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女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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帽子をとって指先でくるくるまわしながら、あれ栗松じゃね、と屋上のフェンスに指をからめた松野がふりむいたとき、半田はコンクリにすわりこみ、靴も靴下もぬいで足の指の爪をきっていた。こんなとこできたねーことやってんじゃねーよ半端。うるせーなすぐ割れんだよ親指。がっしゃんがっしゃんフェンスをゆさぶりながらの松野の言葉に、半田はかしかしとつめ切りを動かしてみせる。栗野郎きづかねーし。電話してみるべ。いーね。ストラップがじゃらじゃらついた携帯をとりだし、松野はそれを耳にあてた。視線の先、窓際でねむたそうに頬杖をついて机にむかっている栗松が、びくりとからだをふるわせて、そろそろとポケットに手をのばす。サブディスプレイに表示された名前を見たのだろう、きょろきょろとあたりを見回して屋上をむく栗松に、松野といつのまにか横にならんだ半田がにやにやと手をふった。
授業を抜け出すなどということは、勉強がきらいなふたりにとってはお手のもので、屋上の合鍵は古株さんの手持ちの中から松野がこっそり抜いた。その足でミスターミニッツにかけこんでコピーを量産し、屋上はサッカー部のものになった。栗松にここに来いとゼスチュアをして見せると、困ったように教師を見て、手を挙げて席を立った。便所とか言ったのかな。たぶんね。あれじゃすぐばれるな。もっとうまく抜けなきゃだみだ。だみだだみだーと松野はふざけて繰り返し、屋上のまんなかまでくるくるとまわりながらあるいた。つか教師だまくらかしてさぼるってどーよ。しらね、おれ屋上すきだもん。おれもすきだけどよ。じゃいーじゃん。ばたんとそこに大の字に倒れて、松野はぐりんと半田を見た。影野もきてくんねーかな。無理だろ、あれ普通にいいこだから。おれらわるいこかー。きしし、と松野はうすいくちびるをゆがめてわらう。松野が影野に対して、どうにも報われないであろう気持ちを抱いていることは半田は知っていた。かと言って特になにがかわるでもない。松野は女もすきで、だけどその延長に影野がいるというただそれだけだ。
屋上の扉がおもくきしんで、なんなんすかと栗松が顔を出した。来たな便所野郎、と松野がからだをばねじかけの人形のようにおこす。量産した合鍵を松野はもちろん影野にもわたしたけれど、影野がここに足を踏み入れたことは一度もない。サボりっすか。イエスオフコース。なんの用事っすか。くりたんがひまそうだったから、おにーさんたちが遊んであげようと思ったわけよ。はぁと困ったように生返事をする栗松の手の中で携帯がふるえる。それを見て、げっと栗松が眉をしかめた。なになに。松野の言葉に栗松はディスプレイふたりにむける。さぼってんじゃねーよ!!!!!!!!と山ほど!がついた一行だけのメールが表示されていて、しかも送り主はおなじサッカー部だったりしたので半田はおおいにわらった。しょーりんも呼んでやろうぜと今度は半田が携帯をとりだしてかちかちとメールを打つ。
しょーりんだけ別のフォルダなわけ。松野の言葉に栗松はおどろいたように目をみひらく。携帯をあわててポケットにしまう栗松に、松野は目をほそめた。なんなの。すきなの。その言葉に半田がちらりとふたりを見た。答えのない栗松の足を、松野はかるく蹴ってやる。きもちわりーな。耳まであかくする栗松を、松野はくちびるをゆがめてながめた。半田の携帯がふるえて、しょーりん来るってとその言葉を松野は鼻でわらう。よかったね。指先にからまった帽子が風に吹き飛ばされて、半田はそれを目で追った。松野がベッドの下を掃除していたらコンドームの袋が出てきたという話をしたが、誰もわらわなかった。松野もわらわなかった。全員が被害者づらをしてそこにはいた。誰もが被害者ではあったのだ。投げ込まれたものが一体なんだったにしろ。
