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女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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真夏の午後のグラウンドに満ちあふれる焦燥を噛んで、ゴールをおおきく反れながらあさっての方向に飛んでゆくボールの行方を視線が追った。だーもーくっそーちくしょー。ほこりまみれのグラウンドの空気を呼吸したら喉がひゅ、と鳴った。夏の日差しはねばついてひりつく。まぶたの端でダイアみたいに汗が光っていて、乱反射するそれが網膜をまるで夢物語みたいに剥離させる。半田がやっべと思ったそのときに、後ろからきんきんに冷やされたタオルがかぶせられた。一瞬のめまいを押さえ込まれて振り向くと、汗をかいたボトル片手に栗松が首にタオルを引っかけて立っている。休憩でやんすよ。おーと腑抜けた声が出たので半田はでひゃっとわらい、その拍子にかすかすの喉に唾液を引き込んでしまって盛大にむせた。栗松がひっと一歩あとじさる。砂混じりの飛沫を撒き散らす半田を、栗松は呆気にとられた顔で見ていた。その手からボトルを引ったくって飲み下し、半田はようやく一息つく。あつがなつい。くっだらねぇ。
足ははしればはしるだけはやくなるけど、テクニックはそうもいかない。天井知らずの円堂なんか見ていると、半田もやればできるんじゃないかなんて気分になって、ちょっと奮起する。そうしてじたばたもがくけれど、不完全燃焼のままいつも後悔して終わるのだった。とけかけたタオルの冷気が首を伝って背中に落ちた。つめてーよーとだらしなくつぶやくと、栗松がうなじからタオルを取ってじゃあっとしぼった。地面に水がぼたぼたこぼれてしみ込み、できそこないのクレーターみたいに沈んでしまう。それを広げて、栗松はまた半田の首にかけなおす。吸い尽くして空っぽになったボトルを栗松の眉間あたりに投げつけてやったら、素直にそれにぶち当たってのけぞった。けなげなやつだなと半田は思う。思うだけでなにもしない。ボールを拾いに行く栗松をそんな思考でぼおっと見送った。遠ざかる五番が立ち上る熱気にゆらめいている。
右の生え際からこめかみを汗がすべり落ちる。それが地面にしたたる前に、首や顔をぬるくなったタオルでごしごしと拭った。鼻が日焼けでいたい。去年は夏の練習でほほと鼻をみっともなくべろべろにした。今年はちゃんと日焼け止めをすりこんでおいたのだが、滝のような汗がとっくに流してしまっただろうと半田はため息をつく。ため息ついでに栗松ぅと声をはり上げた。ゴールの後ろの植え込みから、はいっと返事が聞こえる。両手でボールを差し上げて(直撃防止のためのアピールだ)、栗松が立ち上がった。それを見る目に汗がにじんでしみる。栗松はくろい影みたいになってゆれていた。まるで夏の亡霊のように。足元から這い寄る反射熱が不愉快だった。なんですかぁと栗松が問いかけるのを半田は無視し、ダッシュなときびすを返した。いらついてんじゃねーよと染岡が低くたしなめるのも半田は無視して、おめーらも行けとベンチを蹴飛ばした。一年生がはじかれたように立ち上がり、言われるままにグラウンドに駆け出すのを染岡はにがい顔で見ている。円堂はぼおっと頬杖をついて、つよすぎる日差しにしろっぽく乾いたグラウンドをなにも言わずに眺めていた。
ぷっと吐き出した唾にはざらざらの砂がやはり混じっていた。おまえじゃね。円堂がつまらなそうに言う。ほんとにはしらなきゃいけないのはおまえじゃね。半田はわらった。おめーまじでうぜえな。おーと円堂はいっそ眠たそうな声で答える。くそうぜえと半田は繰り返し、だらりとベンチにすわって足を投げ出した。一年生が汗だくでグラウンドをはしっている。栗松が拾ってきたボールはセンターサークルのあたりに放り出されていて、その脇には半田が投げつけたボトルが行儀よく立っていた。八つ当たりもいいけどよ。円堂が半田とおなじようにながながと足を投げ出して、喉をそらしながらつぶやいた。それに見合うことをおまえはやってんのかってはなし。半田はにやにやとわらいながら、おめーにはわからんと思うよと言った。わりーけどおれ、おめーみたいなの嫌いなんだわ。円堂はやはりつまらなそうな顔で半田を一瞥し、じゃあ(やめれば)、と言いかけたのを染岡ににらまれてやめた。そのまま染岡は立ち上がり、もういいぞと一年生に声をかけた。
それと同時に半田も立ち上がり、駆けていって思いきり栗松にドロップキックをした。砂ぼこりを上げて栗松がふっ飛ぶ。一年生の唖然とした視線が半田に注がれた。それに動じることもしない。栗松はうーといたそうに呻きながら、それでも立ち上がってボールとボトルを取りに行った。先輩やめてくださいよーとにがわらいで戻ってくると、首にかけたままのタオルで半田の顔をごしごしこする。目が焼けてあつかった。だからだ、涙なんか出たのは。剥離した網膜の口には出せない夢物語。夏の亡霊が闊歩する乾いたグラウンドのまんなかで、向かい合う後輩を夏が焼く。ちょっとこれ置いてくるでやんすと、栗松はべろべろになったほほでわらった。ああもうやんなっちまうね。振り向きもせずに行ってしまう栗松の尻を蹴っ飛ばしてまた転ばせた。けなげなことはなけるじゃないか。半田いいかげんにしろよと染岡がベンチで怒鳴っている。あつがなついし、くっだらねぇ。まったくいつものおれだ。いつもの。







歯痒
半田。
七人時代。
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風になる!
