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女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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ときどき彼がいたいのをこらえているような顔をすることを、栗松はかなしいというよりもっと単純に、つらいな、と思う。それは確かに友達だけれど、それでも口に出せないことなんてたくさんたくさんあって当然で、けれどそれが今までよりもずっと重たくて、しかもあとに引くから困ってしまう。ねー。今日もまたむっつりと考え込んでしまっているちいさな肩に自分のそれを横からぶつけて、栗松はかくんとあたまをそちらにあずけた。ボリウムのある動物のしっぽのようなふとくながいポニーテールが、栗松の首のあたりをさわさわとこする。なに考えてんの。別に。少林寺は栗松を寄りかからせたまま、ちいさなてのひらを膝の上でぐーぱーぐーぱーしている。別にって。ひひっとすこしわらって、栗松はからだを起こす。首のあたりに無意識に手をやった。少林寺の髪の毛はまっすぐで、やわらかくてこそばゆい。身長も体重も世の13歳の平均を下回るであろう栗松に比べても少林寺はかなり小柄で、しかしそのスパイクはからだのわりにおおきい。ながい髪の毛も相まってアンバランスに見えるのに、少林寺は足がものすごくはやい。それにかわいい顔をしているのに気がものすごく強いし、サッカー部の誰よりもやさしいのに、それを懸命にかくそうとする。スパイクをかかとでかぽかぽさせて、ああーうっぜーと少林寺はてのひらをすわっているベンチに叩きつけた。隣にすわる栗松はからだをすくませる。なに、それ、おれ?ちげーよ。じゃなによ。つかとりあえずほんとうざい。だからなにが。おれが。まるくすべらかな少林寺の頬に、そぐわない苛立ちだか焦燥だか嫌悪感だか、そんなようなものがべっとりとはりついてこごっている。おまえは別にうざくねーよ。言いながら少林寺は立ちあがって、思いきり右足を振った。かぽかぽのスパイクが少林寺の足からすごい勢いでとんで、ロッカーにぶちあたってひどい音をたてる。おまなにしてんだよ。なにごともなかったみたいにベンチにすわりなおす少林寺のかわりに、栗松が立ちあがってスパイクをひろう。ほらよとそれを差しだした栗松のユニフォームのわき腹のあたりを、少林寺のちいさな両手が握りしめ、そのまま栗松の腹に、少林寺は額を押しあてた。栗松さーおれのことあたまおかしいっておもった?くぐもった声がして、栗松はスパイクをそっと地面におとした。歯とコンクリートのふれるかつんとたかい音が、狭い部室にやけにひびく。おもった?なにを問いたいのかをはかりかねて、栗松は戸惑った。おもわねーけど、なんで。だっておれ。腹のあたりがあつい。ぎりぎりまでこらえたため息を、少林寺はゆっくりと、ふかく、ながく、吐きだしていく。だって、おれ。いつのまにか栗松の腰に少林寺のほそい腕がまわされて、ぎゅうとユニフォームがよじれる。あのひとがいない方がうれしんだ。なんでだろ。あつい息をこぼしながら、少林寺は考え考え言葉を続ける。そやって思っちゃうのが、まじで、うぜぇ。うぜぇ。ひとりごとのようにつぶやきながら、少林寺は栗松の腰に額をぐりぐりとこする。前髪がきっとくしゃくしゃになってしまうなと思いながら、栗松は手をのばしてポニーテールをそっとすく。指がいくらでもずぶずぶとしずんでいって、栗松の気持ちもおなじくらいふかくふかくしずんでいった。少林寺が言わんとしていることをわかってしまって、それをわかってしまったことが、栗松は少林寺の感じているいたみとおそらくおなじくらいだけ、かなしい、と思った。口にだせるだけ少林寺は栗松よりずっとずっとつよいし、痛いのをこらえているような顔をしながら、それでも少林寺はないたりしないのだ。少林寺がうっとうしがるその感情を、栗松はきらうことさえも諦めていた。栗松の腕がやわらかく少林寺の背中をおさえる。ちいさな背中に、心がよじれた。栗松。ぽつりとこぼすように名前を呼ばれたとき、あっと思ったそのときには涙がもうぼろぼろとながれていて、思いきりうろたえる栗松を少林寺のちいさな両手がしっかりとつかまえる。懸命にかくそうとする少林寺のやさしさだって、栗松は容赦なくむき出しにさせてしまう。もうどうしようもなかった。言葉を届けることさえできないふたりには、どうしようもなかった。
