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女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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「もしも明日世界が終わるとしたら」

おまえなにする。松野がばかみたいに真剣な顔でそんなことを聞くので、影野は少々面食らいながら、なにもしない、と言った。まじで?明日世界終わるんだぞ。みんな死んじまって日本沈没すんのになんもしねーの?ばかじゃねーの。バカゲノ!そう言って松野はぱかんと影野のあたまをひとつはたく。終わるの。終わるよ。絶対?絶対!じゃあなおさらなにもしない、と思ってそれを口に出すと、松野はあからさまな侮蔑の表情を浮かべて影野をにらんだ。てめー脳みそ入ってねえのかよ!入ってるけど、とためらいがちに言ったらひざの後ろを蹴られた。真面目に考えろよと松野はがあがあ怒鳴るし、真面目に考えた結果がこれだよとはどうにも言いづらいので影野はあたまをひねって必死に考える。松野はおおきな目をぎろぎろさせて影野をじっと見据えていて、まるでおもしろいことを言わなきゃ殴ると言わんばかりだ。実際そのとおりなのだろうが。
早くしゃべり出さないと松野がまた蹴ってきそうだったので、影野は考えながら口を開く。明日世界が終わるとしたら。おう。まず、おれは普通に朝起きて朝飯をくって学校に行く。げーまじで?さぼれよそこは。明日平日だろ。つまんねーなおまえ。つまんねーつまんねーと繰り返す松野を無視して影野は続ける。学校に行くと、まぁ休んでるやつもいるかな。だろうな。だから日直とか掃除当番とか、おれが代わるよ。うわぁと松野はなんとも言えない表情を浮かべた。提出物とか、おれが集めるし、黒板も消す。なんかもうそこまでいくと逆にきめえな。きめえしうぜえ。松野の言葉にうんと影野はうなづき、それから、と言葉を探すように宙を見る。昼飯は、音無か木野か夏未さんとたべようかな。ぶはっと松野は下品に吹き出し、次の瞬間には腹を抱えてげらげらわらいだす。通学路を学校に向けて同じように遡っていく学ランの生徒が、ぎょっとしたように爆笑する松野を見た。
ひーひーと横隔膜を引きつらせるようにわらい続ける松野を影野は困ったように見た。そんなに変か。変つーか、おま、まじ、きもっゲホッゴホッ。噎せるなよ、と内心思いながら、影野は涙を拭う松野の背中を軽くさすってやる。わらいすぎて苦しそうな息の隙間に、きめぇきめぇというかすれた声が聞こえた。失礼なやつだ。あーもーいきなりへんなこと言うんじゃねーよ。松野ははらいてーと影野のマフラーで顔を拭った。ちょっと。うんうん。木野かやかましか夏未と飯くうんだな。うまいだろーな。そんでなに話すのと松野は顔を拭ったマフラーをびよびよ伸ばしながら訪ねる。その口調が小ばかにした感じの、なんていうか、はいはい、みたいな感じだったので今さら冗談だとも言えなくなって影野はまた考える。そうだな。告白でもしようかな。そう言ったとたんに思いっきりふとももの後ろを蹴られた。痛い。うるせーぼけ!うぜーんだよ!まったく理不尽だ。じゃあ、しないよ、と言ったらまた蹴られた。男ならいっぺん口に出したこと簡単にテッカイすんじゃねーよ!あほ!松野がどうして怒っているのか影野にはわからない。うん、と曖昧にうなづくとまた蹴られた。
松野はぶつぶつときめぇうぜぇを繰り返している。こういうときは放っておくに限ると影野は前を向いた、とたんにマフラーが引かれる。続きは。もう考えてないよと正直に影野は言い、あとは帰って家族とめしくって寝るよ、と続けた。寝てる間に世界が終われば楽だ。松野はにやっとわらって、ほんとおまえってつまんねーな、と面白がるみたいに言った。しゃーねーからおれがおまえの最後の一日のスケジュール組んでやるよ。え、別に。まず最初は学校に行く前におれのこと迎えに行く。松野の家学校と逆方向じゃ。また蹴られる。そんで学校着いたらおれと屋上でモンハンやって、昼飯はおれとくう。松野は指を折りながら楽しそうに続ける。そんで放課後はおれと部活やってぼこぼこになって、それから雷雷軒でおれにチャーシュー麺おごってゲーセン行っておれにおごって。おごってばっかりだな。だから貯金はしっかりしとけよ。平然と松野は言って、そして振り向いてにたりとわらった。
