ヒヨル 聖轍 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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海は海でも砂浜がしろく乾いてさびしい、岩だらけのような場所がいい。夏に来るならよけい、そういう場所がいいのだ。頭上から落ちてくる車の排ガスやエンジン音をテトラポッドの陰にしゃがんで感じながら、あづーと宍戸は空を見上げた。つっかけた派手なドット柄のサンダルからのぞくつま先が、サウナみたいな砂にもぐって焼けるようにあつい。宍戸の傍らにはハの字にくろいクロックスが脱ぎ捨ててあって、そこから波打ち際まであしあとが一直線に続いている。栗松は何をするでもなく、ただぼおっと突っ立ったまま片手をあげて日を遮っていた。ときどき驚いたように後じさっているのは、たぶん波が足に襲いかかるのを避けているのだろう。ばかだなーと宍戸は足元のあつい砂を右手の四指でざざーとかき回す。もっと離れて見ればいいのに。
練習のあと、ただでさえあつくてべたべたでくたくたであーはやく帰ってつめたいシャワー浴びてアイスくって昼寝しよー、というつもりで栗松とくだらないはなしをしながらてきぱき着替えていたら、なんか流れで海まで来ていた。いやいや意味わかんねーーーから!宍戸はざっと砂をてのひらではたいた。てーつ。声を張り上げると、波打ち際で栗松が振り向く。おまえなにしにきたのー。あー?だーら!なんで海なんだよ!宍戸も行きたいって言っただろー。それこういうのとちゃーうよ。くっそと宍戸は右手をざらざらと砂に滑らせる。かさかさになったてのひらを持ち上げて匂いをかぐと、焼けた潮がなまぐさくてうえーとなった。栗松は相変わらず、ときどき波から逃げながら海だか空だかを眺めている。それがまたバチーンと憎いほど爽やかな夏の色をしているので、あーみじめみじめ、と宍戸は手を払う。
ふと砂に沿って伸ばした指が、乾いた骨のような木の枝に触れた。それを持ち上げてからからと振る。中は空洞になっていて、なにげなく覗くと栗松の背中がすこしだけ近く見えた。そのちぐはぐの距離感に眼球がいやな感じに揺れたので、枝を下ろして砂に突き立てる。
(あー)
(こんな感じかな)
砂にざざっと棒人間でさっき見えた風景を描いた。栗松は今は両手を庇みたいにして、だるそうに立っている。この炎天下であついのだろう、ときどきあたまが危険な感じにぐらついていた。栗松は今もスタメン固定なので、フルタイムでグラウンドをはしり回っている。自分とは比べ物にならないくらい疲れているのだろうなと、宍戸はそっと目をほそめた。
(いやまー気持ちはわからんでもないけどさ)
(逃避行って普通あれ、ひとりでこそーっとするもんじゃねーの)
砂の上にがりがりと絵を描きながら、宍戸はちょっとわらった。ばれてないつもりなんだろうか。ほんと、あいつは、ばかだ。いつの間にか四つんばいになって、かなり本格的にがりがりやっているとふと目に汗がしみた。やべっと顔をあげると、乾いた砂浜と海と空の境目に栗松のあおいTシャツが融けて、まるであたまと骨みたいな腕だけの生きものみたいに見えた。疲労を乗せて空と海と夏の現実にふわりと浮いた栗松のさびしい頭蓋は、以前美術の時間に見た静物画のまるいりんごのようにかなしかった。その次の絵では最初の人間がりんごをかじっていてそのおぞましさにぞっとしたのに。栗松が海に向かってなにか叫んでいる。
(それってかなしいことでもなんでもないのに)
(それでもおまえ、逃げるのな)
(なにから?)
(なんかこう、迫ってくるもの。逃げられないものから)
(つか)
(おれなんでこんな真剣に考えてんの)
(なんでって、それは)
砂に埋めた膝が焼けるほど痛んで、ふと顔をあげると栗松がへんな顔で宍戸を見下ろしていた。なにしてんの。いやーなんか、盛り上がって。栗松の足首は砂がざらめみたいにまとわりついてしろくけぶっている。栗松は宍戸の手元を覗きこんで、うまいね、と言った。ふと振り向くといちばん最初に描いた栗松は、宍戸のつま先が踏み消してしまっていた。なにもなかったみたいに。あー、と宍戸は膝立ちの姿勢になってぽいと棒を放る。栗松の後ろには逃げられない現実があおく爽やかにバチーンと広がっていた。誰を乗せて誰を選んで、栗松はどこまで逃げるのだろう。いつまでおれを連れていってくれるだろう。あんなさびしい後ろ姿で、どうしようもなく叫ぶしかないおまえは。
宍戸はふと栗松の骨みたいな手首に触れた。なに。すきってことさ。は?エヴァ?そーそー。宍戸はするりとそこから手を離し、どーせだからエヴァ観ていこーぜと膝を払った。栗松はぱっとわらう。いーね。指先にひふのあつさの残る手をもてあまし、どうにもできずに宍戸はジャージにこすりつける。栗松はどうしようもなく現実で、それに直面して逃げたいのは自分なのかもしれないと宍戸は思った。りんごをかじった最初の人間は、どこにも行けやしなかったのに。しろく乾いた楽園の砂浜には、現実と栗松をつなぐ轍がさびしくくぼんでいる。栗松の足のかたちをして、どこへも行けずに逃げることもできずに。それなのにあのとき現実にぽかりと浮かんだりんごの頭蓋みたいに、かなしいと喉も割れよと叫びながら。宍戸の足はなにも生まなかった。現実がまるで津波のように楽園を辿って押し寄せてくる。轍は栗松で終わっていた。まっすぐに、孤独に、幻のように、きよらに終わる。







聖轍(きよわだち)
宍戸と栗松。
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