おれ栗松のことすきだよ。栗松のそーゆーとこがすきだよ。おれだってなくときは栗松のとこでなきたい。だけどあいつはそーじゃないじゃん。ないてくれないじゃん。
(それでも僕らには方法がない)
(あいつをなかせる方法も、あいつをきらいになる方法だってない)
ずるずるとあとに引くその重さを、あいつがわらいながらどこまでも引きずっていくのに。栗松には、少林寺には、その手を引くことさえもできない。ふたりでぴったりと寄りそって、ああそれでも、それでも足りない。けっ飛ばしたスパイクが立てた音が、とっくに沈黙に飲み込まれてひえていく。ぐずぐずにいたみながらたちきることができないでいるそれを、ふたりでわけあうことができるなら。少林寺のはだしの指さきが、栗松のふくらはぎのあたりをかすめた。いたみとは、このくらいでないとあふれだしてしまう。あいつが飲み込んでなんとかしたものを、わけあうことさえもできなかった僕らには。







痛みとは
栗松と少林寺。宍戸について。
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影野の背中は痩せていて、背骨がうっすらとまるくたわんでいる。ひふがうすくて色がしろく、だけどながい髪の毛がそこをやわらかくおおい隠すので、こぶこぶの背骨やとび出た肩甲骨を、普段は見ることができない。ひょろひょろと背が高いけれど猫背ぎみで、地面にすわるときはいつも膝を抱えているその奇妙な同輩を、松野はおそらくすきだった。ようす。松野は挨拶がわりに、いつも影野のうしろに立って膝かっくんをする。これがおもしろいほど毎回決まるので、いくらやめろと周りに言われても(影野はそんなことは言わない)やめられない。影野が膝を抱えているときは、こころもち膝をまげて、それを背中にぶつけてやる。膝かっくんも膝タックルも、くらわしたあとに影野がやわらかく、松野、と呼ぶのが松野はすきで、だから松野は影野がすきだった。おまリアクションまじうすい。そうかな。そーだよつまんねーよ。いつものように膝かっくんで転ばされたあと、松野が言うその冗談みたいな言葉に影野は真剣に考えこんだりする。つまんないか。影野のよれた制服のズボンのすそから足首がのぞいていて、いそいで上履きを脱いだ足でそこを、うりゃ、とやわらかく松野は踏んづけた。昨日落とすのを忘れたペディキュアのエナメルが、足の指の先でてかてかにひかっている。松野は靴下をはくのがすきではない。足首には南米みたいな色のミサンガと、ヨガをするひとがつけてそうなくろいゴムの輪をかさねている。いい色だな。廊下にくずれ落ちて足首を踏ませたまま、影野は松野のペディキュアをおそらく見て、そんなことを言う。極彩色ばりばりでぎらぎらのラメラメの、目がいたくなるようながちゃがちゃしたその色を、誰もが趣味のわるい色だと言うのだ。五指のすべてにちがう色がはりついていて、それらは全部つぶのこまかいラメでひかっている。ねぇ起きなよ。松野がそう言うと、影野は足を踏ませたまま器用にからだをねじって、片膝を抱えた。松野。影野が肩のあたりにわしゃわしゃになった髪の毛を背中にはらう。松野はペディキュアとミサンガと輪っかで飾られた足をふりあげて、しろいかかとで影野の肩を、とん、と蹴った。戸惑うように影野はそれを見て、言うべき言葉をたぶん懸命に探し、それが見つからなかったためにぼそりと言った。ごめん。あーあの背中にはりつきたい。松野は帽子の耳のところをいじりながら、だけどそんなことを考えていた。あーあの背中にはりつきたいあの背中にもうすき間なくぴったりとはりついて息ができないくらいになりたいっていうか息なんてしなくてもいいくらいべったりしたいきもいって言ってひかれるくらいべったりしたいもうむしろあそこで同化したい影野影野影野影野。影野。影野は膝を抱える。松野はうしろに回って、背中に膝をうちつけた。かーげーのー。じーん。じんじん。影野のやわらかい髪が膝でよじれる。この髪の毛と学ランとカッターシャツとインナーの奥にうっすらとまるくたわんだこぶこぶの背骨やとび出た肩甲骨が、ある。だめだ、と思った瞬間には、いさぎよくすることを松野は普段から心に決めていて、だからそれが襲いかかってきて思考がふさがれてしまうその寸前に、ばいばい、と去った。なるべく影野を見ないようにして、だけど教室にとびこむそのときに、視界のはしで影野がゆっくり立ちあがるのが見えた、気がした。
