ヒヨル 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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感謝企画。
シャム様リクエスト、土門と影野。
リクエストありがとうございました。


続きに本文

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程度の問題っつうね。宍戸が部室のすみにしゃがみこんで、スパイクの歯の手入れをしていた。カッターシャツ越しに肩甲骨が翼の生えかけみたいに浮き上がり、しかもそれは夏になってからよりいっそう際立っているように栗松には思えた。くしゃくしゃにまくり上げたズボンから、ぽこんとくるぶしの骨が飛び出したしろい足首がつき出している。やー別にそれはいいよと栗松は苦笑しながらユニフォームを脱いだ。へそのすこし上あたりに、あかく歯が食い込んだあとが残っている。八つ当たりはよくねぇだろと宍戸が肩越しに振り向いて立ち上がった。やっと終わったーとぐりぐり首を回す、そのしぐさが疲れはてていていたいたしいなと栗松は思う。宍戸のうなじがまっかに焼けていて、たぶん自分もそうなんだろうなとうなじに手をやって後悔した。てのひらににじんだ汗がしみこんでひりつく。あーと吐き出した声にも、たぶん砂がまだ混じっている。
スパイクの歯のあとのことはもう覚えていない。真夏の容赦ない日差しに串刺しにされながら、かわいたグラウンドを蹴ってはしるその感覚だけがまだ血を揺らしている。夕焼けのまるで映画みたいなあかさの中にたたずんだ、それは孤独とはまた違うふうに鼻の奥をちりつかせた。蹴られた瞬間に空がぐるんと回って、強い光にかすんで褪せたようなその色が、ふるいフィルムを逆回転させたみたいに栗松の視界をまわっていった。まるきりセンチメンタル映画だ。結局ほとんど休憩も取らずに動き回っていたので、栗松は後半の部活でひどく足をつらせてしまった。水分不足だとえらく木野に叱られて、ごまかしわらいでまたはしった。染岡がなにか言いたそうな顔でそれを見ていたが、栗松はたぶんそれと向き合うことをのらりくらりとかわしていた、と思う。理由もわからないのに怒ったりすることは、栗松はしないでおこうともう決めてある。誰にも言わないけれど、もうずっと前に決めていた。
宍戸がひょいと手を伸ばして、あかく腫れたそこを撫でた。いたそー。なんでもなさそうに宍戸が言うので、栗松はちょっとわらう。そーでもないけど。あかい夕焼けが鉄格子みたいな窓からななめに差し込んで、栗松のからだをはんぶんだけ照らしている。浮いたまっすぐの鎖骨がさんかくの影を刻んで、日焼けに剥けたほほがふっと力をなくした。程度の問題だよな。宍戸のがりがりの指も日差しにあぶられて焼けている。それがゆっくりと栗松を離れて、だけど宍戸はそこに立ち尽くしたまま動かなかった。栗松はカッターシャツに袖をとおし、日焼けの境目をすっかり覆ってしまう。なんかいろんなとこがいてーよ。栗松の言葉に宍戸は再度指を伸ばした。砂ついてんよ。親指でまぶたをぬぐってやると、そこがさっき触れたあかい傷よりあつく腫れていたので驚いた。
あれはやりすぎだって思うわけ。栗松がなんでもないみたいな、いっそ投げやりな口調で問いかけるのを、宍戸は流すこともできずに半端にわらった。くたびれたカッターシャツの下で、ひきつれながら後悔を繰り返しているもののことを、たぶんそのときに宍戸は、理解しなければならなかった。もー帰るかと栗松はスポーツバッグを持ち上げた。駄菓子屋寄ってアイスくおーぜ。いーね。宍戸はにっとわらった。栗松の表情があまりにも傷ついていたことに、触れようか触れまいか一瞬迷って、そしてきびすを返した。手放したことを悔やむのはずっと先になるだろうなと思った。じゃんけんするー?金ねー。ガリガリならできるだろ。いやーやめとこーぜ友情にひび入りそう。言いながら宍戸が一瞬振り向くと、栗松が腕で目をぬぐっていた。あーよかったと、そのときにはじめて呼吸をしたような気がした。
あかい夕陽にくろい影がながながと伸びていた。あおくかすんだ空の残滓がすみの方に追いやられたセンチメンタル。逆回しにしたフィルムの中でもあのときのことは二度と語らない。程度の問題ではなくてならなにを理由にできたのだろう。孤独にたたずむその視線が、見て見ぬふりをするのでやさしかった。ボールをぶつけられてぼこぼこに蹴られながら、そのソックスの足首に跳ねた泥のあとばかり気にしていた。八つ当たりでもいいのだった。それが彼の正義なら構わないのだった。つらせた足がまだいたむ。ひっくり返った視界をスパイクの歯が埋めた。呼ぼうとした声が蒸発して消えてゆくのを、きみならかなしがったりするだろうか。地面に這いつくばった熱ばかりが夏だった。百万光年の血が宇宙を揺らした。なにもないなにもないなにもない。眼球を燃やす夏ばかり。







ドクトル・ルーベルチュール
栗松と宍戸。
ネットつながりましたーやほほい。
うれしくていろいろやりました。例のウイルスのチェックもいたしました。いまのところ問題はないようです。
地味に拍手にお礼文つけました。俺屍、ソラニン、夏でポン!、ピンポン、ヒャッコ、のパロディ五種類。短いのでお気軽に。
メッセンジャーのアドレス的なものも載せておきましたので、こちらもお気軽に。

