ヒヨル 鉛の兵隊みなごろし 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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少林寺がいないと教室がひろすぎたりせますぎたりする。栗松の席は廊下がわから二列目前から二列目にあって、少林寺の席は窓ぎわの前から三列目。あいだに三列はさんですこし後ろに少林寺がいるという距離感が、教室の中で栗松が唯一はかることができる距離感だった。だから今そこに少林寺がいないということで、栗松はそれを失いつつある。教師の声が耳を聾するほどおおきくなって、目の前にやにのうっすらとついた歯が迫っているかと思うと、海と砂漠の向こうほどもとおくから、すぐ後ろにいる友人の手が肩をたたいたりする。机の上のノートがまるで千畳敷のように永遠に広がっていくけれど、そこを這う文字は水にすむ微生物ほどにちいさい。栗松はほおづえをついてついでにため息をついた。参ってしまう。
少林寺は昼休み、あっという間に弁当をたいらげてからどこかに行ってしまった。それから帰ってこない。五時間目の担任の国語教師はひとり足りないけどどうしたの、と学級委員に聞いたが、学級委員は栗松を見た。あわてて首をふると、いちど首をかしげて、知りません、と彼は言う。ふーん。じゃああとでノート見せてあげてね。それきりその話題を切り上げて、教師はチョークを取り上げた。授業はじめます。五十七ページ、開いて。栗松はおっくうな指で教科書をひらいた。それが何万光年もとおくでされたことのようだった。参ってしまう。松野や半田は今日も屋上にいるのだろうかとふと視線を窓の外にとばす。以前は窓ぎわのいちばん後ろにいたものだから、屋上からよく見られてあまつさえ呼び出されたものだった。傍若無人な彼らからは、ときどきうっすらとタバコのにおいがする。栗松、と呼ばれてあわてて立ち上がった。もう野菜だけの無謀な弁当をたべることはやめたが、それでもときどきあのときの空虚感を恋しいと思うときがある。肉をたべない少林寺と、栗松はそこで繋がっていた。
そうしてその日の部活にも少林寺は来なかった。無断欠席なんていちどもしたことのないやつだったから、みんなおおいに驚いて、心配していた。松野と半田と土門がかたまってなにかをしゃべっている。彼らには珍しく辛気くさい顔をしていた。現実感がすうっと遠ざかり、ぱらぱらとざわざわと、あちこちから聞こえる声は散弾銃をはなつようだった。外国人からは日本人の言葉はぱらぱらぱらぱらと聞こえるらしい。誰のものともつかないその声が、栗松の意識にいつまでも穴を開けていく。まるで戦争にでもきてしまったみたいだった。
もしも戦争になったら栗松はいちばんに戦場へいく。錆びついた銃を片手に。そうして残していったものをぜんぶぜんぶ、少林寺にあたえてくれればいいのだ。栗松の指は戦場で尖った骨になり、弁当の青菜をつまむしろい箸になればいい。そんな場所で繋がっていられるなら構わないのだった。松野がうち沈んだ様子で影野によりそい、影野はあからさまにうっとうしそうな顔をする。少林寺がいないとグラウンドだってひろいひろいひろい。アップするぞーという声にかけだす足さえも他人のものだった。空虚感は恋しかったが、少林寺がいないとさびしい。栗松の目と耳と鼻は戦場に行って鉛のような兵隊を見ている。栗松の指は何万光年もむこうで少林寺をさがしている。







鉛の兵隊みなごろし
栗松。
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