教室の扉を思いっきり開けて思いっきり閉めると、反動でばしんとまたほとんど開いた。いらついたので音をたてて椅子を引いて、上履きをすっかり脱いだ足を机の上で交差させる。上履きは片方廊下にわすれてきた。影野が持ってきたらぶち殺してやると松野は眉をしかめるが、結局それを持ってきたのはおなじクラスの友人だった。あの髪ながい子から渡されたよとの言葉に、俺あんなやつしーらね、と答える。あの背中に。(あの背中にはりつくことができるなら)(おれはきっとどんなことでもするのに)。だから松野は影野がすきだった。そういうわずわらしいうっとうしい感情を、影野の手でわすれさせてくれるのだから。つーか俺明日から髪のばすわ。松野は友人を見て、にやっとわらう。松野の思考の隅では、いつも影野がしろい背中をさらして、膝を抱えてすわっている。どうせすぐ飽きるんだろ。わらいながら投げ掛けられる言葉に、やはり松野は反論のすべを持たなくて、だからうるせーはげ、と言ってやった。俺の気持ちなんてわかるかよと言うけれど本当はわかってなんてほしくない。全然ない。ただ影野がわかってくれてればいい。踏んづけたしろい足首が、やっぱりほそくてうれしかった。思考の隅で影野は繭のようにうずくまる。しろい背中がこちらを向いている。肩甲骨がラメラメの極彩色の羽になって、だけどそれを松野は踏んづける。何度も何度も、踏んづける。影野がわかってくれていれば、それだけで松野はかまわないのだった。影野のことを、松野はとてもとてもすきだった。だけど松野は無力だった。無力だった。






下り坂にて
松野と影野。自分が影野のことがすきなのを、自分以外の誰にも知られたくない松野。
松野と半田は個人的にかなりチャラい厨房です。
そしてタイトルのセンスが実にわるい。
どうも宍戸づいている最近です。
彼は非常な男前だと思います。スタイルいいですし。
年代らしい幼い葛藤を抱えて、わかりやすくわかりにくく苦しんでればいいと思います。
そういうのがあんまり表に出ない影野に、ちょっとだけ嫉妬すればもっといいです。
わかっててわかってないふりをするのがうますぎて、結局お前わかってないんじゃね?と誤解されるような影野のそれは、もうやさしさと呼んで差しつかえないんじゃないかと思う。
くるしいひとに背中なら貸してあげられるであろう影野のそこに、今は宍戸が背中合わせにはりついててほしいなぁぁぁ、と、思います。


続きに拍手返信。

先輩ってサッカーやっててたのしっすか?スパイクのつま先の方にこまかい砂がざらざらにたまって、それを面倒くさそうにぱらぱらと地面にひっくり返す目金に、雨上がりの地面を転がったせいで泥がこびりついたボールを持った宍戸が問う。宍戸の華奢な指が、縫い目をおおうしろくかわいた泥をこすって落としていき、それをちらりと見て目金はスパイクをはきなおす。別に楽しくはないですね。正直にそう言ってやると、ははっとかるく宍戸はわらった。やっぱり。腹も立たないのは現状に慣れすぎているからか、それともこの後輩の口調のせいだろうかと目金は指先でくるくると髪の毛を巻きとる。ベンチになってから宍戸はなんだか穏やかだ。すんません雑巾かしてもらえます?ベンチの後ろを通る木野に、そんなことを言ったりもする。くろくよごれた雑巾を持つ宍戸のしろい手が、指では落としきれなかったボールの汚れをていねいに拭っていく。その横顔が穏やかすぎて、まっすぐ見ることができない。
話しかけられて、目金は正直とまどった。嫌いなタイプではないが、うまが合うとは思えない。そばかすの散った頬はいつもわらっているが、底抜けにあかるい男なのだとは、到底思えないのだった。あなたは違うんですか。俺っすか。俺はまぁ、たのしっすよ。目金のほうをちらとも見ずにつらつらとまくし立てたその言葉尻に、なんてね、と冗談めいた言葉をわざわざつけてみせる。つーかできてなんぼっすからね。ベンチっつーことは、そーゆーことっす。楽しいとか楽しくないとかってその次、っすよね。ね、と言われても目金に返す言葉はない。自分はサッカーなんてできなくてもいい、と思っているからだ。なにも言えないままの目金をおいて、宍戸はベンチをきしませて立ちあがる。