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女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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河川敷のより水際にちかいところに、二週間にいちど花束が置かれているのに気づいたのは、今からふたつきほど前だった。英字プリントのうすい紙と透明なフィルム、握りの部分にはいつもまっしろなりぼんが巻かれている。花はあかだったりしろだったりきいろだったりしたが、いつも決まって単色だった。いろんな花を取り混ぜてつくる花束とは違い、あかならあかしろならしろのきりりとした花束は、清廉さと悲壮さをまとわせていつもそこにやわらかく眠っている。それは数日そこにしおれた花びらのまま倒れていることもあるが、いちにちを待たずに水に押し流されていることもあった。作為的にそれを行う誰かの理想を凌駕してしまう自然のはがねに似た力強さを、影野は生理的な嫌悪感でもって厭う。世の中はもっとシステマティクにならねば、という目金の意見に、こればかりは完全同意だった。
練習のないある日、ひとりでわざととおまわりをして河川敷のわきをあるいていると、後ろから染岡が走って追いついてきた。よう。うん。帰り。そう。おまえこっちだっけ。趣味。ふーん。染岡はおおくを聞かない。じゃ途中まで一緒だとかばんを揺すり上げ、影野の歩調にあわせてあるきだす。その肩にチョウクの粉がかすかに積もっていた。すげー雨だったな。つい30分ほど前に降った夕立のことだ。グラウンドは見る間に水没し、部室に行くまでもなく部活は中止だった。帰り際に円堂のクラスをのぞくと(通り道なのだ)、円堂は机に両足を乗せてふんぞり返っていた。脇に途方にくれた顔をした風丸を立たせたまま。影野は河川敷に目をやる。穏やかな川は増水し、にごった水がとげのように波立っていた。普段は小学生が練習をしているグラウンドにも、おおきな足跡のような水溜まりがいくつも広がっている。とおくで垂れ込めた雲のすき間から、筋になった光がまっすぐに差し込んでいた。
花束ねえな。染岡が影野ごしに河川敷をながめてぽつりと言い、うんと答えてから影野は動揺した。知ってたのか。そりゃあんだけおまえが見てりゃな。にこりともせずに染岡は影野の手をとった。降りてみよう。まだあるかも。染岡は影野の手を引いて、返事も待たずに足を踏み出した。土手に生えた雑草は水を含んでよくすべる。水溜まりにニューバランスとコンバースの先をひたしながら、ふたりはグラウンドをまっすぐ横切って水際に並んで立った。探さなくても。影野は足元に押し寄せる水をじっと見ながら言った。染岡はつないだ手とは逆の手をポケットに入れて、おなじように視線を下げた。うん。影野が言いたいことを察したかどうかはわからなかったが、染岡は黙った。水がうねる音だけが、ふたりの間を満たしていく。いやだなと影野は思った。生理的な嫌悪感。
川はずいぶん流れがはやい。いろんなものが押し流されてくる。おまえナザレって知ってる?染岡が唐突に言った。ナザレの浜はしろいんだって。うん。染岡がなにを言いたいのかはかりかねて、影野は曖昧に返事をした。いつかふたりで外国に行こう。染岡はそう言って、そっと影野の手を離した。すき間に滑り込む雨上がりの風。うんと返事をしてから、はて外国というのはヨーロッパだろうかアメリカだろうかアジアだろうかと影野は思った。それともナザレなのだろうか。しろい浜を染岡は見たいのだろうか。おれとふたりで。だったらそこに単色の花束を置いてこなければと影野は思った。持ち手にしろいりぼんを巻いて。あかやしろやきいろの花束で埋め尽くされた、しろいしろいナザレの浜に。染岡のてのひらがそっと影野の背中に触れた。彼はそれを、やさしく、押す。






フラワーエピタフオブナザレ
染岡と影野。
某PVモチーフ。
