女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。
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電車の中で目の前に立った女が気に入らなかった。
髪の毛をちゃいろく染めてパーマをかけてあるのも気に入らなかったし、アイラインが濃すぎるのも気に入らなかった。アイシャドウがあわいむらさきなのにくちべにはてらてらしたピンクなのも気に入らなかったし、ほそい鎖のペンダントがアナスイの蝶のかたちなのも気に入らなかった。肩にかけるタイプのおおきなずだ袋のようなものに、まるい赤ん坊を入れて抱いているのも気に入らなければ、隣の旦那らしき男がベビーカーをたたんだやつを手にしているのもおそろしく気に入らなかった。極めつけは女の手だ。しろくほそい手の左手首には、きんの腕時計と華奢なブレスレットが巻きついているのに、その薬指に指輪はない。
赤ん坊は太平楽な顔をして寝ている。女はこわいくらいつめたい仏頂面で、旦那は窓の外をぼおっと見ている。隣のはげたおやじの、あるいは、帽子をかぶった松野の頭ごしに、ぼおっと。平日の昼間。スイカをはたいて松野は行けるところまで行く。あまりひとの乗り降りしない駅から乗って、七人掛けのまんなかに座る。左右が埋まるたびにいらいらは募るし、だからと言って携帯にもミュージックプレイヤーにも松野は逃げない。電車に乗るときは、電車に乗っている顔をする。女が足をふみかえて、左腕で支えられた子どもが揺れた。その駅でさんにんは降りる。女はつめたい仏頂面で、男はぼおっとした顔で、赤ん坊はくろいまるい目をひらいて、なき出しかけたその瞬間に、人混みに消えた。
電車に乗るときは、電車に乗っている顔をしなければならない。どこかに行かなくてはいけないような。あるいは、それに足る理由があるような。薄荷のガムをひとつ口にいれて、奥歯で松野はそれを噛む。舌の上にひろがる味が気に入らない。隣のはげたおやじの腕がこすれるのが気に入らない。逆隣の半田がずっとモンハンをしているのが気に入らない。向かいの座席のばばあの化粧の濃さが気に入らない。ぎゃあぎゃあしゃべっているぶさいくな女子高生のかたまりが気に入らない。外がすっきりと晴れているのが気に入らない。あの女が気に入らない。あの女の旦那が間抜けそうだったのが気に入らない。あの女の赤ん坊がなかなかったのが気に入らない。あの女の指に指輪がなかったのが気に入らない。気に入らない気に入らない気に入らない気に入らない気に入らない気に入らない気に入らない気に入らない気に入らない気に入らない松野は電車が気に入らない松野は松野が気に入らない。
薄荷があまりにもきもち悪かったので、ものすごくおおきな声でえずいた。半田がぎょっとした顔で松野を見る。吐くなよ。吐かねーよ。松野は両手をポケットにつっこんで、左足のかかとで思いきり半田の右足を踏んだ。しねと半田がクエストから目を離さずに言う。向かいのばばあが同情みたいな顔で松野を見るので、松野はにっこりとわらいかえす。あの女が気に入らない。なにが不幸なのか教えてくれないのが気に入らない。
気に入るのは影野だけだ。だからしね。
メルヘンアンドファンタジー
松野
髪の毛をちゃいろく染めてパーマをかけてあるのも気に入らなかったし、アイラインが濃すぎるのも気に入らなかった。アイシャドウがあわいむらさきなのにくちべにはてらてらしたピンクなのも気に入らなかったし、ほそい鎖のペンダントがアナスイの蝶のかたちなのも気に入らなかった。肩にかけるタイプのおおきなずだ袋のようなものに、まるい赤ん坊を入れて抱いているのも気に入らなければ、隣の旦那らしき男がベビーカーをたたんだやつを手にしているのもおそろしく気に入らなかった。極めつけは女の手だ。しろくほそい手の左手首には、きんの腕時計と華奢なブレスレットが巻きついているのに、その薬指に指輪はない。
赤ん坊は太平楽な顔をして寝ている。女はこわいくらいつめたい仏頂面で、旦那は窓の外をぼおっと見ている。隣のはげたおやじの、あるいは、帽子をかぶった松野の頭ごしに、ぼおっと。平日の昼間。スイカをはたいて松野は行けるところまで行く。あまりひとの乗り降りしない駅から乗って、七人掛けのまんなかに座る。左右が埋まるたびにいらいらは募るし、だからと言って携帯にもミュージックプレイヤーにも松野は逃げない。電車に乗るときは、電車に乗っている顔をする。女が足をふみかえて、左腕で支えられた子どもが揺れた。その駅でさんにんは降りる。女はつめたい仏頂面で、男はぼおっとした顔で、赤ん坊はくろいまるい目をひらいて、なき出しかけたその瞬間に、人混みに消えた。
電車に乗るときは、電車に乗っている顔をしなければならない。どこかに行かなくてはいけないような。あるいは、それに足る理由があるような。薄荷のガムをひとつ口にいれて、奥歯で松野はそれを噛む。舌の上にひろがる味が気に入らない。隣のはげたおやじの腕がこすれるのが気に入らない。逆隣の半田がずっとモンハンをしているのが気に入らない。向かいの座席のばばあの化粧の濃さが気に入らない。ぎゃあぎゃあしゃべっているぶさいくな女子高生のかたまりが気に入らない。外がすっきりと晴れているのが気に入らない。あの女が気に入らない。あの女の旦那が間抜けそうだったのが気に入らない。あの女の赤ん坊がなかなかったのが気に入らない。あの女の指に指輪がなかったのが気に入らない。気に入らない気に入らない気に入らない気に入らない気に入らない気に入らない気に入らない気に入らない気に入らない気に入らない松野は電車が気に入らない松野は松野が気に入らない。
薄荷があまりにもきもち悪かったので、ものすごくおおきな声でえずいた。半田がぎょっとした顔で松野を見る。吐くなよ。吐かねーよ。松野は両手をポケットにつっこんで、左足のかかとで思いきり半田の右足を踏んだ。しねと半田がクエストから目を離さずに言う。向かいのばばあが同情みたいな顔で松野を見るので、松野はにっこりとわらいかえす。あの女が気に入らない。なにが不幸なのか教えてくれないのが気に入らない。
気に入るのは影野だけだ。だからしね。
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