片手でぶらぶらと雑巾をふりながら、もう片手でベンチにすわる影野の背中をさわーとなでていった。びくりと肩をふるわせて影野がふりむき、駆けていく宍戸の背中をみとめてすこしわらう。影野が普段見せない笑みは、やさしくてなぜかなきたくなる。目金の視線を感じて、影野はふっと笑みをけした。我慢してるな。ひとりごとのようにぽつりと影野は言い、目金はやはりなにも言えない。サッカーやってて楽しいか。おなじことを影野は目金に問う。だから。言いかけた言葉はのどの奥に不快にへばりついた。戻ってきた他のメンバーが、宍戸のすわっていた場所にどやどやとすわっていく。無性にむなしくなって、目金は空をあおいだ。あおすぎてそれは、高すぎて、むしろいたくてどうしようもなかった。あのながい髪の毛のむこうで、影野がなにを見たのか目金は絶対に知りたくないと思った。宍戸がベンチを立ったままもどらない。あのしろい指がきれいに磨いたボールが、誰かのスパイクの下でかすかにゆがむ。目金に言うべき言葉はない。宍戸にとってそれがどのくらい大切で、失ったことでどのくらい傷ついたかを、目金は想像することさえできない。影野が音もなくベンチを立った。どうかうまが合わないあの後輩を泣かせてやってくれ、と目金は願った。それをなくしてしまったひとに、かける言葉なんて彼が持ち合わせているとは思えないけれど、それでも。
それでも君たちはしらないだろうから。雑談の合間に蹴られたボールが転がって水たまりにひたった。宍戸があれをどんなに大切に大切に磨いたかを、君たちはしらない。どんなに穏やかな横顔で、やさしい顔でグラウンドを見ていたかを、君たちはしらない。影野の背中を撫でていった指に、宍戸がどんな思いをこめていたのかを、これは誰もしることはできないけれど、少なくともあのときの彼を見ていない君たちは、しらないだろうから。サッカーがたのしくて仕方ないひとの気持ちなんて目金はわかりたいとも思わない。だって誰も言わないのだ。今ここにいないふたりのことを、だって、誰も、言わない。






ねじれて空
目金と宍戸と影野。やっぱり宍戸がすきです。
雨が窓をしずかに叩いている。しずかにしずかにひたひたと叩いている。
四角く切りとられたそこには風も音もないので、普段はすこし苦しい呼吸がそのときは妙にはやくなる。横隔膜を骨と筋肉のうえから押さえつけられたような気持ちで、思考がやたらとくるくる回る。彼はゆっくりと膝をまげて蒸れたコンクリートの隅にかがみこんだ。もてあまし気味のながくほそい両手をまげた膝にまきつけて、でっぱった骨に額を押しつけるとそれで彼の世界は完成する。湿気でかすかにきしむながい髪の毛が、その肩や背中や腕のひふにしっとりとやわらかくまといついて、そうして四角く切りとられた場所からさらにまるく彼を切りはなしていく。
風も音もないその場所は彼のすべてで、彼にはそれしかない。何もかもをこらえるようなその姿勢で受け流し、他の誰が踏みこむことをもよしとしない彼のすべて。だけれどそれらは実に悪意なくうち破られる。ふと四角く切りとられたその場所に踏みこんだ誰かの足が、やわらかく止まるのを彼は感じる。じんちゃん、なにしてるの。日に焼けた指がそろっと、うつむいたままの彼のあたまに、髪にふれた。彼は顔をあげない。彼の世界は、そこにしかない。じんちゃん。名前を呼ぶ声はおだやかでねむたい。悪意のないその声は、だけど彼の世界をやさしくつき崩す。はやくせわしない呼吸がゆるゆると速度をおとし、やがてのどを溢れかえったなにかがぴったりとふさいでしまった。彼は身じろぎもせず、髪の毛がひとふさゆっくりとすくわれる。あたたかいてのひらがそっと彼のあたまを包み、砂でざりざりのコンクリートをスニーカーの底がひくく掻いた。雨が。
雨が窓をしずかに叩いている。しずかにしずかにひたひたと叩いている。心臓が彼の血液をしずかに叩いていて、呼吸が彼の横隔膜をしずかに叩いている。日に焼けたてのひらが彼のそばのコンクリートをしずかに叩き、崩れかけた彼の世界はおおきくゆらいだ。どうかこれ以上なにもしないでと、まるい世界を内側から彼はしずかに叩く。雨が窓をしずかに叩いている。しずかにしずかにひたひたと叩いている






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