ヒヨル 星盗人 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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一番さきにねた子に金の財布、
二番目にねた子に金の
三番目にねた子に金の小鳥。

(一番目のお床/北原白秋『まざあ・ぐうす』)


ロックアイスをふた袋と粉末ポカリをあるだけ、それから人数分のウィダーを詰め込んだクーラーボックスを下げて秋がキャラバンへの道を汗をかきかきあるいていると、むこうからすごい勢いで塔子がはしってきた。あき。塔子はかるく手を挙げて止まり、秋を上から下までながめて持とうかとクーラーボックスの取っ手をつかむ。それより用事じゃないの。あ。塔子はせわしなくジャージをぱたぱたと叩き、この先にコンビニあった、とたずねた。すこし向こうにスリーエフがあったよ。ありがと、持つから待ってて。いいよ、大丈夫。じゃゆっくり行って。わかった。手を振ってゆき違ったすぐあとに壁山と会ったので、そのままボックスを持って先に行ってもらい、ハンカチでひたいをぬぐいながら秋は塔子を待った。塔子はすぐに戻ってきて、手ぶらの秋を見てちょっと驚いた顔をした。ジャージのぽけっとからコンビニの袋がのぞいている。
なが袖のジャージをひじまでまくった塔子の腕はきれいに日焼けして、汗の玉が浮かんでいる。秋は日焼け止めをいくつも常備してきっちりと塗りこんであるし、スキンケアもかかさないので肌はまっしろくきれいなまま保ってある。しかしそれほど苦心しても、ひゃーあっつい、と屈託なくひたいの汗を手の甲でぬぐう塔子のほうがよっぽど健康的だな、と思った。健康的で、すごくきれい。ふと見た塔子の鼻のあたまがあかくちりついている。コンビニ、なんの用事だったの。そうたずねると塔子はひとさしゆびを鼻の前に立てて、シー、と秋を手招きした。道から植え込みに入り、つつじの葉っぱをべたべたとからだじゅうにくっつけながら奥のちょっと開けた場所まで入ると、夜露をたっぷり吸ってひしゃげた段ボール箱に、まだ目もひらいていない子猫が捨てられているのが見えた。かわいそうになってさ。塔子はちょっとさびしそうに言って箱の前にしゃがみ、コンビニの袋からレトルトカレーみたいなパッケージを取り出し(表面に子猫の絵が描いてある)、指でぐにぐにともみほぐしはじめた。にー、とかすれたよわい泣き声が聞こえて、秋は思わず立ち尽くす。
どうするの。んー。連れてけないよ。わかってるよ。パッケージを開けてつぶされたキャットフードをてのひらに取り出し、すこし温かくしてから塔子はそれを猫に差し出す。猫は鼻をひくつかせ、よわよわしくあたまを持ち上げた。食べて、と塔子はぽつりと語りかける。食べなきゃ死んじゃう。秋はにがい顔で塔子のうなじを見下ろした。秋はさ、塔子が振り向きもせずに言った。あんまりこういうの、すきじゃないだろ。こういうのって。動物とか、なんかこう、中途半端なこういうやさしさとか。秋は力なくわらって、どうして、と再度問う。ごめん。ううん。でもわかるんだ。秋って。塔子はそこで言葉を切り、わぁ秋食べたよ、とうれしそうな声をあげた。猫がキャットフードに顔を押し付けるようにして食べているのを肩越しに見て、それよりも猫に餌を差し出す塔子の、ぼろぼろに荒れた指先に目を奪われた。
パッケージを力任せにひろげ、それを箱の中に置いてやりながら塔子は言った。あたしだって、なんでもできて当たり前なんてもう思ってないよ。塔子の肩がすこし揺れる。たぶん、わらっている。ほんとはこんなことするほうが残酷なんだよね。秋は不意に、うしろから塔子の首に手を回してその背中を抱いた。膝が泥によごれる。ねえ塔子、知ってる。塔子のきれいなうなじに鼻先をすりつけるようにしながら、秋は夢見るほどとおい口調で言った。お砂糖とスパイスと、素敵なものをたくさん混ぜて女の子は生まれたんだって。あはは、と塔子はわらった。秋みたい。うそばっかり、と思いながら、秋は目を閉じてすこしだけ腕に力をこめた。秋って学校でどんな感じなんだろう。見てみたいな。見れるかな。秋はふふふ、とすこしわらって、どんなに荒れた指先をして焼けた肌をして傷だらけになってサッカーをしていても、塔子からはお砂糖とスパイスと素敵なものがたくさん混ぜ合わさったようなにおいがするな、と思った。
この猫には金の財布をあげなきゃ。それを聞いて、ん、と塔子は言葉を詰まらせた。秋がいてくれてよかった。秋は腕をほどいて立ち上がり、行こう、と手を伸ばす。掴んだ塔子の手はあぶらでべたついていたけれど、わたしも、と秋はわらうことができた。塔子はきっと金の雉を抱くので、わたしは金の小鳥をもらおう。健康的で残酷で、天使みたいにきれいな塔子。空がおどろくほど高くあおくて、つないだ焼けた手としろい手をかすませて溶かしていく。さっきの言葉の続きが聞きたくて、だけど思い出すのはずっとずっと昔の海の向こうの夏ばかりだった。あの夏は死んで景色は生まれて、なにも始まりはしなかった。だけどそこから始まったようなものだけを引きずって、終わりたかったあの日の遊び。





星盗人
秋と塔子。
初塔子。だいすきです。二期キャラで書くつもりはなかったんですが、塔子すきすぎて思わず。
あと北原白秋のまざあぐうすがすごすぎてめだまとびだした。
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