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20話感想
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自分がふぬけるのはほんとうにみっともないものだと染岡は試合がおわるたびに思う。試合をひとつずつ重ねて勝ち星を順調につみ上げていく順風満帆な今でさえ、染岡は試合中にしてしまった、あるいはできなかった、するべきだったささいなことをいちいち覚えている(それはかつての、部員が足りなかったころにはしたくてもできなかったぜいたくな悩みなのだろうが)。そうしてそのひとつひとつに、おもしろいくらいに落ち込むのだ。もちろんそんな情けない姿は、他のやつらに見せないようにていねいにていねいに心の奥のほうに染岡はしまい込むのだが、どうやってもあふれ出てきてしまうそれらのいら立ちは、ときに言葉や行動になって罪のない宍戸や栗松に向かう。そして影野にも。
いら立ちにもとづくどうにもならない暴力性は無辜の後輩たちに向かうが、それよりもっと湿っぽくどろどろとした女々しさは言葉のすくない影野に向かう。ああすればよかったこうすればよかった、というできるものの優越感をたぶんに含んだ愚痴のような反省のような繰言を、染岡は思いつくままに順々に影野に垂れ流す。影野はその途切れることのない反省文に、決して口を挟まない。その影野がある日レギュラーから落ちた。ベンチでしずかに試合をながめている影野から、染岡はなにがしかの言葉が返るものと思っていた。試合のあとに落ち込むなよ、と言ってやったら、別に落ち込んではないと影野は言った。その言葉の感触がすこしばかり引っかかったので、まぁたぶんすぐレギュラーに戻れるよ、と言った。本心のつもりだった。暮れていく夕日がくろぐろとグラウンドに影を落としていて、影野のほそい影もながくながく伸びていた。染岡の中にどろどろはまたたくさんつもり、それが苛立ちとかかなしさのようなものになって今にもあふれだそうとしていた。影野がいなかったのだ。グラウンドに影野が立っていなかった。だから。
そういえば、と話し出そうとしたそのとき、影野がすうと手をのばして染岡の両耳をふさいだ。つめたいつめたいてのひらだった。言葉をうしなう染岡に、影野もなにも言わなかった。耳の奥をひくい地鳴りのようなものが途切れることなくかすめていって、それが影野の血の流れる音だとふと気づいた。おだやかなその音に巻かれて、影野のくちびるがかすかに動く。それを聞き取ることができなくて、だけどそれをどうしてもしたくて、染岡は手を伸ばして影野ののどをやわらかくつかんだ。やわらかな髪の毛が染岡の両手にまといついて、ああこのままだとないてしまう、というようなつよいつよい衝動が、腹の奥から頭のてっぺんまでをひといきに駆けのぼった。のどの深い部分がずくずくと痛んで、親指に影野ののどが上下する感触がやけになまなましく響いた。お前ないてるの?染岡の声は頭の中でぼわんぼわんとくぐもり、だけどその返事は、聞こえなかった。影野の顔に濃い影がおちて、さされたように染岡の心がいたんだ。もうどちらでもいいと思った。ないていてもないていなくても、同じくらいかなしかった。影野のくちびるがもう動かない。このまま音という音がなくなってしまえばいいと、染岡はぜんぶで願った。
染岡はときどき自分の意識の届かないくらい深いふかい場所に、影野を投げ込んで沈めてしまいたくなる。たとえば誰にも、自分でさえもどうしようもないくらいの場所に。海のような深い場所に。そうして言葉さえ伝わらないその場所をながめてそれだけですごすことができたら、どのくらい満たされるだろうとも思った。ほしかったのがなまじ形のないものだったから、どうしたらそれが手に入るのかさえもわからなかったのに。影野がグラウンドにいなかったのだ。それなのになにを伝えたかったのだろうか。なにを語ろうと、言うのだろうか。影野のやわらかな髪がふと吹いたつめたい風にぱらぱらと広がる。どちらともなく両手をはなして、だけど語れる言葉はもうどこにもなかったし、できることはもう全部やり尽くしてしまった。名もなきふかい海には、みにくいものばかりが沈んでねむっている。どろどろで埋め尽くされた海の底をぜんぶさらってひっくり返し、染岡はそこに影野を沈めてやりたい。