松野の帽子の耳たれが、影野のすこし前でぶらぶら垂れて揺れている。世界の終わりってさ、隕石なんだって。だから最後は河川敷で見てようぜ。たぶんすげーあかくてすげーと思う。松野は語彙がすくなくて、だから影野にはうまく伝わらなくて、だけど伝わらなくても言いたいことを力ずくで伝えてしまうのが松野だったから、影野はいつでもその言葉の力強さに呑まれてしまう。松野の口調は、まるで明日ほんとうに世界が終わってしまうみたいだった。世界が終わるその瞬間を、明日の夜にはふたりで見ているような、そんな奇妙な感覚が通学路を揺らめかせる。月の裏側の花畑。静かの海。オリンポス火山。オリオン。プロキオン。ペテルギウス。星々の大海。世界が終わってしまったら、おれたちはどこへゆくのだろう。一緒だろ。松野は言った。ずっと一緒だろ。振り向きもせずに、乱暴に、それが当たり前みたいに、松野は言った。
おーはよーという気だるい挨拶に、影野は現実に引き戻される。カラフルなループ糸のマフラーを巻きつけた半田が、イヤホンを外しながら近づいてくる。鼻のあたまがあかい。うぇーーーと奇声を上げながら、松野が思いきり半田に向かって体当たりをした。いってえ。朝からなにすんだてめー。今はやりの挨拶。うそついてんなよ!絡みつく松野を突っ放しながら半田が寄ってくる。うす。おはよう。影野はちょっとわらって、迷惑そうな顔をしている半田にまとわりつく松野の肩をそっとさわった。朝から一緒にいるとかめずらしー。半田がほんとに意外そうに、影野と松野を順番に見る。明日世界が終わるとしたらどーすんのってはなししてたんだよ。影野の言葉を遮るように松野が言う。ふーんと半田はいかにも興味なさそうな顔をして、つまんねーことはなしてんだな、とへんな顔をした。そんでなにすんだ。影野は告白とかするんだってさ。うげーまじで?にあわねー!やめとけやめとけ。半田の言葉に松野がぎゃはははとわらう。
松野はどうするんだと半田が聞くと、あ?おれはなんもしねーよと松野はいいかげんに答えた。なんだそりゃ。黙ったまま松野を見たら松野がにやにやわらいながら影野を見上げてくる。なんだよ。そのおおきな目の中から隕石が落ちてくる。なんでもないよと影野は前を向いた。いつか世界は終わるだろう。それが手の届かない未来でも、たとえば明日の夜だったとしても、影野にはかまわなかった。理由なんかない。ただ、力ずくでこじ開けられた隣が熱をもってひりついているだけだった。いつか世界は終わるだろう。まっかに燃える隕石が、ふたりの影をかき消しながら。







ワールドエンド
影野と松野
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不動さんの空回りっぷりを楽しむ回。
雨の音がする。壁山はふと目を開けて、ぽっかりと眠りに沈むキャラバンを見回した。自分の左右に寄りかかって眠っている木暮と目金をそうっと支えながら座席を降り、ふたりを静かに横たえてやってから抜き足差し足で出入り口に向かう。ごろごろと座席に横たわったりシートにもたれたりしているさなぎのような一同に、不思議とほほえましいような気持ちが込み上げてきた。よだれを垂らして寝ている円堂の口元を、起こさないようにそっとジャージの袖で拭う。キャラバンを降りると雨なんかちっとも降っていなくて、女子専用のテントが月光を浴びてつつましくうずくまっているばかりだ。澄みきった空気に星が降るほど輝いている、名もない山の静かな夜。ゆっくりと息を吸うと、肺が引き締められるのと同時にやわらかな水の香りがした。遠くからしんしんとせせらぎの音がする。無風の山はそれ自体が眠りに落ちているようで、壁山はそのひそやかな空白にあたまの先まで満たされる。