ロッカーの上にまとめて置いてあるポカリスエットの粉末が入った段ボールに、音無はいつも一生懸命つま先立ちをして手を伸ばす。音無より背がたかい誰か、特に一年生の壁山や宍戸がいてくれたら、踏み台使えよとぶうぶう文句を言いながら手を伸ばして取ってくれる。身長がおなじくらいの栗松は、クーラーボックスを踏み台にして文句も言わずにそれをしてくれる。音無よりずっと小柄な少林寺は面倒ごとがきらいなので、そこらで暇そうにしている背のたかい誰かを連れてきてくれる。なにもしないのは音無だけだ。実は以前栗松とおなじようにクーラーボックスを踏み台にしたら、体重のかけ方を間違えて思いきり後ろに転んで派手に背中とお尻をぶつけた。それ以来、踏み台を使うのはすこし怖い。でもそれを誰かに言うのは恥ずかしいし、やっぱりばかにされると思うから、音無はそのはなしを誰にもしたことはない。いつでもばかみたいに、届かない場所に手を伸ばす。
つま先立ちをあきらめてジャンプに切り替え、とうっやあっとひとり跳ねていると、後ろで扉がひらく音がした。なにしてるの。あー先輩。おつかれさまです。音無は跳ねるのをやめて振り向いた。部室の扉の前に、影野が段ボールを抱えて立っている。それなんですか。音無が問いかけると、影野は箱の天井やら側面やらを見て、かるく箱を振って、首をかしげた。拝見しますと音無は影野に箱を持たせたまま(軽そうなので)、ポケットに常備してあるペンの先で、ガムテープ部分をびーと破る。中には真新しいアイシングのセットとコールドスプレーが入っていた。肩のアイシングは不足していたので、わーと声をあげて音無はそれを広げる。肘、膝、足首用も入っていたし、スプレーも底をつきかけていた。やーん助かります。足りなくて困ってたんですよ。そう、と影野はやわらかくわらった。これ、誰からですか。夏未さんに頼まれた円堂から。キャプテンはそういうとこが駄目ですねっと言うと、まあそう言わずにと影野がぼそりといなした。
影野が左右を見渡して、どこに置こうかとたずねた。あっちょっと待ってください。音無は救急バッグから空のコールドを全部抜き、箱に入った新品のコールドをこちらも全部抜いたあとにそれを入れた。お待たせしました。あそこにお願いします。ポカリスエットの粉末が入った段ボールの隣を音無は指さす。影野は苦もなくそれをしてのけて、ついでにポカリの箱も取ってくれた。先輩って。あおいロゴの入ったパッケージをふたはこ取り出しながら、音無はしみじみと言う。ほんとやさしいですよね。そうでもないよ。またそれをもとに戻して、かるく手のひらを払ってから影野は言った。目金のほうがやさしいよ。えーと音無は声をあげる。ないない。それはないです。そうかな。影野はすこし考えるようなしぐさをしてから、くちびるをわずかわらわせた。目金はすごくやさしいと思うけど。
えーと音無は苦笑しながらうつむく。だって目金先輩、わたしにすっごくつめたいですよ。そりゃ、あゆちゃんとか先輩には、やさしいかなーって思いますけど、でも先輩よりやさしいってことは、ないですよ。うんと影野はあいまいに返事をした。音無ははーとため息をつく。昨日、目金が微妙に怪我してたんだけど。あー、足首やっちゃってましたね。音無はうなづいた。目金はからだの使い方が下手なので、特に左足によく怪我をする。誰も言わないみたいだし、音無、言ってあげたら。それわたし怒られませんか。うん、怒ると思う。もーなんなんですかーと音無は影野のからだをかるく突いた。珍しく影野はわらっている。大丈夫だよ。目金はそういうのに慣れてないだけだから。その口調がやけに断定的だったので、音無はぽかんと口をまるくひらいた。ええと、わたしもしかしてからかわれてます?影野はなにも言わずにわらっている。