名もなきふかい海には
染岡と影野。

プールのそばのシャワー室までシャワーを借りに行って、みじかい髪をごしごしとタオルでこすりながら部室に戻ると、ひとりかちかちと携帯ゲーム機をいじっている目金だけがいた。がらりと扉が引かれた音にぱっと顔を上げて扉を開けた染岡を見て、くちびるをかすかにゆがめていやみったらしい表情をする。しかしそのしろい頬がつるりとなめらかで、つくりのいかつい染岡とはそもそも種類が違うんだろうなとどことなく思わせた。目金の頬骨のたかい部分が日焼けであかく擦れたようになっていて、インドア派ゆえの色のしろさにはやけにそれがいたいたしい。。
なんだよお前何やってんだよ。染岡がそう言うと、画面から目をはなさずに目金はひょいと右手をあげた。中指に部室の鍵が下がっている。はやく着がえて帰ってくれませんか。うすいメガネのレンズにゲームの画面がしろっぽくかすみながらカラフルに映りこんでいる。目金のそういうひねた言い草にはもう慣れた。おめーもシャワー行ってくればと声をかけると、いやですと即座に言葉じりをぶち切るようにそう答えた。ひとが使った後のシャワーなんてきたなくて絶対いやです。いやいや練習のあとの方がきたねーだろうよ。ちらりと上げた目金の目と染岡の目があう。ほそい目をきゅうっとさらに細めて、はやく着がえて帰ってくださいともう一度繰り返した。その言葉を無視して染岡は横からゲーム画面をのぞく。ひじを上げて目金は染岡の胸板をうった。見えません、どいて。へーへーとはなれて蝶つがいのさび付いたロッカーを音を立てて開ける。かちかち、と、目金の立てるかすかな音だけがその空間と染岡の鼓膜を埋めていく。
つかおめー今日当番じゃなくね?なにやってんだよ。僕は今日代わりです。代わり?影野くんの。ああ。染岡はぐしゃぐしゃにつっ込んだカッターシャツをばさばさ振って広げながら言った。あいつ大丈夫かな。大丈夫なんじゃないですか。風邪って。なら大丈夫ですよ。おー。しわになったシャツに腕を通してボタンをかける。松野が電話をかけてそれに便乗したメンバーたちが、かわるがわる影野としゃべったのはつい三十分ほど前の話だ。声ががらがらにしゃがれていて驚いた。そして相変わらず言葉は少なかった。んで、なんでお前が当番代わるんだよ。問いかけながら振り向くと、目金があからさまにうっとうしそうな視線を染岡に投げてきた。塾がある日はよく影野くんが代わってくれるんですよ。お前そんな影野と仲よかったのか?まぁ、ベンチですから。あー。ため息のように納得して、染岡は適当にベルトをしめる。
ところであなたは何してたんです?俺?俺は別に普通にシャワー浴びてたけど。きったねぇしくせーし。眉間にしわを寄せて染岡が言うと、どこか寄る用事でもあるんですかと目金は視線をやはりゲーム画面に落としたままたずねた。見舞いだよわりーかよ。そう言ってカバンを持ち上げて染岡が目金を見ると、目金もなんとも言えないような表情で染岡を見ていた。なんだよ。やめといた方がいいと思いますよ。なんでだよ。染岡が食い下がると、心底呆れたようないやそうな顔をして目金は言う。そんなことしても影野くんはよろこばないですよ。お前になにがわかんだよ。せっかくの好意を足蹴にされたような気がして、染岡はすこしいら立った。そのとき目金が前触れなくばちんとゲームの電源を落とした。突然あたりが暗くなり、そのときにはじめて染岡は日が沈んでいることに気づいた。あなたはほんとにやさしくないですね。