこを、うりゃ、とやわらかく松野は踏んづけた。昨日落とすのを忘れたペディキュアのエナメルが、足の指の先でてかてかにひかっている。松野は靴下をはくのがすきではない。足首には南米みたいな色のミサンガと、ヨガをするひとがつけてそうなくろいゴムの輪をかさねている。いい色だな。廊下にくずれ落ちて足首を踏ませたまま、影野は松野のペディキュアをおそらく見て、そんなことを言う。極彩色ばりばりでぎらぎらのラメラメの、目がいたくなるようながちゃがちゃしたその色を、誰もが趣味のわるい色だと言うのだ。五指のすべてにちがう色がはりついていて、それらは全部つぶのこまかいラメでひかっている。ねぇ起きなよ。松野がそう言うと、影野は足を踏ませたまま器用にからだをねじって、片膝を抱えた。松野。影野が肩のあたりにわしゃわしゃになった髪の毛を背中にはらう。松野はペディキュアとミサンガと輪っかで飾られた足をふりあげて、しろいかかとで影野の肩を、とん、と蹴った。戸惑うように影野はそれを見て、言うべき言葉をたぶん懸命に探し、それが見つからなかったためにぼそりと言った。ごめん。あーあの背中にはりつきたい。松野は帽子の耳のところをいじりながら、だけどそんなことを考えていた。あーあの背中にはりつきたいあの背中にもうすき間なくぴったりとはりついて息ができないくらいになりたいっていうか息なんてしなくてもいいくらいべったりしたいきもいって言ってひかれるくらいべったりしたいもうむしろあそこで同化したい影野影野影野影野。影野。影野は膝を抱える。松野はうしろに回って、背中に膝をうちつけた。かーげーのー。じーん。じんじん。影野のやわらかい髪が膝でよじれる。この髪の毛と学ランとカッターシャツとインナーの奥にうっすらとまるくたわんだこぶこぶの背骨やとび出た肩甲骨が、ある。だめだ、と思った瞬間には、いさぎよくすることを松野は普段から心に決めていて、だからそれが襲いかかってきて思考がふさがれてしまうその寸前に、ばいばい、と去った。なるべく影野を見ないようにして、だけど教室にとびこむそのときに、視界のはしで影野がゆっくり立ちあがるのが見えた、気がした。
教室の扉を思いっきり開けて思いっきり閉めると、反動でばしんとまたほとんど開いた。いらついたので音をたてて椅子を引いて、上履きをすっかり脱いだ足を机の上で交差させる。上履きは片方廊下にわすれてきた。影野が持ってきたらぶち殺してやると松野は眉をしかめるが、結局それを持ってきたのはおなじクラスの友人だった。あの髪ながい子から渡されたよとの言葉に、俺あんなやつしーらね、と答える。あの背中に。(あの背中にはりつくことができるなら)(おれはきっとどんなことでもするのに)。だから松野は影野がすきだった。そういうわずわらしいうっとうしい感情を、影野の手でわすれさせてくれるのだから。つーか俺明日から髪のばすわ。松野は友人を見て、にやっとわらう。松野の思考の隅では、いつも影野がしろい背中をさらして、膝を抱えてすわっている。どうせすぐ飽きるんだろ。わらいながら投げ掛けられる言葉に、やはり松野は反論のすべを持たなくて、だからうるせーはげ、と言ってやった。俺の気持ちなんてわかるかよと言うけれど本当はわかってなんてほしくない。全然ない。ただ影野がわかってくれてればいい。踏んづけたしろい足首が、やっぱりほそくてうれしかった。思考の隅で影野は繭のようにうずくまる。しろい背中がこちらを向いている。肩甲骨がラメラメの極彩色の羽になって、だけどそれを松野は踏んづける。何度も何度も、踏んづける。影野がわかってくれていれば、それだけで松野はかまわないのだった。影野のことを、松野はとてもとてもすきだった。だけど松野は無力だった。無力だった。






下り坂にて
松野と影野。自分が影野のことがすきなのを、自分以外の誰にも知られたくない松野。
松野と半田は個人的にかなりチャラい厨房です。
そしてタイトルのセンスが実にわるい。
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無印雷門4番と一年生がすき。マイナー愛。

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