音無はうつむいてせわしなく手のひらをこすり合わせた。わたし、嫌われててもいいんです。なんで。なんでって。音無が顔をあげると、影野の顔はまっすぐに音無を向いていた。だって。目金はやさしいよ。影野の言葉はぼそぼそとしていて、それなのに奇妙にふかく、胸に届く。音無にも、やさしいよ。影野の言葉はやさしい。まるで空気みたいに消えていくから、やさしい。目金は音無を嫌いになったりしない。届いても届いても、最後にはちゃんと消えていく。だから。影野はなにかを言いかけて、唐突に言葉を切った。おおやかまし、いいとこにいたな。救護班だキューゴハン。ちょっおまっこれ重傷重傷。やかましーちょっとスプレー貸してー。いやほんとまじでスプレーとかじゃねーいてぇんだけど松野しね。三回しね。つうかまじ投げるとかあり得ないでやんすよ。手がすべったんだよ黙れ栗野郎。口々になにやら言いながら部室に転がり込んできた松野と半田と栗松に、音無は今度こそ目をまるくした。
遅れて入ってきた宍戸が影野に会釈して、松野がジャイアントスイングで投げた栗松が半田に直撃した、みたいなことを音無に説明した。音無ははーと感嘆のため息をついて、どうしましょうかというつもりで影野を見たら影野がもうそこにいなくてびっくりした。半田がへんな汗をかいていたのでああほんとにやばいのかなーと、新品のコールドはこんなくだらないことで消費されてしまった。もうほんとにばかなひとたちだ。松野がげらげらわらいながら、あれバカゲノ帰っちまったーやさしくねーなーと言った。まったく同感だったので音無もわらった。それから目金じゃなくてよかったなと安心した。コールドの減りが早いねと木野が首をかしげるのにも、ちゃんと黙っておいた。だけど目金にはなにも言えない。影野があのとき言いかけた言葉もいまだに音無は見つけ出せない。その代わり目金を嫌いにもなれない。やさしくもしてもらえないけど、嫌いになる理由が今ではどこにもない。






きみを想うときめた
音無と影野。
今日は動物園に行ってきました。
昨日のやりすぎコージーを観てたらどうしても行きたくなったので、その勢いで行ってきました。ひともすくなくて、涼しくてよかったです。
サルと宍戸がいっぱいいました。というか野生はたくさんいました。ゴリラ先輩まじパねぇっす。うしやうまががすんごいかわいかった。宍戸には触ってきました。これでもかともふもふしてきました。あれ意外と固いですね。しかしヤギはその数倍固かったです。草食侮りがたし。
ぞうやきりんは何回見てもテンション上がるなーと思って見ていたのですが、近くにいたお子さんがぞうのでかさに素で引いていたのがかわいかったです。
風太くんの動物園に行ってきたんですが、風太くんハイパースリムになっていてびびりました。換毛期らしいです。みんな若干毛がもさもさしておりました。風太くんかわいかった。ちょこちょこ動いておりました。
今流行りのハシビロコウ先生も見てきましたーかっこよかった。殺す目をしていたのでジュンジュワーでした。めっちゃ羽ばたいてたのが残念でしたが、かっこよすぎて大変でした。嫁ぎたい。らくだとキンカジューとカンムリバトは嫁にしたい。
らくだがものすごくすきなものでらくだの前にたぶん二十分くらい立っていたんですが、わたしを遠巻きに不審な眼差しで見つめていたトニー(名前)が、閉園ぎりぎりにすごく近くまで寄ってきてくれたので、ちょっと感動してなきました。これはもうマブダチだと思います。トニーありがとう。
動物の中でらくだがいちばんすきです。月の砂漠をらくだとともにはるばるとゆきたい。彼らに会いたいがために危うく年パス買うとこでした。上野動物園とどっこいの値段なんですけど、だいたいあれくらいが相場なんですかね。もう少し近かったら、年パス買って毎週通う勢いです。


いつも拍手ありがとうございます。すごく嬉しいです。
ネット繋がったら絵チャというものを一回やってみたいです。単純に興味があります。