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あれ先輩、と横手からかかった声に、目金はそちらを向いて、眉をしかめて目を細めた。ちっす。親しげにほほえみかけてくる、ニット帽と眼鏡の同い年くらいの少年。は。目金は思いきり不機嫌な声でたずねた。誰ですか。彼はおどろいたような顔をして、それからへらっとわらった。やだなーおれっすよ。そう言ってひょろひょろの彼は、くろいセルフレームの眼鏡をはずしてあたまを包むニット帽を取った。そこから見慣れたオレンジのもじゃもじゃがあらわれたので、あーと思わず目金は声をあげていた。昼間の書店に似つかわしくない、おなじサッカー部の後輩。あなたですか。わかんなかったすか。すいません。いーっすよ。ゆるゆると手を振ってわらう宍戸の片手には、雑誌が一冊とジャンプの単行本が一冊収まっている。ワンピースすきなんですか。発売日チェックするくらいすきっすね。宍戸は眼鏡を服のすそでかるくこすって、ケースに入れてニット帽と一緒にかばんにしまった。あきらかにサイズのおおきいTシャツの胸元には、ピンクのマカロンとリングのネックレスが下がっている。目金は手にみどりの背表紙の文庫本を積み上げて、そうなんですかと適当な返事をした。ワンピースは全巻初版で持っているけれど、ここしばらくの目金のブームは星新一だ。
先輩も買い物っすかという宍戸の言葉を無視して、目金は指を伸ばしてマカロンにさわった。宍戸がちょっとわらう。それくえないっすよ。そのくらいわかってますよと目金はそれをつまみ上げる。よくできてますね。フィギュアみたいでしょ。おれ海洋堂のガチャガチャとかすきなんすよ。目金は顔をあげた。意外だった。宍戸はもさもさと髪の毛をかき回し、いつもどおりに目を前髪でおおってしまう。目、わるいんですか。わるくはないっすけど。宍戸はしろい首をうんとひねる。でも普通にしてて不便はないっす。そんな前髪してるから目がわるくなるんじゃないですか。先輩言いますねー。宍戸はひとさし指でふわふわの髪の毛をかるくねじった。砂漠に住む遊牧の民のような、骨のようにしろく乾いたその指。ほほえんだくちびるからエナメルがのぞく。まーおれシャイなんすよね。そういうことにしといてください。じゃまた、明日。宍戸はかるく片手をあげて、その拍子にマカロンとリングがちりんと触れ合った。
ひょろひょろの背中はマカロンごとあっという間に本棚の向こうに行ってしまい、目金は大量の星新一と一緒に残された。まったくよくわからないひとだ。なにも言うひまがなかった。目金はゆっくりとふかい息をする。見られない顔じゃないのに。セルフレームの眼鏡の奥の、やさしいひとみを思い出す。まるで知らないひとみたいだった、奇妙に大人びた後輩の親しげな笑顔。指先にはよくできたマカロンの感触だけが残った。海洋堂のフィギュアのような、リアルでだから非現実的な幻覚。やわらかにほほえんだエナメルとくちびる。シャイだなんてそんなのは嘘だ。葬列のように厳粛にすぎた、遠ざかるその痩せた背中。知らないわけではない。あなただって気づいている。
宍戸が伸ばす手を目金は知っている。その力ない骨のような指を知っている。誰にも届かないその言葉を知っている。絶望に垂れるこうべを知っている。宍戸はきっといろいろな部分で、折り合いをつけようとわらっている。現実をちゃかして小馬鹿にして、髪の毛の奥から世界をななめに見て、リアルのまがいものをそれと知りながら手に取ってしまう。宍戸も目金とおんなじだった。おんなじだからわかりあわない。宍戸のしろくてほそい腕には、おおきなあおあざがくっきりとついていた。平和で穏やかな遊牧の民で、彼はいつまでもいるべきではない。






砂漠の砂は尽き
目金と宍戸。
つづきに感想。
影野の視界のはしで、円堂がまとわりつく風丸を本気でいやそうにいなしている。ひじや足で突っ放し、心底迷惑だというふうににこりともしない。影野の手元には、片付けられなかったボールの最後のひとつがある。それしまっといて。円堂はそれだけ言って背中を向けた。風丸が蹴っ飛ばされてよろめく。円堂は振り向きもせずに部室に入って乱暴に扉をしめた。間をおかずにくぐもった金属音がする。つややかなボールの表面は砂で何度も引っかかれ、しろくろにあかい夕焼けをにぶく反射していた。円堂のロッカーの足元は、何度も蹴りつけられてぼこぼこに歪んでいる。大事な足や膝や道具を、円堂はいたわろうとしない。だからきらわれる。
