ヒヨル わたしがゆくまでだいてておくれ 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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影野の指さきはしろくてほそい。まるで体温をもたないような、つめたいさかなのような指。さむがりの影野はよくそれをこすりあわせている。水面で旋回と潜水を繰り返す鳥に食まれる、うろこをひからせしろい腹をしたさかな。
土門はつっと手を伸ばす。後ろから、そのしろい首をめがけて。影野の髪の毛が水草のようにひっそりとなめらかにただよう、日の落ちた無人のさむいさむい部室。影野はそのまん中に立ち尽くして、さかなの指をこすりあわせる。どこを見ているのかはわからない。うすくひらいたくちびるから、ほそくほそくしろい吐息がこぼれた。土門。後ろからまるでくびろうとするように開かれたてのひらが、ぎしり、とかたまる。その甲のひふがぽつぽつとあわ立った。まぶたをひくつかせて土門はまばたきをする。ここは、ひどくさむい。
手をすこし下げて、うしろからこすりあわされた影野の指をつつんだ。なに、じんちゃん。てのひらにふれた影野のひふがつめたい。なに。影野は逆に問い返す。土門の顔のすぐそばで、水草の髪の毛がゆらりと動いた。そのしろい首筋にうしろから顔を押しつけて、土門はふかく息をする。なんのにおいもしない。水底のまるい小石をゆっくりと踏んでいくような、鈍く不快ないたみがいがいがと意識をなでる。つめたい。そうささやくと、巻きつけた腕がすこしふるえた。土門の腕は影野をからめとる。網のように。
ときどき土門は自分がよつ足の動物であればいいのにと思う。そうして影野はさかなであればいいと思う。影野は生き物はすかないけれど、土門がけものであるときには影野はさかなだから、ふたりは絶対にまじわらない。昼はおろおろとあるき、夜になると池のそばで足をおりたたんでねむる。そのふかい底には影野がおともなく泳いでいて、水面にうつった月をうらやましいと土門は思いつづけるのだ。
土門。影野がしずかに土門を呼ぶ。おれはつめたい?うん、つめたい。そう。おれはやさしくない?うん、やさしくない。そう。土門はつつんだ影野の指に、自分のそれをそっとからめた。土門。うん。おれはないてるのかな。つよくにぎる指はつめたい。さかなのようにつめたい。その言葉が音もなく水底にしずみ、泡のようにさざなみのように、土門のからだをかけのぼる。それこそがかなしみだった。それこそが。土門はけものになりたかった。影野とおなじ水をのみ、さかなをとる鳥をとるけものに、土門はなりたかったのだ。腕にちからをこめて土門は影野を抱く。しろい腹をひからせて泳ぐ、それは確かにかなしみだった。






わたしがゆくまでだいてておくれ
土門と影野。
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