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女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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部活動が禁止されている考査前の図書室に、いまは目金とまばらな人影しかない。がたんと音を立て目金は椅子を立つ。あ。と聞こえる小さな声。後ろには音無がいる。振り返らなくてもわかっていた。
いい加減つけまわすのは止めてもらえませんか。ちがうんです。そんなつもりじゃないんです。じゃあどんなつもりなんですか。目金は音無が返す言葉なんてもたないのを知っていた。そんなつもりじゃないんです。もういちど音無は答える。じゃあどんな。同じ時間をくり返し音無がようやく口にしたのは先輩が読んでいる本のことなんて言うありていの言葉で、目金は眼をほそめる。そんなことでぼくを。いけませんか。音無は目金のあからさまにむけられた嫌悪をまっすぐに見つめようとする。目金は音無のことがすきではない。そんなことでぼくを。たたみかけた言葉に音無は答えない。
いいでしょうこの本、あなたにあげます。え?ぼくはもう読み終わりました。手に持っていた新書版を音無のゆびに滑り込ませる。そのゆびにはいくつか絆創膏が貼られていたけれど、そのすべてに目金は感慨ももたなかった。あおい表紙のキャッチャーインザライも目金にとっては、目の前でかすかにふるえている音無とおなじように、なにもなかった。ありがとうございます。いいんです、ぼくにとっては面白くなんてありませんでしたから。はあ。あなたなら面白いと思うのかもしれませんね。どうでしょう。音無のゆびのなかあおい表紙はないているように見えた。
先輩。わたしうれしいです。そうですか。目金は椅子に置いてあったかばんをつかんだ。ぼくもう帰りますから。はい。あおい表紙を持ったまま音無は立っている。むぎばたけのかかしのように立っている。目金はひとの心情をよみとりたいなんて思わない。頭を下げている音無のすがたも見たくない。閉めた扉ごしにさえ、けして。






はたの捕縛
目金と春奈。
静かなる拒絶。

Tanapps!のたなさんが書いてくださったものです。
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感謝企画。
夢見ガチさまリクエスト、土門と目金。
リクエストありがとうございました。

続きに本文。

感謝企画。
納谷亜さまリクエスト、宍戸の家族設定。
リクエストありがとうございました。

続きに本文。
少林寺がいないと教室がひろすぎたりせますぎたりする。栗松の席は廊下がわから二列目前から二列目にあって、少林寺の席は窓ぎわの前から三列目。あいだに三列はさんですこし後ろに少林寺がいるという距離感が、教室の中で栗松が唯一はかることができる距離感だった。だから今そこに少林寺がいないということで、栗松はそれを失いつつある。教師の声が耳を聾するほどおおきくなって、目の前にやにのうっすらとついた歯が迫っているかと思うと、海と砂漠の向こうほどもとおくから、すぐ後ろにいる友人の手が肩をたたいたりする。机の上のノートがまるで千畳敷のように永遠に広がっていくけれど、そこを這う文字は水にすむ微生物ほどにちいさい。栗松はほおづえをついてついでにため息をついた。参ってしまう。
少林寺は昼休み、あっという間に弁当をたいらげてからどこかに行ってしまった。それから帰ってこない。五時間目の担任の国語教師はひとり足りないけどどうしたの、と学級委員に聞いたが、学級委員は栗松を見た。あわてて首をふると、いちど首をかしげて、知りません、と彼は言う。ふーん。じゃああとでノート見せてあげてね。それきりその話題を切り上げて、教師はチョークを取り上げた。授業はじめます。五十七ページ、開いて。栗松はおっくうな指で教科書をひらいた。それが何万光年もとおくでされたことのようだった。参ってしまう。松野や半田は今日も屋上にいるのだろうかとふと視線を窓の外にとばす。以前は窓ぎわのいちばん後ろにいたものだから、屋上からよく見られてあまつさえ呼び出されたものだった。傍若無人な彼らからは、ときどきうっすらとタバコのにおいがする。栗松、と呼ばれてあわてて立ち上がった。もう野菜だけの無謀な弁当をたべることはやめたが、それでもときどきあのときの空虚感を恋しいと思うときがある。肉をたべない少林寺と、栗松はそこで繋がっていた。
そうしてその日の部活にも少林寺は来なかった。無断欠席なんていちどもしたことのないやつだったから、みんなおおいに驚いて、心配していた。松野と半田と土門がかたまってなにかをしゃべっている。彼らには珍しく辛気くさい顔をしていた。現実感がすうっと遠ざかり、ぱらぱらとざわざわと、あちこちから聞こえる声は散弾銃をはなつようだった。外国人からは日本人の言葉はぱらぱらぱらぱらと聞こえるらしい。誰のものともつかないその声が、栗松の意識にいつまでも穴を開けていく。まるで戦争にでもきてしまったみたいだった。
もしも戦争になったら栗松はいちばんに戦場へいく。錆びついた銃を片手に。そうして残していったものをぜんぶぜんぶ、少林寺にあたえてくれればいいのだ。栗松の指は戦場で尖った骨になり、弁当の青菜をつまむしろい箸になればいい。そんな場所で繋がっていられるなら構わないのだった。松野がうち沈んだ様子で影野によりそい、影野はあからさまにうっとうしそうな顔をする。少林寺がいないとグラウンドだってひろいひろいひろい。アップするぞーという声にかけだす足さえも他人のものだった。空虚感は恋しかったが、少林寺がいないとさびしい。栗松の目と耳と鼻は戦場に行って鉛のような兵隊を見ている。栗松の指は何万光年もむこうで少林寺をさがしている。