屋上の扉がきしんだそのとたん、松野は栗松を思いきり蹴り倒した。唖然とする少林寺の前で、複雑なプロレス技を極めてみせながら松野はわらっていた。その顔が奇妙にさびしくて、半田はかわいたわらいごえを上げる。思えばもっと早くに、自分がそうしてやればよかったのだ。ポケットから飛び出した栗松の携帯が、半田のあしもとにすべってきたので、拾い上げて電源を落としてやる。いたいいたいギブギブギブという、栗松の声がすこしだけないていた。誰もが被害者だったのだ。ここでは。屋上に足を踏み入れようとしない影野の賢明さに半田は苦笑し、もっと早くに蹴り倒してやるべきだったな、と思った。松野は大暴れしているし、半田の足の爪はすっかりみじかくなり、ひざを抱えて涙目になっている栗松を見ている少林寺のむこうの空が、おどろくほどあおくさめている。







細胞シグマの絶望
半田と松野と栗松と少林寺。
栗松→少林寺→影野←松野と傍観者半田のおはなし。
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焼却炉の前で少林寺が返ってきたばかりのテストをやぶりまくっている。あかの入れられた答案をすべて、文字も読めないくらいにずたずたにしてから最後に焼却炉のなかにつっこんで、金属製の扉をがしゃあんとけたたましくしめた。そうして栗松をふりかえって、仔犬のようなくろ目がちの目をきゅうっと細める。その目にうつる栗松は、こまった顔をして立っている。うえからしたまで栗松をながめた少林寺の眉間に、ちいさなたてじわがよった。
なにみてんだよ。両手で栗松の胸をおしのけながら、少林寺はむっとしたように言う。だってお前。つきのけられて二歩うしろにさがった栗松は、眉尻をさげてすこしわらう。はらいたいって、言ってたじゃん。あんなんうそだよ。腹痛をうったえた少林寺を保健室に見送ったのは、一時間以上も前のことだ。ながい髪の毛が砂ぼこりのまじる風に、ほどくように流されている。しろいカルシウムのつぶのような歯をのぞかせて、ついてきてんなよこの変態、と少林寺はほそい肩をいからせた。わるかった、ごめん。口先だけで謝りながら、栗松はひらいた二歩ぶんの距離を一歩でつめる。もろに反抗期思春期に突入した少林寺は、ここ最近は常時むしのいどころが思わしくない。部活ではそれでも素直な後輩をつらぬいているが、少林寺がいつになくぴりぴりした空気をまとっていることは周知の事実のようだった。いつぶち切れやしないかと壁山なんかは目に見えてびくびくとおびえていて、またそれが少林寺のいらだちをあおる。
手を伸ばして、栗松は少林寺のちいさな手をとる。もうもどろう。ぱっとそれははらわれて、いやだ、という言葉があとにのこった。まるでパフェのうえのミントの葉のようだ、と栗松は思って、それを連想したのが少林寺の手がやたらとつめたかったからだと気づいた。風に吹き散らされて焼却炉につっこまれることをまぬかれた答案のかけらが、ひらりと栗松のあしもとにまいおちる。ふたつ並んだゼロ。顔をあげると少林寺はそっぽを向いて、おれもうなにがやりたいかわかんないんだよね、とひとりごとのように言った。栗松はさ、やりたいこととかあんの。それができたら、うれしーの。棒をのみこんだように、言葉はすきまなくまっすぐに、無機質に、少林寺からおし出される。そうして栗松の胸を、今度はその両手ではなく言葉でつきはなす。
(やりたいこと、なら、あるよ)(それができたらもちろん、うれしいだろうよ)(でもそれを言うとおまえはわらうだろうし)(その前にそれがかなうことなんて絶対に、絶対にないんだから)別にないかなと答えた栗松をおもしろくなさそうに少林寺は見て、おれとおんなじだね、さびしいね、と言った。もどろうと伸ばした手に少林寺がふれることはなく、その指はあかい答案をつまんでひらりと風にほうった。つらいときになけたら、どんなにしあわせだろうねぇ。少林寺の言葉に栗松はかすかわらう。だったらそれは今しかない、と思う。くせに。
少林寺の髪の毛がすこし伸びたことに、自分以外の誰が気づいただろう。そしてその仔犬のような目が追っているひとのことを、自分以外の、誰が。奥歯をかみあわせるとミントをかんだように鼻の奥がつうんとした。なきたいときになこうと思えるだけおれの方がおまえより大人だ、ざまあみろ。






