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あれはおかしくなってしまったのだ、とはチームメイトの言である。
確かに前から女という生き物を心から愛して敬い、何よりも貴ぶ男ではあったが(、そしてその割に、なぜか報われることがほとんどない男でもあった)、特定の個人にそこまで入れあげたことがかつてあったかと言われれば、首をかしげる。フェミニストな彼の愛は、女という生き物のすべてに注がれる普遍的なものであると、誰しも疑っていなかった。おなじチームで長くサッカーを共にした自分も、だ。
そもそも彼は騎士でありサッカープレイヤーである前に1人の男であるのだから、そのうちに特別な想いが芽生えたとしてもなんら不思議ではない。むしろ非常に自然な現象ですらある。それでも、何故、とチームの誰もが思う。彼の姿。1人の女に入れあげる1人の男であるエドガー・バルチナス。彼から某かが奪われたなどと野暮なことを言うわけではない。むしろ、こうと決めた相手には剣のようにまっすぐにひたむきに突き進む姿には、ただ1人の愛する者に剣を捧げる騎士のあるべき姿すら浮かぶようであった。騎士を称する彼をその場所に駆り立てたものが、ただ1人の異国の女だったことだけが、言葉には表すことができず拭いきることもできない奇妙な違和感となって、彼の周りに漂っている。妙に高揚している彼が、普段通りに振る舞うほど、その普段が浮いてしまう。騎士でありサッカープレイヤーである彼が、ふと綻んだ、と言えなくもない。ただ、今までの彼を知る者であれば、それは確かに違和感でしかなかったのだが。
勉強している、と彼は言った。彼女の国のこと、彼女の国の文化、彼女が愛しているものたちのこと。彼女にまた会うために。いいだろう、と彼は肩越しに笑った。レディが作ってくれたんだ。差し出された携帯電話の液晶画面には、どろりとしたソースがかかったパンケーキのようなものが映っている。今度これを食べに行こうと思っている。ああ、どうせならみんなで行こうか。あの国にはエンドウがいる。再びまみえるのも悪くはないだろう。右頬だけで笑って、彼は携帯電話を閉じる。騎士でありサッカープレイヤーである彼の笑み。それをそんなに会いたいのだろうか。彼女の国。彼女の文化。彼女が愛しているものたち。そして彼女。彼女に会うために変わってしまった、彼女を愛しているらしいエドガー・バルチナス。
(狂ってしまったのだろうか)
狂っていたというなら、それはこちらも同じだろうか。騎士でありサッカープレイヤーである自分たちは。誇り高く汚れを知らないはずの自分たちは。エドガー・バルチナスは。ただ1人の異国の女のために、それを捨てるというのだろうか。
(狂ってしまったのだろうか)
ふ、と微笑むと、その気配に気づいたのか彼はまた肩越しに振り向いた。どうした。どうもしない、と言う代わりに、彼のこめかみを軽く突っ放した。それならそれで構わないと思った。あれはおかしくなってしまったのではない。おかしくなってしまったのは、自分たち全てである。あの国には自分たちを負かした者たちがいる。あの国の、敗北の泥にまみれた自分たちは。