鉛の兵隊みなごろし
栗松。
影野の指さきはしろくてほそい。まるで体温をもたないような、つめたいさかなのような指。さむがりの影野はよくそれをこすりあわせている。水面で旋回と潜水を繰り返す鳥に食まれる、うろこをひからせしろい腹をしたさかな。
土門はつっと手を伸ばす。後ろから、そのしろい首をめがけて。影野の髪の毛が水草のようにひっそりとなめらかにただよう、日の落ちた無人のさむいさむい部室。影野はそのまん中に立ち尽くして、さかなの指をこすりあわせる。どこを見ているのかはわからない。うすくひらいたくちびるから、ほそくほそくしろい吐息がこぼれた。土門。後ろからまるでくびろうとするように開かれたてのひらが、ぎしり、とかたまる。その甲のひふがぽつぽつとあわ立った。まぶたをひくつかせて土門はまばたきをする。ここは、ひどくさむい。
手をすこし下げて、うしろからこすりあわされた影野の指をつつんだ。なに、じんちゃん。てのひらにふれた影野のひふがつめたい。なに。影野は逆に問い返す。土門の顔のすぐそばで、水草の髪の毛がゆらりと動いた。そのしろい首筋にうしろから顔を押しつけて、土門はふかく息をする。なんのにおいもしない。水底のまるい小石をゆっくりと踏んでいくような、鈍く不快ないたみがいがいがと意識をなでる。つめたい。そうささやくと、巻きつけた腕がすこしふるえた。土門の腕は影野をからめとる。網のように。
ときどき土門は自分がよつ足の動物であればいいのにと思う。そうして影野はさかなであればいいと思う。影野は生き物はすかないけれど、土門がけものであるときには影野はさかなだから、ふたりは絶対にまじわらない。昼はおろおろとあるき、夜になると池のそばで足をおりたたんでねむる。そのふかい底には影野がおともなく泳いでいて、水面にうつった月をうらやましいと土門は思いつづけるのだ。
土門。影野がしずかに土門を呼ぶ。おれはつめたい?うん、つめたい。そう。おれはやさしくない?うん、やさしくない。そう。土門はつつんだ影野の指に、自分のそれをそっとからめた。土門。うん。おれはないてるのかな。つよくにぎる指はつめたい。さかなのようにつめたい。その言葉が音もなく水底にしずみ、泡のようにさざなみのように、土門のからだをかけのぼる。それこそがかなしみだった。それこそが。土門はけものになりたかった。影野とおなじ水をのみ、さかなをとる鳥をとるけものに、土門はなりたかったのだ。腕にちからをこめて土門は影野を抱く。しろい腹をひからせて泳ぐ、それは確かにかなしみだった。






わたしがゆくまでだいてておくれ
土門と影野。
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