とん、とボールを一度地面に打ちつけて、はね返ってきたのをまた両手でつかむ。取り残された風丸がき×がいを見る目で影野をにらんで、自分も部室に入っていった。風丸が円堂に執着する理由なんてひとつしかなくて、それは風丸の思考回路の中で、サッカー部において円堂だけが信頼に値する真人間である、と判断されたからだ。それは本人が言っていた。円堂はおまえらみたいなくずとは違う。おまえらなんか円堂の足下にも及ばない。風丸は普段はそんなふうに居丈高な人間ではないが、ことサッカーのことに対しては、=円堂であると判断して過敏に反応する。風丸は円堂に心酔している。そしてそれを円堂はひどくいやがる。風丸をいやなやつだとは影野は思わない。執着があるのはいいことだ、と思う。風丸は周りが見えていない。見ようともしない。だから円堂しか見えないし見ていない。風丸のサッカーは円堂がすべてだ。
なんでまだ片付けてねえの。ひくく押し殺したような声に、影野は顔をあげる。学ランに着替えた円堂がくらい目をして立っていた。風丸はいない。悪い。影野が謝ると、円堂はじろりとくろ目を動かして影野のひたいのあたりをにらむ。はやく片付けて帰れよ。吐き捨てるように円堂は言う。そういえば壁山はとっくに帰ってしまっていた。円堂。影野はぼそりと円堂を呼んだ。円堂は奥歯を噛み締めるようにくちびるを曲げて、やおら影野の手からボールを奪った。部室から出てきた風丸にそれを投げて、片付けといてと言い捨てて行ってしまう。円堂。風丸は困ったようにボールと遠ざかる円堂の背中を見比べて、そして影野の方を見た。なきそうな顔をして。影野は黙って風丸を見つめていた。風丸の顔がみるみるこわばり、手にしたボールを思いきり地面に叩きつけた。たあんとかるい音がして、ボールは思ったよりたかくはねた。どうしておまえはいつもそうなんだ。風丸が長髪をかきむしる。円堂は最低だ!おれにはなにもくれない!
風丸のするその煩悶が、影野には理解できなかった。理解できないだけではなく、理解したいともうらやましいとも思わなかった。くず。風丸が顔をあげる。おれがそうならおまえもそうだ。風丸は影野の言葉に、凄絶な顔でにいっとわらった。そうだよ。円堂はおれたちみたいなくずとは違うんだ。おれたちのずっと上にいないとだめなんだ。だからくるしんだりかなしんだりなやんだりおこったりするならそれを全部、おれに、くれればいい。ボールはちからなく地面を転がり、砂をまとわせてかげっている。ああ円堂は最低だ。そんなことさえさせてくれない。風丸はボールを拾い上げて、影野を見て晴ればれとわらった。おれはサッカーをしてるんじゃない。円堂がやりたいサッカーをしてるんだ。影野は、そう、とみじかく言った。その顔面にボールが飛んできた。額をうたれて影野はよろめく。おれには円堂がいればいいんだと恍惚とした顔で風丸は言う。クソ野郎だなと影野は心中思った。だから円堂はきらわれる。たとえ孤独に耐えられたとしても。







おしゃべりクソ野郎
円堂と風丸と影野。
木野秋という同級生のことを、雷門夏未はときどき考える。きれいな髪の毛をした、しっかりものでかわいい、サッカー部が誇る敏腕マネージャー。サッカー部が廃部の瀬戸際に立たされていたころから、彼女がなにも言わずに奮闘していたことを実は夏未はちゃんと知っていた。しろい肌をしたかわいい木野秋。彼女はかわいすぎてきれいだ、と、たまに思う。他意はない。ただ単純に、そう思う。隣に立って荷物を運んだり洗濯物を干したりするようになってからは、特に。腕まくりをしておもたい道具を抱えている姿を遠くから眺めているときなんかは、まるで閃光のように去来するその思いが夏未の思考を焼き切っていくのを感じる。木野秋はかわいい。かわいすぎてきれい。