剣のひと
イギリスの彼ら。
リクエストありがとうございます!遅くなって申し訳ありません。エド→リカがとても好きです。
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遠くに行ってしまったような気がしてそれなのに払い戻される小銭がばらばらに帰ってくる程度の虚しさが感情の薄っぺらい場所をぬるぬると抉ったので寂しいよと呟いたらおまえは丸い目をますます丸くしておれを見る。ので。寂しいの?なんで?そんなことを言ったりもするので実はおれはおまえに期待なんかしてないんじゃないか、などと一献。遠くに行ってしまったようなおまえだったような今は。戻ってきたところでおれの1000円札が返ってくるわけではないんですので寂しいのです。寂しいのよおれは。でもそこまではいつも言い切れないし実はほんとに誰より寂しいのはおまえだっていうのはおれにだってわかってしまっているので、おれたちはふたり脚を並べて擦り付けあいながら寂しいね寂しいね、なんて、寂しいね。おれの目玉をぬるぬると抉った虚しさがおまえの指だったらもしかしたら許せたかもしれないよ、なんてさらに一献。期待なんかしてないんじゃないかなんて嘘。おれたちはいつでも寂しいサミシイ4本の脚。
でもおまえは寂しいなんて一度も言わなかったしそれだからおれたちはその言葉を信じて信じて信じるからねなんて言外にさりげなく添えながらおまえが強いことに心から感謝をしたりしたわけで、だっておまえが寂しいなんて言ったらおれは世界をむちゃくちゃに荒らして回るくらい悲しいしおまえが寂しいなんて言ったところでおれにもおれたちにもできることなんてなんにもなかったから、で。そしてそのことは誰よりおまえがよくわかっていたからおれたちの前では絶対にそういうことを言わなかったんだって今なら、わかる。おまえが折れてしまったらおれたちの今まではどこか遠く遠くの宇宙の果てのごみ箱にぐしゃぐしゃにして棄てられてしまって、なかったことになる、のをおまえは知っていたからきっとおれたちではなくておまえであのひとたちではなくおまえだったんだろう。おれはいつだって寂しいし悲しいから構わないけれどおまえが寂しいのは嫌だと思う。きっとみんなだってそう思ってたからなんにも言わなかったんだろう。たぶん。
だから今になっておれはおまえと脚を並べて寂しいよなんて言ってみるのにそれなのにおまえはなんにも言わない。おれだから、だろう。だろうな。たぶん。知らんけど。おまえは我慢するのが当たり前みたいになってるけどでもほんとにそれでいーの?ほんとに?っておれは言いたいわけでそんで叶うならば叶うならばおれの感情を抉った虚しさがおまえの柔らかい部分に取り返しのつかない傷をつける前にその場所に立ちはだかって手や足や腹や背中や使えるものはなんだって使っておまえを守りたい、と思う。ほんとはおまえだって寂しいはずで悲しいはずでおれたちの何倍か何十倍か何万倍かだって泣きたかった、はずで、おれたちは、、、おれは、おれのわがままで自己満足でおまえに一度だってそれをさせてあげられなかった、から。だから今になってもおれはおまえと脚を並べて寂しいよなんて言ってみるし、だからおまえは曖昧に笑って寂しいよとも悲しいよとも泣きたいよとも言ってくれない。その笑顔は実のところ静かにおれを責めて責めて破れるほど、で。
栗ちゃん。
栗ちゃんの細い足首で折れて曲がった骨は誰が治してくれるんだろうそのときに溢れたたくさんのたくさんの気持ちは誰が掬ってくれるんだろう。栗ちゃんがそれを飲み込んでしまったら誰がそのことに気づいてあげられるんだろう。おれの虚しさはその答えをどんどん吸い込んでドロドロに融かして真っ白に濁った愛情まで一直線でそれはどう足掻いても消えてくれない。栗ちゃんがそれを飲み込んでしまうまで。おれのわがままがきみを傷つけた、なんて、眠らない窓辺に花を並べて、そんな冗談でおれは曖昧に笑う栗ちゃんの腕をつかんで宇宙のごみ屑。嘘。それでも栗ちゃんはきっと泣いてくれない。
栗ちゃん。
おれは栗ちゃんになにかしてあげられたことはあっただろうか。これからなにかしてあげられることはあるだろうか。おれはわからない。栗ちゃんがいないからわからない。脚を並べて天井を見て、寂しいね寂しいね、なんて、寂しいよ。おれは寂しい。栗ちゃんがいないから寂しい。栗ちゃんが遠いから寂しい。栗ちゃんがなんにも言ってくれないから寂しい。おれがこれだけ寂しくて悲しくて泣きたいんだから栗ちゃんはその何倍も何十倍も何万倍も寂しくて悲しくて泣きたいに違いなくてそのことでまたおれは寂しくて悲しくて泣きたくなる。おれがだめたら、おれだからだめなら、誰にだっていい、から。寂しいって悲しいって泣きたいって、泣いて、ほしい。だっておれは。
栗ちゃん。
おれは
栗ちゃんが帰ってきてくれて嬉しいんだ。
寂しいね。