二百三十円の分厚いマンガ雑誌をひざの上でひらいて読んでいると、右肩がすこしだけ重くなった。壁山は視線だけ動かしてそちらを見る。少林寺が乾きかけた洗濯物みたいに、右肩にだらりとぶら下がっていた。ねーなに読んでるのといかにも興味なさそうに問いかけるものだから、その気のない口調に壁山はわらってしまう。ぱたぱたとうごくつま先が、リズミカルにやわらかく背中にふれている。わらうなよーと少林寺はくちびるをとがらせた。今日の機嫌は上々だな、と思いながら、ジャンプだよと壁山は答える。の、ナルト。ナルト。少林寺はつまらなそうにくり返す。少林寺はマンガやゲームをよく知らない。知らないというより興味がないらしく、サブカルブームの昨今では珍しくすきなゲームもマンガもアニメもバラエティ番組も、空白のままおいてある。今日ラーメンたべ行く?というのはナルトからの単純な連想なのだろうなぁと壁山はうなづく。いいよ。行こう。
壁山の顔のすぐそばに、ふわふわのポニーテールが波うっている。嬉しそうににーとわらう少林寺の横顔は、同性だけどかわいいなぁと壁山は思った。思っているだけで口には出さない。不用意なことを口に出そうものなら、少林寺は烈火のごとく激怒する。きれいな髪の毛も小柄できゃしゃなからだもすべらかなしろいひふもジェンダーフリーな名前も、なにもかも少林寺にとってはコムプレクスであり地雷なのだった。ふれられたくないそれらのことに、あえてふれるほど壁山は勇敢ではない。栗松も宍戸もさぁ。壁山はインクのかおりも新鮮なページをめくりながら考える。もうちょっと考えればいいのに。少林寺は黙って、たぶんナルトを読んでいる。思いっきり途中だけどおもしろい?わりと。よくわからないけどと少林寺はだらんと下げたてのひらを振った。次、ということらしい。壁山はページをめくる。
思っていることをそのまま口に出すことが美徳である人間は、そう多くない。そういう人間はおおむね煙たがられてしまいだ。なんでもかんでも口に出す少林寺でさえ、たぶんそのいちばん大切な部分は、誰にも言わずにちゃんと隠してある。口に出さなすぎてそれをうとましがられる栗松。口に出しすぎてそれを軽蔑される宍戸。ふたりとももっと考えればいいのに。壁山。ん?なに考えてんの。いろいろ。ふーんと少林寺はやはり気のない返事をして、ずるりと後ろに壁山のからだをすべり落ちた。そのまま前に回って、壁山のひざとジャンプの間にすわる。あそこじゃ見えにくかったんだよなと無邪気に言う少林寺を、壁山は実は誰よりもこわいと思っている。すきなことでもきらいなことでも、自分を語らない少林寺。空白だらけの思想をしながら、それを埋めずにいられる少林寺。栗松が黙ることで埋めて宍戸がしゃべることで埋めて壁山が考えることで埋めるその場所を、少林寺は誰はばかることなくまっさらに空けておく。
栗松や宍戸が踏み抜く少林寺の急所を、壁山は決して踏まない。だけど壁山はちゃんと知っている。壁山が踏み抜く急所を少林寺は決して怒らないのだった。それを少林寺は誰にも言わずに隠してある。まったくひどいやつだ。まったく怖くて手におえない。しょうりんはかわいいな。壁山の言葉に少林寺は振り向き、くもりない顔でにーとわらった。あんがと。ずっとそうしてればいいよと言う壁山の言葉に、ふわふわでやわらかなポニーテールがうなづく。壁山ってさぁ、実はおれのことあんますきじゃないでしょ。壁山はそれには答えずに、てのひらで少林寺のちいさなあたまをそっとなぜた。指先にはインクがくろくにじんでいる。少林寺のすきなたべものさえ壁山はいまだに知らない。まっさらな少林寺のあたまのなかに、いずれ詰まるであろうものを壁山は羨む。壁山だけでなく、栗松も、宍戸も。ジャンプあげよっか。あまりにも真剣に読んでいるのでそう切り出すと、少林寺は首を振る。いらない。興味ない。これだなと壁山は思う。これだから少林寺は。
はやくラーメンくいたいねと寄りかかってきたからだがちいさくて、驚いた。壁山はやわらかくわらう。これだから少林寺は怖くて。こわくて。可憐な少女のような顔でわらいながら、少林寺は燃えるような牙をいつでも磨いて隠してある。







燃え落ちてエンドロール
壁山と少林寺。
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無印雷門4番と一年生がすき。マイナー愛。

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