バイバイ・ミー
栗松と少林寺。
ゴーサインが出ましたので、記念にひとつ。
影野からのメールはいつもみじかい。わかった、か、じゃあまた明日、のどちらかしか少林寺の携帯には入ってなくて、しかも返ってこないことが大半だったりする。疑問形のメールはだいたい返ってこなくて、単純な業務連絡なら、わかった、と返してくれることだけを少林寺は覚えた。影野のメールは影野とおなじくらいそっけなくて、だけどそれでも喜んでしまう。
甘えようと思って甘えれば、きっと影野は甘やかしてくれるだろうと思う。近づきがたいだけでつめたいひとでは、あのひとは決してないのだ。だけど、ただ単純に甘やかしてもらうなんてことは少林寺にはできないのだった。もう、それはできないのだった。ぱかぱかと携帯をとじたりひらいたりしながら、ぐしゃぐしゃに濡れたままの髪を片手でなでる。寝間着がぬれるからきちんと乾かしてから部屋に戻りなさいと祖母はいつも言うのだが、どうにも言うことを素直にきくのが難しい時期だったりする。
ぱかりと携帯をひらいて、新規メール作成画面のしろい画面を呼び出す。それからアドレス帳をひらいて、2をいっかい横キーをいっかい2をよんかい下キーをいっかい、押して影野のアドレスを呼び出した。携帯からインターネットにつないだり、くだらない自己紹介にこころを砕いたりするような愚にもつかない趣味は少林寺にはない。携帯電話はメールと電話だけの道具で、学校以外であのひととつながっていられる唯一のものだ。液晶画面をつるりとそででなでて、だけれど画面はしろいままうまらない。ぶぶぶ、と手のなかでそれがふるえて、思わず少林寺はそれをとり落とした。ひろい上げて画面をきりかえると左上のメールマーク(少林寺はこのアイコンもすきではない。だいたいがつまらない内容だからだ)がきえて、新着メールの画面になる。ぼっとほほがあかくなった。まさに今から送ろうとしていた相手のアドレスが、未開封のアイコンとならんでいる。
『忘れ物を預かっています。明日渡します。じゃあまた』
「ありがとうございます!わざわざすみません!なに忘れてましたか?」
親指がふるえる。ぐしゃぐしゃにぬれた髪の毛から、ぽたりとしずくが布団におちる。疑問形で返しても、このひとからの返事はこない。こないこないこない。土門の目があたまをよぎる。わらっていたろうか。わらっていたのだろうか。やさしくされてそれを、おれがよろこんでいるとでもおもったのだろうか。
だん、と畳をふんで少林寺はたち上がる。携帯を振りかぶって思いきり投げたら、ふすまを破ってぼたりとおちた。髪の毛のしずくがまるで星のようにあちこちに飛び散って、首すじをつたうそれがつめたかった。どこにも自分は行けない。この部屋からさえも出られない。
携帯のバイブが鳴った。ひろい上げてひらいて電源をおとす。あのひとからでないのなら、誰からの電話もメールもいらない。穴のあいたふすまを少林寺はうつろな目でながめた。あのとき床にころがった携帯をおおきな甲虫の死骸のようだ、と思って髪の毛をまたなでる。しずくがまとわりついてひじまで流れていった。自分はどこにも行けない。この部屋からも出られない。土門がわらっていたのならそれはなぜだろうか。少林寺にはもうなにも考えられない。死骸はあのひとに会いたいとなくのに。わずらわしいほどいつまでもなくのに。
(ああ、こないこないこないこない)
(なきたいのはおれだよ。ばかやろう)






手紙の雨
少林寺。
あとひとつ書いて、いったん区切りをつけます。
その瞬間のあの顔は、きっと一生忘れないと思った。
練習後に泥だらけのスパイクの歯につまった泥をブラシでこそげ落としていると、ぬっと手元にながい影が落ちた。少林寺が顔をあげると、土門がひざを曲げて手元をのぞきこんでいる。なんですか。少林寺は手をとめて土門を見上げると、あっわるいわるい邪魔しちゃったね、とへらへらわらう。