「ドイツ土産にきみがくれたビルケンのサンダルのタグはかわいいからまだ持っているんだ」






ばらばらの小銭にて、一献、一献、また一献。












シンパシーウィズアンコンディショナルラブ/トリスタンは夜会にてイゾルデと
アンケートにいろんなご意見、ご感想いただきましてまことにありがとうございます。
お礼が遅くなりまして大変申し訳ありませんでした。
皆さんからのコメント、大変嬉しかったです。とっても元気出ました!
女の子・ノマカプが好きと仰ってくださる方が多いのがまた嬉しくて。いいですよね、女子。
ご意見いただきましたキャラやシチュがあまりに魅力的で、端から順に書かせていただいています。
本当に本当にありがとうございます。
アンケートはもう少し置いておく予定ですので、なにかありましたら遠慮なくお聞かせください。

拍手もたくさんありがとうございます!
みんな飛べたら、案外平気な顔をしそうかなと思います。

そして新しくサーチサイト様を一件リンクにお迎えしております。
無印もGOも充実しております!管理者様に感謝感激。

つづきにて頂きましたコメントごとにお返事させて頂いています。
アンケートの性質上、どのコメントをどなたが書いてくださったのかがわからないため
お返事重複する場合があるかと思いますが、ご了承ください。
納得いかねえよ!という罵声だか怒声だかはもう数えるのもばからしいほど頻繁に発せられているので構わないことにした。まぁなぁ気持ちはわかるがなぁ、と、広い額に青筋を立てる辺見をなだめながらも、なぜ自分ばかりがこういう役回りなのかとばかり思ってしまう。構わないと決めたはずなのに、気づいたら自分ばかりがあのでこぱちをなだめている。割に合わないが、無視できない自分が悪いのだ。どうせ。奴らに言わせれば。ベッドに転がったまま音楽を聴いている鳴神と、ベッドに転がったまま特になにもしていない万丈に順番に視線をやったが、やはりどちらにも気づかれなかった。ジャンプを読んでいる咲山、恐らくはわけもなく窓辺にぬうと突っ立っている五条、ベッドに窮屈げに座る大野とその膝にもたれた洞面、松葉杖の源田と佐久間がようよう部屋にやって来て、さらにそれを見ている寺門とで、いつもの、まぁいつもよりは多少いろいろ足りないが、いつもの帝国サッカー部になる。ただしよれよれで満身創痍の。
辺見の憤りは最もだったし、ある意味ではそれはこの病室にうらなる面々の総意でもあった。腹立たしいことに。しかし、彼らをこんな目に合わせた世宇子に対してだか、鬼道がまるで帝国を見限るように去ったことだか、そんな鬼道を受け入れた雷門だか、またその雷門が(あんな弱小校が!)のほほんと快進撃を続けていることだか、に、無差別に投げつけられる単なる苛立ちには辟易していることも事実であった。ただでさえ気の滅入る入院生活だ。先日見舞いだか冷やかしだかに来た雷門イレブンと言い争いになり、見舞いの果物を派手に投げ合ってからはそもそも誰も見舞いすら来ない。誰に対してだかますます声を張り上げる辺見に、腹筋の力だけで起き上がった鳴神がヘッドホンを投げつけ、うるせえ!と一喝する。掴み合いの心配をしなくていいのが唯一の慰めだ。辺見も鳴神も点滴やギプスで固定されてベッドから動けない。みんなうんざりした顔でそれを見ている、と思ったら見ているのは自分だけだった。途方に暮れた気持ちで、寺門はため息をつく。