いろんな場所にご挨拶に伺わないとーと思っているのですが、尻込みしてしまうチキンですみません。


突発絵チャありがとうございました。


続きで拍手とメルフォ返信です。
感謝企画。
びーこさんリクエスト、半田と一ノ瀬、木野夫婦。
リクエストありがとうございました。


続きに本文。
四月のころのはなしだ。
はじめて使う理科室で器具の説明を受けていたとき、ひとりの生徒が立ち上がって窓際へ行き、フラスコを伏せて並べていた木のラックを掴んで引き倒した。そこに背を向けて着席していた数名の生徒は口々に悲鳴をあげながらそこを離れ、当の本人だけが目障りな帽子のあたまを左右に動かしてなにかを探しながら、破片をぐしゃぐしゃに踏みつけて窓によじ登った。彼はそのままするんとベランダに出ていってしまい、呆気にとられた理科教師がようやく白衣をひるがえして彼を追うころには半田はすっかり冷めていた。不安そうな顔を見合わせる近くの連中にぼんやりと視線をすべらせながら、肩ごしに空っぽの座席を振り向いた。あれガイジかな。近くからひそひそと声がする。一年のときもあんな感じだったけど。あたまいかれてんな。おーいと半田はそっちを向いてにっとわらった。先生くるよ。彼らは気まずそうな顔をして口を閉じた。理科教師はすぐに手ぶらで戻ってきて授業をなにごともなかったかのように始めた。そのときに取り残された彼のペンケースと携帯を、半田が教室まで運んでやった。それだけのはなしだ。
目障りな帽子は松野という名前で、たまたま出席番号が前後だったというそれだけの理由で、やたらと半田は振り回された。松野がなにかするたびになぜか毎回半田が呼ばれ、退部のもめ事やら元カノとのいざこざなんか、間に入ってだいぶ片付けてやった。松野はいつでもおおきな目を見開いて、すこしでも興味があることがあればためらわずそちらへ行ってしまう。授業中でも関係なく、松野はお菓子と携帯を手放さない。望まないままに仲良くなってしまっただけでなく、半田はいやに松野になつかれた。そしていつの間にか、松野が教室を出るときに一緒に連れていかれるまでになった。まぁ嫌じゃねーけどさぁ。勝手に作った鍵で忍び込んだ屋上でPSPで狩りをしながら、半田はぼそりと問いかけた。おまえって、なに考えてんの。あーん?屋上に大の字にひっくり返ったまま、松野がうっとうしそうに半田をにらんだ。そのまま跳ね起きて、松野は半田のこめかみを思いきり突き飛ばした。うわっちょ、なにやってんだよ。松野はひゃっほーと奇声を上げながらフェンスに取りついて、ぐやぐやとなにかを歌い出す。もう意味わかんねーなと半田は電源を落とした。
松野は嫌なやつではない。いつでも真剣で、どんなふざけたことでも全力でやってのける。それが周りにはちょっとあれな感じに映るわけだが、半田は別にそれがどうとか思っているわけではない。よう半端。中身なんか入っていたためしのない通学かばんを振り回しながら(もちろんぶち当てられる)松野が寄ってくる。今日さー学校さぼんね。あーと半田はちょっと考えた。部活だ。ぶかつぅ?半端部活なんかやってたっけ。やってるよ一応。携帯を取り出して時間を確認しながら、いいよ、と半田は言った。さぼるか。じゃ電車乗るべ。目的地あんのかよ。ねぇ。なんでもいいけどはやく行かないと円堂がここを通る。もうどうでもいいことだったけれど。松野はかばんを肩にかけて、通学する生徒の群れを逆流していく。半田はそれに無言でついていった。円堂は通らない。松野の帽子のカラフルな耳垂れがぶらぶら揺れている。
下りの電車はラッシュのすき間で、へんに静かに疲弊していた。松野は七人掛けのまんなかに足を開いてどっかりとすわる。おまえなに部。サッカー。サッカーって廃部なりかけだろ。松野がひひっとわらった。ガスの音とともに扉はしまり、ながい虫のような電車はゆるゆると走り出す。おもしろいの。あーと半田は首をそらした。おもしろいっけ。おれさー野球もバスケもテニスもつまんねかったんだけど。松野はいろんな部活を転々として、そして行く先々でもめ事を起こして退部、をばかみたいに繰り返す。サッカーは全然興味ねえわ。あーそう。あれ怒んねぇの。松野がにやにやしながら半田の顔をのぞきこむが、半田はそれを無視して視線を虚空に投げた。部活欠席のメールはもう送っていた。返信が来ない。円堂つーのがキャプテンなんだよ。バンダナのやつだろ、知ってるよ。そらした後頭部が窓がらすに触れた。円堂があのとき通っていたら、今ごろ電車には乗っていなかった、と思う。あたまがまるく冷えて、だけどサッカーになんてうんざりしていたはずだった。とうに。
もうすぐ夏休みだねと松野はポケットからチュッパチャップスを取り出して包装をむいた。女連れて海いこーぜ。女ねぇ。おめーの彼女わりとかわいいじゃん。別におれはそういうのいいよ。海は行くだろ。めんどくせー。部活あるしって?あー部活はあるけど。半田はがりがりとあたまをかいた。夏休みなんか一生来ないような気がする。こんなところで足踏みしてるんだもんな、当たり前だよな。そんなことを考えながらちょっとわらうと、きめぇと松野が即座に言った。つかどこ行くんだよ。しらね、行けるとこまででいんじゃね。松野のしろい歯が飴をかみ砕く。サッカーになんてうんざりしていた。そのはずだった。おまえサッカーやってみれば。半田の言葉を松野は無視した。今びじつやってるって。いつの間にかその指がメールを打っている。半田の携帯に連絡は来ない。夏休みがいつまでも来ないのとおなじだろ、そう言ってくれ。
六月のころのはなしだ。






ハローミスタガスパール
半田と松野。
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