スポーツドリンクを入れておくアミノ酸飲料メーカーのロゴが入ったオレンジ色のボトルを、毎日人数分洗剤で洗うのはけっこうな重労働だ。夏未は今まで洗い物なんか一度もしたことがなかった。隣に立った秋が、あっという間にスポンジを泡立ててごしごし洗っていくのを、魔法みたいだとそのときに思った。夏未さんもやってみて、と、手渡されたスポンジは泡がなまぬるく、いいにおいでも手触りでもなかった、けれど、見よう見まねでごしごしやったら秋はわらう。そうそう。中まできれいに。中は専用の柄のついたほそいブラシを使うということも、そのときにはじめて知った。手が届かないものね。ぽつりとそう言うと、秋は驚いた顔をして、そしてにっこりわらった。そうだよ。夏未はいそいで目を反らす。かわいすぎてきれいな木野秋。指先に泡が不快にまとわりついてきもちわるい。たった十三本洗うのに、かなり時間がかかってしまった。
洗い物も洗濯も片付けもおにぎりの作り方も、夏未はすべて秋から教わった。秋はなにもかも、なんでもないみたいな顔でさらーとやってしまう。そうして他のひとからの気持ちみたいなものも、おなじ顔でさらーとかわしていく。気づかないふりが上手。後輩の春奈は可もなく不可もないといった口調で秋を評価した。断定する言葉にはとげこそないが、妙にきっぱりしている。先輩はちょっとこわいです。わたしはあなたの方がこわいわ。春奈はその言葉におおきな目をまたたいて、そしてわらった。大丈夫ですよ。ちゃんと本人にも言ってありますから。なに、それ。陰口とかきらいなんですよね、わたしも先輩も。陰口。夏未は心中でゆっくりその言葉を繰り返す。木野はベンチで次の試合相手のオーダー予想をしていた。監督と円堂と三人で、額を突き合わせている。わたしは木野さんすきよ。ストップウォッチに視線を落としながらぼそりと言うと、春奈はちょっとわらって、だけどなにも言わなかった。かわいすぎてきれいな木野秋。ストップウォッチが五分を駆け足で過ぎていく。
夏未さん。メンバー全員でのグラウンド整備のあと、ベンチを掃除している最中に、秋が突然たずねた。無人島に三つだけなにかを持っていくなら、なにを持っていく?夏未は手を止めて、首をかしげた。それは、なにか大事な質問なの?秋は首を振って、ううん今思いついただけ、とわらった。三つだけ。思いつかないわ。夏未は眉を寄せる。今まで物足りない思いをしたことなんてない。秋は、そう、とまたわらった。あなたはなにを持っていくの。夏未の問いに秋はすぐに答えた。一ノ瀬くんとサッカーボールと、夏未さん。わたし?驚く夏未に、秋はうなづいた。わたしが今、これだけあったらなんにもいらないなぁって思うもの。ベンチを雑巾で拭く秋の横顔は、夕陽にななめにてらされてさびしかった。夏未は言葉をなくして立ち尽くす。秋はそこで顔を上げて、ほほえんだ。ものだなんて。ごめんね夏未さん。透明でかわいすぎてきれいな秋のほほえみに、初夏の夕暮れが影を落とした。秋が望むなら連れていってほしいと思った。無人島にだってどこにだって、あなたが望むなら連れていって。
秋は円堂がすきなのだと思っていた。円堂もたぶん、秋がすきなのだと思っていた。わたしはあなたがすきよ。その、友達として。だけどそれはどうでもいいことでどうにもならないことでどうなってもかまわない、ことだった。秋が望むなら、それがすべてなのだ。無人島では三人でサッカーができる。一ノ瀬くんは上手だから、きっとわたしたち相手でもうまくやってくれる。木野さんと一ノ瀬くんとわたし。困ることなんてなにもない。夏未の視線の先で秋がふあっとわらう。ありがとう。きれいなかたちのくちびるからのぞく歯の、なんてしろくうつくしいこと。ずっと前にこんな色のドレスを見たことがあった。しろい手袋にベール。きらきらひかる薬指の指輪。そのときからもう何年も経ってしまった。あのときあこがれたあのひとより何倍も、木野秋はかわいすぎてきれいだ。






ダイアモンドバブル
夏未と秋。
マネ三人について深く考えたい時期。
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無印雷門4番と一年生がすき。マイナー愛。

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