まぁでもおれたちがなにをできるわけでもないからなぁ、と、洞面の頭を撫でながら(、そして嫌がられて避けられながら)、大野がのんびりと言う。鬼道が決めたことならいいだろ。万丈が寝返りを打って肘を枕に目を閉じる。なに言ったって負け犬の遠吠えだ、おれらは。ヘッドホンをぶち当てられた額を撫でながら、辺見はでもよぉ、と言いかけ、言いかけたまま反論は止まる。辺見だって言いたくて言っていたわけではないのだろう。たぶん。恐らく。誰もそれと言わないから、辺見が言うしかなかった、のかもしれない。かなり贔屓目に見て。ちらりと源田を見たら、五条の横に立って洟をかんでいた。予想以上に出すぎたのか、ティッシュと鼻の間につうっと引いた糸に真顔で焦っている。きたねえな、と咲山が噎せるように笑うのが見えた。今回の事態をキーパーの源田が一番重く見ているのではないだろうか、もしかしたら気に病んでいるかも、という杞憂があたまの中で崩れ去る。やはりどうにも、割には合わない。
鬼道はもう帰ってこないかもな。佐久間が唐突に言った。その言葉も唐突なら、沈黙もまた唐突だった。なんでだよ。かすれた声で辺見が問う。今勝ってるから。佐久間は眼帯の上から右目を掻きながら、左目をまたたく。血の引いたように黙る一同を見回して、佐久間はズズッと洟をすする。風邪か?大野の言葉に佐久間はそうかもしれないと二度頷く。ふと源田に視線を送ると源田はまたティッシュを抜いて鼻に当てていた。まばたきをして、それでもいいよ、と、言った言葉が自分の口から出たことに寺門は一瞬気づかなかった。なにを言ったっておれたちは。それでも続けようとした言葉はやはり途中で折れ、しかしその隙間には源田が鼻をかむズビーという音が滑り込んだ。ああ、風邪だ。たぶん。間の抜けたようなその言葉には佐久間だけが反応した。腹出して寝てたからだ。おれもだけど。そのやり取りに、怒声も反論もなにもかも削がれたらしい辺見が、振り上げかけた手でベッドの脇に置いてあったティッシュの箱を差し出した。なんとも言えない顔で。
その顔がおかしくて思わず苦笑したが、それはあまりにもうまく噛み潰せてしまったためにくしゃみのように聞こえた。おまえもか、とこちらを向く万丈に軽く手を振る。大丈夫だ。寺門は目を伏せて少し笑う。世宇子に叩きのめされたあの試合、焼け野原のようなグラウンドをベンチから一人呆然と眺めていた鬼道の顔を思い出す。鬼道のことだ。どうせなら一緒に叩きのめされたかった、くらいは思ったかもしれない。でも、それは言わなかった。先に鬼道を一人にしたのは自分たちだった。一緒に、は、叶わなかったのだ。鬼道も共に傷つくことなど誰一人望みはしなかったが、それでも。一緒にいてやることもできなかった。仲間なのに。仲間だったのに。鬼道は一人になってしまった。なにを言ったっておれたちは、鬼道を止めることなんてできはしない、と。源田がぼんやりと宙を見て、ああ、と言った。五条が隣で頷く。見透かされたようなそのタイミングで、むしろ見透かされていたい、と思った。どうせなら、振り向かずに行けばいい。戻らなくたって構わない。風邪を引いていなければそれでいいと、みんなだってきっと言うだろう。