ひどくつめたい口調で吐きすてるように目金は言い、染岡はその言葉の意味をうまく受け取れなくてうろたえた。はやく帰ってくださいよ。その言葉に背中を押されるように染岡は部室を出た。振り向いてすこし待っても目金は出てこなかった。鍵当番なら俺が代わってやるよと影野に言えばよかったと染岡は思い、もしそうしていたら今こんなに途方にくれたような気持ちにならずにすんだのだろうと染岡はほとんど信じている。目金のしろい頬は薄暗い部室で、つよすぎるゲームの光にてらされてほとんどりんかくが消えるほどにかすんでいた。やさしくしてやるべきだったのかと、家に帰りながら思わないでもなかった。





ロール・プレイング
染岡と目金。
目金はあんまり部の中で仲良くしてるイメージがないです。影野か少林寺と仲よさそう。

姉は毎朝、通学中にiPodで聴く曲をおれに決めさせる。ちいさくてうすべったいむらさきのiPodには数えきれないほどの曲が入っていて、部屋をぱっと開けてじんくん今日どれ聴こうか、とたずねるのが姉の日課になっている。今日も制服に着がえて髪もちゃんと結わいた姉が遠慮なく扉をぱっと開けて、でもそこで立ち止まる。あかい顔をしてぐったりと寝ているおれをみて、じんくんかぜ?とひとりごとのように言う。おれがなにも答えないのでおかあさーんと部屋の中から母親を呼び、父親を送り出した母親がひょいと顔をのぞかせた。水仕事をしていたつめたいてのひらでおでこやほほやくびをぺたぺたとさわり、あー熱があるね、と言った。じんくん具合わるい?どっかいたい?姉が顔をのぞきこんできて、あんたは早く学校いきなさいと母親に促される。欠席連絡しとくから寝てなさい。病院は?いきたくない。そう。なんか食べたい?いらない。とりあえず寝てなさい。ごはん持ってくるから。そう言ってふとんを肩まできちんとかけ直して、母親は出ていったかと思うとすぐに戻ってきた。あおい冷却ジェルのついた湿布の親戚みたいなのを髪をかきわけておでこに貼る。顔が外に出ているのはなんとなくこそばゆい。
味噌汁とごはんを机の上においてポカリを枕元において、母親も出勤していった。関節がだるくてあたまがおもい。髪の毛のおもさが増したみたいであたまがまくらにずぶずぶ沈んでいくような気がする。からだは頑丈なほうだけど、半年に一回くらい具合がわるくなってそのうち年に一回とか二年に一回くらいはこういう風に熱をだす。前に熱を出したのは中学校に入ってしばらくしたころだった。あのときもえらくだるくて、病院に連れていかれてふとい注射をうたれた。記憶というよりそれは夢だったようでふっと目をさます。冷却ジェルがつめたくぶよぶよとひろがって顔がおおわれていくみたいな感覚がきもちわるくて、結局それをはがしてしまう。のどのあたりが熱でへばりついてしまって息がくるしい。からだをちょっと持ちあげて、つめたいポカリをひとくちのむとうっと吐き気がこみあげて、トイレに駆けこんでだいぶもどした。髪の毛を唾液がつたっていってきたない。あーとため息をつくとまたにがいものがのどを逆流してきた。
トイレの扉をぴったりとしめて、ひざを抱えてうずくまる。からだのなかがむかむかするので深呼吸をたくさんしたら芳香剤のオレンジのにおいが鼻についてまたもどす。昨日も食欲がなかったからあまり食べなかったのに、へんな色のねばねばみたいなのがたくさん出た。涙と鼻水がぬぐってもぬぐってもだらだら出るのでなんかもうつらくてまたうずくまった。そのまま少しうとうとする。おおきなてのひらにゆっくり押しつぶされて声も出せずにぺちゃんこにされるというとにかくいやな夢を見た。うずくまったまま汗びっしょりで目をさます。首のあたりがだるい。携帯がちかちかしていたので手にとって通話キーを押す。じーんじんじん。げんき?いまなにしてんの?松野のへらっとした声が耳にとどく。あーうんと半端に返事をすると、電話の向こうの声がかわった。松野の携帯はサッカー部全員を順ぐりに回って、みんなそれぞれいろんなことを言った。今日の授業はつまらなかったとか、昼の弁当をうっかりひっくりかえしそうになったとか、居眠りしていたら先生にやたら怒られたとか、今からお見舞いに行ってもいいかとか。明日にはでていくからこなくていいと言うと、じゃあ絶対来いよと染岡は言った。絶対だぞ。待ってるからな。その言葉を聞いてから電話を切った。のどのあたりがいがいがしてだけどうれしくて、しゃべってよかったなと思った。