最後にぼろ布でざっと歯をぬぐい、少林寺は袋にスパイクを入れて立ち上がった。帰るの?帰ります。一緒に帰らない?なんでですか。なんでって、一緒はいや?じゃないですけど、でも。逆方向だろ、と少林寺は思う。このせいの高い先輩とは、いつも校門のところで別れる。その疑問が顔に出ていたらしく、ちょっと寄るとこあんだよねと土門は手をふった。あゆむちゃんひとりじゃ危ないでしょ。お兄さんが途中まで送ってってあげるよ。あくまでも気楽な言いぐさに、スポーツバッグに袋を押しこんで、じゃあお願いしますとにこりともせずに少林寺は言う。じゃあ決まりだねはやく帰ろうと土門は指先で鍵をくるくるまわした。今日の鍵当番は少林寺だ。
土門のことを、少林寺はどういう風にも思っていない。サッカー部にはいろんなひとがいて、そのひとたちに関して少林寺はさまざまな感想や評価を持つわけだが、土門は少林寺の中で、特にどうでもいい類の人間だった。取りたててなかよくしたいわけでもなければ、嫌っているわけでもない。帰りながら土門はなにくれと少林寺に話しかけた。部活がどうの学校がどうの。それに対して少林寺は、上っ面な答えしか返すことができない。そうしてたぶんそれを、土門も気づいているのだろうなと思っている。見上げるせいの高い横顔は浅ぐろくやせていて、頬骨がめだつ。小柄で色がしろく、ふっくらとした頬の少林寺とは、おなじ種類のいきものだとは思えない。
おおきな道が別の道とぶつかる交差点で、少林寺は足を止める。あの、ここまででいいですか。数歩さきに進んでいた土門は、くるりと振りかえってそうかとわらう。うん、気をつけて。ありがとうございました。ちょこんとあたまを下げて背中を向けようとする少林寺を、あのさ、と土門はひき止める。あのさ。影野っておまえにやさしい?質問の意味がわからずに少林寺は首をかしげる。くらくなりかけた夕陽にてらされて土門は真顔だった。まぶたのうすい爬虫類めいた目が、少林寺をじっと見つめている。おまえ、影野のこと、すき?その言葉が耳にはいったとたん、そこがおそろしい勢いでかっとあつくなる。だけど少林寺はなにも言えなかった。土門はさびしいようにふふっとわらった。あいつ俺にすげーつめたいんだよ。あゆむちゃんがうらやましい。
それだけを言って、土門がきびすを返す。せいの高いやせた背中を少林寺はじっとながめていた。夕陽が目のはしできらきらとまぶしい、と思ってなぜまぶしいのかとふとそこに触れたとたんに涙がぼろぼろとあふれだす。土門は来た道を引き返していってしまい、少林寺は涙をこぼしながら足をひきずるように帰路についた。一緒になんて帰るのではなかったとひどく後悔する。いやだいやだいやだ。土門はなにもしらない。あのひとは(おれになんてやさしくしてくれるわけがない)。ぬぐってもぬぐっても涙がどんどんながれて、そうしてまたそれがどうして出てくるのか、少林寺はいやだった。わからないことなんかだいきらいだった。わかっているくせに。わかっているくせに土門はわからないふりをする。知っているくせに。もう持っているくせに。
なきながらあるく少林寺をゆっくりとさおだけ屋が追い抜いていって、音のわれたスピーカーからはりんご追分がずっと流れていた。土門の爬虫類のような目が、何度も何度もわらいかける。その瞬間のあの顔は一生忘れないと思った。あゆむちゃんがうらやましい、という言葉をわらいかけるのとおなじ数だけ繰り返して、その数だけ少林寺は土門をきらいになってゆく。影野もあのひとをきらいになればいいのにと思ったそのときに家が見えてきて、ああもう地球なんか終わればいいと少林寺はぬれた頬でわらう。土門は影野のところへ行くのだと、自分は最初からわかっていたではないか。ぬぐってもぬぐっても涙がとまらない。そうしてそれがなぜだかわからない。上っ面な答えしか出せない少林寺を、爬虫類の目をして土門は何度でも何度でもわらう。りんご追分は遠ざかっていくけれど、地球はいつまで経っても終わってくれない。







りんご追分
土門と少林寺。
嫉妬心まるだしのふたり。
続きに23話感想
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無印雷門4番と一年生がすき。マイナー愛。

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