されどなれは旅人
帝国学園。
リクエストありがとうございました!他校だけで一本書いたのは初めてです。
タイトルは三好達治「なれは旅人」より。この詩は鬼道さんのようです。
じゃあこっちから来たらどうする、と、聞こえたので足を止めた。ゴール前でむくむくとしゃがんだ背中がふたつ。狩谷と西園が地面を覗いて顔を突き合わせている。狩谷の手にはどこで拾ったやら細い木の枝が握られていて、しきりに地面を引っ掻いていた。それと悟られないように距離を保ち、いかにも何でもないように装いながら耳だけはしっかりと傾ける。うーん、と唸り、西園はわずかからだを動かした。こっちから、こう。こう、のときに手振りが入る。そんじゃあこう、こう来られてさ。狩谷ががりがりと地面を掻く。あーそっかー。西園の肩が落胆する。どうやらゴールの守り方を話し合っているらしい。小柄でリーチも短い西園が、広いゴールを守るにはかなりの練習が必要になると踏んでいた。短期間で化身を使えるほどに目覚ましい成長をした西園だが、それでもボールが来たときに反射的に取る動作は走ることだ。狩谷に指摘されるまで両手を使ってもよいことに気づかないほど、西園は一途でひたむきで、だからこそキーパーに向いている。
円堂監督は多くを語らないが、同じキーパーのよしみだと中学時代の話をしてくれたことが一度だけある。おれらのいっこ下のキーパーも信助みたいなちびだった、という話で、あれもすんげー努力家だったよ、と、さして懐かしむ様子もなく言った監督の顔を、西園はつぶらな目でじっと見ていた。そのひとは化身は使えましたか?ようようひねり出したその質問に少し考え込んだ監督は、ありゃ化身なのか?と結局隣にいた音無先生に振った。たまごろうくんですか?マジン・ザ・ハンドにはほんとに助けられましたよ、と快活に言った先生は、タイタニアスがあの技を使えるならあれも化身だったのかしら?と首をかしげた。まぁおれらの頃は化身って言葉自体がなかったからなとやけに強引に話を切り上げた監督が、先生と懐かしげに誰それの話をするのを西園はじっと眺めていた。化身なんて言葉は今だって都市伝説だ。化身使いのチームメイトができた今も。望んで手に入れられるものでないなら、それはないものと同じだ、と思う。
キーパーの強みは、諦めないことでも、がむしゃらなことでもない。それらは資質と呼ばれる。あるいは、才能なんて便利な言葉で。本当に強いキーパーの条件は、いつでも涼やかに笑っていられることだ。ゴールを割られ、チームメイトの不安な視線を受けて、なお、前を向いて笑えるものの天職だ、と。昔教わったことを今でも信じていて、誰に語ったこともなかったが、一度だけ何気なく円堂監督にそう言ったことがある。いっこ下のキーパーの話、の、お礼のつもりで。監督はしばらく考え込んだあと、独り言のように言った。たまごろうはな、キーパーが孤独ってことをよく知ってたよ。だから強かった。本当に、あいつは強かった。どういうことかと訊ねたら、おれもよくわからないと肩をすくめる。おれも才能の方にいたから。おまえには悪いけど。ああ、と思う。おれの下に立向居っつうのもいたけど、あれの言葉がわかったんなら西園もそっちだろうよ。言われる前に理解したので頷いた。才能なんて便利な言葉で、あっさり分けられた自覚だってあった。
持たないものを持たないと足掻くことを孤独と呼ぶなら、果たしてそのまま埋もれゆく自分はなにになるのだろう。輝く原石のような西園を見たときの、この上ない安堵と喜びは、それとは違うのだろうか、と思う。持たないならば、持たないまま戦うしかないではないか。持たないままで、割られたゴールを背に、安心しろと笑う自分が、どれほど滑稽に見えても。それを乗り越えて、その上で、越えられない壁に潰れることを孤独と呼ぶなら。それでも構わないと思った。悔しさは、些細なことだ。天城だって言った。現実だから戦うのだと。だから、自分は見送る側でいい。自分が越えられなかった壁を、西園が綺羅やかに越えてゆくのを。黙って見送れたら構わない。涙なんてものがあるなら、それは、そのあとのものだ。おまえはたまごろうに似てるな。監督は不意に言葉を和らげた。あいつの近くにいるとな、雨も風も雪も、なんにも近づかないみたいだったよ。その言葉には、笑っていいのかどうかはわからなかったが。
とりあえずやってみようと狩谷が尻をはたいて立ち上がる。そばのボールをつま先で蹴上げ、片手に抱えて走っていった。西園も同じように立ち上がってゴールに向かい、そのときに初めてこちらに気づいてぱっと明るい顔になる。三国さん!にこりと笑って西園に軽く片手を振り、ラインの外に出た。西園はこちらに向けて大きく両手を振り(、つられたのか狩谷も手を振った)、グラウンドに向かって身構える。西園にはわからないかもしれない、と思った。才能なんて便利な言葉で、こんなにも簡単に人は傷つくのだと。同時に、自分にもわからないに違いない、と思う。才能なんて便利な言葉で、こんなにも簡単に人は期待を寄せてしまう。狩谷のボールは速くて正確だ。蹴転がされてばかりの西園だったが、ふとからだを翻し、力強く地面を蹴った。彼が、跳べ、と思ったのと全く同時に。ボールを弾き返した西園が満面の笑顔でこちらを向くので、両手で大きくマルを作る。嬉しそうにガッツポーズをする西園を、眩しい、と思った。西へ翳る太陽は炎のように燃え上がる。もう戦わなくていいのだと、涙を熱く乾かすように。煽り立てるように。








太陽、西へ西へ
三国。
リクエストありがとうございました!三国さんかっこよすぎて弱ります。
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無印雷門4番と一年生がすき。マイナー愛。

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