そのときがちゃっと扉が開いて、おれは後ろにぱたっと倒れた。じんくんねてなくていいの?姉がおどろいたように立っている。いま何時?もう五時だよ。姉はおれのわきの下に手を差し込んでずるずるひっぱった。そのまま部屋まで連行される。じんくん汗びっしょり。着がえれば?ベッドにごそりともぐりこむと、そんなことを言いながらその足元に姉が座った。今日おとーさんもおかーさんも遅いよ。なにたべる?そこまで言って机のうえにおかれた手つかずの食事を見て、ピザとってもいい?と言う。今日なに聴いたの?返事をせずにそうたずねた。んー椿屋四重奏のアルバム。じんくんが選ぶの洋楽ばっかだから新鮮だったよ。携帯をぱかんとひらいてピザ屋に電話をかけ、電話をきってらーららーと椿屋四重奏を姉は歌いだした。ポカリをひとくちのんだけど今度は吐かなかった。明日にはたぶん学校に行ける。着がえてこよっとまたあとでねと姉は部屋を出ていったので、はやく夜になればいいと思った。おれも立ちあがってパジャマを脱いだ。今日の夕食はミックスピザ。






ようこそトラペジウム
影野と姉。
朝から湿度が高く、寝ぼけたような不快感がいつになっても消えない日だった。壁山が部室をがらりと開けると、中にいたのは宍戸ひとりだけだった。肩甲骨のめだつしろい背中が、ほこりくさい部室のすみにかがんでいる。すぐそばのロッカーが半開きになっていて、学ランの袖がだらりと垂れていた。なにしてんだ?おー壁山、うす。うす、でなにしてんだ?いやさ。素肌をむき出しにした上半身をかがんだままひねって宍戸が振り向く。ごちゃごちゃとなんだかわからない備品が積み上げられ折り重なった、マネージャーですら手がつけられない一角だ。
ねこが。ねこ?たぶん。そこに入った?たぶん。なんかはっきりしないな。おれもはっきり見たわけじゃねーんだよ。立ち上がった宍戸が困ったように頭をかく。壁山は山のように積み上がったその備品だかごみだかをうえからしたまで眺めた。今日は二年生の授業は、あと一時間残っている。自分ならこれをいったんどこかにどかして、また戻すことができるだろう。先輩が来る前に。どーしたもんかなかわいそうだよな、と、中腰でうろうろと隙間を覗いている宍戸にそれを提案する。おれこれどかそうか?え?いや、宍戸かわいそうって言うから。どかしてみるかと重ねて提案すると、じゃおれも手伝うと宍戸はてっぺんのつぶれかけた段ボールに手を伸ばす。あ、あ、そこはおれがやる。バランスを崩して箱を取り落とす前に、宍戸より背の高い壁山が手を伸ばしてそれをどかす。持ちあげた箱を地面に置くと、ほこりがぶわっと立ちのぼった。中にはだいぶ年代物のユニフォームが、かびやらほこりやらでよくわからない物体にばけて眠っていた。げえ、という顔を見合わせて、だけどそのとき、隙間から確かににゃあという鳴き声がしたのだ。
