ヒヨル ペトラゲニタリクスオービター 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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ざりざりに噛みちぎられた左手の指の爪に、しろく濁った薄皮みたいなのがまだ残っていて不愉快だ。犬歯でそれをぷつりと噛んで、吐き捨てようとしても舌にまとわりつく。それを力を込めて吐き出そうとしたら、思った以上に力が入りすぎてゴエッとえずいたみたいになった。目金がびくんと顔を上げる。円堂はいら立ちを隠しもしないまま、目金の方から転がってきたボールをつま先ですくい上げ、いちど浮かせてキャッチする。いたたまれないような卑屈な目をしてこちらを見ている目金にボールを投げ返してやると、びくりと両手を差し出してそれを受け取る。いらいらすることばかりだ。円堂は自分のボールをおなじように蹴り上げてひざの上でぽんぽんと弾ませた。目金のほそい目がぎゅうっとほそまり、たぶん意味もなくボールをいちどだけ地面に打ちつけた。たあん、と高い音がつめたい空気を裂いて響く。ああ、とついたおもたいため息が円堂の視界をもやりとかすませた。
目金をサッカー部に誘ったのは自分だということに、円堂は負い目を感じている。部員にも、自分自身にも、そして目金にも。どんなに人数が足りなくても、あんなのを誘うのではなかった。人間には向き不向きがあるわけだが、しかしそれはサッカーしかしてこなかった円堂にはうまく飲み込めない現実だった。あの日、目金は逃げて、円堂は追わなかったし、もう戻ってこなくてもいいと思っていた円堂の気持ちとは裏腹に、目金は戻ってきた。なんにもできないまま。最後のチャンスだったのに、と思う。サッカーを捨てるには、あの逃走が最後のチャンスだったのに。ちっと舌打ちをするとそれにもまた目金はびくびくと怯えるようにする。負い目を感じているのは、円堂だけではないらしい。目金がするそれを、円堂は理解することはできなかったが。
目金は円堂の責任だった。サッカーなんかできなくてもいいと目金は常日頃豪語していたし、目金がそれでいいなら円堂だってかまわないと思っている。できないものに無理強いするほど円堂は熱心ではないし、円堂にとって、サッカーとはそういうものではないのだ。それでもせめてリフティングくらいはできたほうがいいんじゃないかと染岡がまた余計なことを言うので、円堂は練習後の時間を割いて目金につき合っている。二週間、目金は一向に上達しない。いら立ちばかりを募らせる、いやないやな時間だ。目金は卑屈に縮こまるばかりで、円堂はただ黙っている。最初のうちは壁山もいてくれたが、円堂が無理やり帰らせてからはふたりだけの息のつまる時間になってしまった。ごろごろとボールは転げ、それはしかし、誰にも修正さえされない。
目金はうつむいてボールの縫い目あたりをいじっている。円堂くんは。ん?円堂くんは、どうしてずっとサッカーをするんですか。え。目金の問いかけに、円堂は目を見開く。考えたこともなかった。円堂は目金を見る。目金は奥歯を噛みしめるみたいな、妙にかたい顔をして円堂をじっと見つめた。ぼく、サッカーなんかできなくたっていいんです。でも円堂くんは違います。よね。だって。円堂は目をそらす。おれからサッカー取ったらなんにもなくなるだろ。それがわからないんです。目金はうつむき、くるくると両手のあいだでボールを回した。どうしてそんなこと言うんですか。円堂くんには、本当にサッカーの他になにもないんですか。気づかうようなその調子。そんなことありませんよね。その奇妙にべたついた声が、円堂の神経を思うさま逆なでした。
うるせえぇぇぇぇ!!声を限りに叫んだ円堂に、目金がからだをすくませて硬直する。おまえに!円堂は両手であたまを抱え、そのすき間からけだもののような目で目金をねめつけた。おまえになにがわかるんだ!サッカーの他に!大事なものがたくさんあるおまえに!おまえに!!目金は息を飲んで、怯えた目で円堂を見ている。円堂にはなにもなかった。サッカーの他には、なにも。なぜならサッカーの他には、なにも与えられなかったからだ。なにも選ばなかったからだ。目金はサッカーなんかできなくたっていいと言う。円堂はそれが理解できない。サッカーを奪われたら、どこにも行けなくなる。円堂はもう最後のチャンスを逃していた。サッカーを捨てて生きることは、もう円堂の選択肢から失われて、久しかった。最初からそのために生まれてきたように。そのためだけに、責任を負ってきたように。
サッカーがある限り、円堂はどこにもゆけないのだった。目金なんかにそれを言われるのがつらかった。サッカーがある限り、円堂はなにも探しにゆかれないのだ。宇宙をさまよう羊たちの一頭になる資格だって、円堂は持っていないのだ。目金が最初から持っていたそれに、円堂は憧れて憧れて、あこがれていたのに。夢も希望も、未来さえ探しにゆかれない。サッカーでグラウンドに繋ぎ止められたままの探索船。哀れにもがくだけのそれを見下ろしながら、目金はどこまでもどこまでも飛んでいくのだ。宇宙をさまよう孤独な探索船にさえ、憧れなければいけない自分のみにくいことが、円堂はなによりかなしかった。円堂くん。目金がおずおずと手を伸ばし、そっと背中に触れた。泣いてるの?生殖の石を探す奇跡の旅に、傷つくのは果たして誰であるのだろう。答えはいまだ見つからない。どこにもゆけない円堂から、輝くものたちは遠ざかっては消えてゆく。







ペトラゲニタリクスオービター
円堂と目金。
リクエストありがとうございました!最後の一歩が踏み出せないのは、本当は円堂なんじゃないかなーと思いながら書かせていただきました。
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