宍戸が腕を伸ばすたびに、うすいひふからあばらが浮いて見える。骨ばったひじや肩がよく動くな、と壁山は感心する。学ランを脱いでシャツを二の腕までぐしゃぐしゃにまくり上げた壁山の腕はがっしりとして、宍戸のそれより何倍もふとい。山はあらかた崩されて、宍戸のうすい胸板をほこりの混じった汗がいく筋もながれた。やべぇだるい。両手をしろい腰に当てて宍戸が首をかるくひねる。練習前に重労働だったな。だな、ねこまだ?出てこないな。壁山もシャツのボタンをみっつほどあける。湿度が高くてあつくるしい。気休めにあけた窓からは、風すらも入らない。積みあがった箱からは、一番うえにあったユニフォームの残骸と似たようなものが山ほど出てきた。どろどろに腐ったスパイクだの、かびや虫食いで箱と癒着した靴下やアンダーだの、きいろやあおやむらさきに変色したぺたんこのサッカーボールだの、錆びだらけでまっかになったダンベルだの。それらいちいちにうぇぇとかげぇとか言いながら(ときには悲鳴もあげたりした。てのひらほどのクモが壁を伝って窓から外に逃げていったときには、ふたりとも腰を抜かすほど驚いた)、しかしふたりの努力の成果でかの魔窟はそのほとんどを白日のもとにさらしていた。これマネージャーにやってもらわなくて正解だな。これはさすがにきついだろ、なんの兵器だよ。宍戸が足で、もうなにが入っているのか見たくもない段ボールをちょっとつつく。にゃあ。ほこりだらけのねこが崩された山の隙間から走り出てきたのはそのときで、宍戸と壁山のあいだをあっという間にすり抜けると、これまたタイミングの悪いことにたまたま入り口を開けた栗松と少林寺の足元を、しろい弾丸のように駆け抜けていった。伸ばしかけた宍戸の手が半端に宙にとどまって、ふたりが驚く声が遅れて届く。
あーと声にならない声を上げて壁山は宍戸を見る。同じような表情をした宍戸も壁山を見たので、ふたりでかくんとうなだれた。まっいーけどな。無事っつか元気だったな。だな。うわぁなんだよこれ。少林寺がばらばらに置かれた段ボールを覗き込んで眉間にしわを寄せる。これお前らがやったの?そーだよと宍戸はロッカーからタオルを取り出し、それでごしごしとからだじゅうにまといついた汗やらほこりやらをぬぐっていく。これ全部ごみに出したほうがいいよ。はぁーと感心ともなんともつかないため息をついたあとに栗松がそう言い、マネージャーに頼もうかと壁山も取り出したタオルで首や顔をこする。片付けるよりもこのまま処分してしまったほうがよさそうだ。なにせ中には得体のしれないものが果てしなくつまっているのだから。
あきれたようにそれらを見回していた少林寺が、宍戸ケガしてるよと言った。え?腕をあげてからだを見下ろす宍戸のわき腹に、あかい傷がすうっとはしっていた。かどでひっかいたのかなと宍戸はそこをてのひらでおおう。はだかでそんなことするからだろ?つーか服着ろよお前、壁山もなんで言わねーんだよ?少林寺に見上げられて、壁山は言葉につまる。あついからいーんだよと宍戸が少林寺の髪の毛をくるくるっと手に巻いてひっぱった。備品の棚に入っていたありったけのごみ袋を抱えて、でもケガならなんとかしたほうがいいんじゃね?と栗松が心配そうに言う。いたくないからいいよ。宍戸はかるい感じでわらい、離せよっと少林寺がもがく。
宍戸のしろい背中にはまっすぐな背骨が浮きあがってみえたし、その痩せた首を汗がながれていった。隙間に入りこんだねこのことをたぶん、本当に心配していた。だから壁山がいなくても、宍戸はひとりであの山を崩しにかかっただろう。しろい上半身をむき出しにしたまま。服を着ろとは、あのときは到底言えたものではなかった。それはあの瞬間に部室を開けてしまった、壁山にしかわからない。そしてまたそれを、壁山は後悔さえしていないのだった。宍戸のうすいひふに刻まれたあかい傷を直視することができなくて、壁山は息苦しくくもった窓の外に視線を逃がす。早々に着替えを終えた栗松が、うひゃーとかきたねーとか言いながら、どんどん箱の中身をごみ袋に突っ込んでいった。よどんだ空気はどこにも逃げることはなく、あけ放した窓からは風すらも入らない。あのねこどこにいったのかなと、落ちたつぶやきは誰にも拾われなかった。







マハラジャマック・イーター
壁山と宍戸。
初壁山。すきです。マハラジャマックは羊肉のハンバーガー。
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