ぐるりと車体を回り込むとそこには栗松がいて、携帯を片手にうろうろと歩き回っていた。栗松。小声で名前を呼ぶと栗松はびくんとからだをこわばらせ、あからさまに怯えた顔をして肩ごしに振り返った。下から携帯のライトに照らされているせいで、ひどく顔色がわるいように見える。なんだ。壁山をみとめると栗松は顔からもからだからもぐにゃんと力を抜き、脅かすなよーとへなへなの声でささやいた。なにしてんの。やー電波をね、探してて。栗松の手元を覗き込むと、ディスプレイのアンテナ部分には圏外の文字が表示されている。山ん中だからね。栗松は携帯を無意味に振りながら、あーやっぱだめだなーと下くちびるをつき出す。急用?そういうわけじゃないけど。ぱちんと携帯を閉じてジャージのポケットにしまい、栗松は両手を手持ちぶさたに組み合わせる。連絡したいなーって。ああ。壁山はなんとなく察してそこから先を言うのをやめた。
つい先日、稲妻町に戻ったときに、壁山は栗松と入院している一同を見舞いに行った。少林寺も宍戸もベッドで時間を潰すだけの単調な日々に倦みきっていて、ふたりの訪問を恐縮するほど喜んでくれた。コージーコーナーのシュークリームは差し出したとたんに松野と半田に奪われ、次はメロンを持ってこいと三回くらい言われた。いろんなことをしゃべったし、キャラバンの中では考えられないほどわらった。それなのにあれ以来、栗松は妙に元気がない。里心でもついたのなら壁山も仕方がないと思うが(自分だってもちろんさびしいのだ。両親やサクに会いたいし、母の作ったカレーを腹いっぱいたべたい)、栗松は変に頑固なところがあるので、なんでもかんでも我慢してしまう。せめて自分にはなにか言ってくれてもいいのにと思いながら、壁山はそっと栗松を伺った。もう戻ろう。おずおずと言うと、栗松はぱっと顔をあげる。うん。その表情が思ってもみないことを言われたみたいにこわばっていた。
壁山くん壁山くん壁山くん。目金が壁山の広い背中をぱちぱちと叩きながら早口で言い募る。栗松くんが最近元気ないんですけど、壁山くんなにか知ってますか。知らないっすねぇとなるたけやんわりと聞こえるように、壁山は心を砕いて返事をする。そんなこと自分だってわかっている。そうですかぁと目金は落胆したように肩を落とし、せっかく高個体値パーティー組んだから相手してほしいんですけどねぇと言った。壁山くんからも頼んでくれませんか。うなづく壁山の視界の端で栗松と土門がなにかしゃべっている。ふたりとも背中を向けているが、たぶんなにか冗談みたいなことを言い合っているのだろう、あかるいわらい声が聞こえてくる。今ならだいじょぶじゃないっすかねぇ。あっほんとだ。目金はぱっと顔を輝かせ、栗松くーんとふたりの間に割って入った。ちらりと見えた栗松はいつも通りに見えた。だけど片手をジャージのぽけっとに入れっぱなしにしている。壁山は知っている。そこには鳴りっぱなしの携帯が入っているのだ。
雨の音がする。壁山はあれからときどき雨の音に目をさます。だけど目を開けても見えるのはキャラバンに射し込むやわらかな月光ばかりで、雨が降っていたためしは一度もなかった。そういう日は必ずななめ前のシートに栗松は起きていて、携帯のディスプレイをうつろな目をして眺めている。無機質なしろい光に栗松のおばけみたいな影が天井を横切り、そのぞっとするほど寂しいことに壁山はいつだっておののいた。ぐにゃりと影が歪む。栗松はあたまを抱えるようにして、嗚咽をこらえている。壁山に術はない。雨の音が鼓膜を打つ。ぱらぱらとばらばらと。しろい光がふつりと消えた。壁山。栗松は絞り出すようにささやく。おれはまだここにいていいかな。いいよ。間髪入れずに壁山は答えた。いてくれよ。おれを置いてどこに行くんだよ。栗松はがくんとうなだれ、悲壮な声でごめんと言った。謝ってなんかほしくはなかったのに。
結局、栗松は病んで去り、壁山は残された。壁山は諾諾と流されていくだけで、たぶん、だからいけなかったのか、と考える。あのときも、あのときも、いつだって何度だってチャンスはあったはずだ。自分にできることならなんだってしてあげたかったし、どんなことだって受け止めるつもりでいた。かと言ってそれを口に出すことをしなかった自分が、なにもできなかった自分が、ただ見送ってしまった自分が、いけなかったのだ。自分が彼らを追いつめたのだ。あんなふうに飢えてしまうまで。あの日も雨が降っていた。音だけの幻想の雨がいつまでもいつまでも降っていた。
あの日、円堂よりもずっと壁山は憤っていた。ずっとずっと怒っていた。病んだけもののような彼らを、そうなるように見逃してしまったのは自分だったのだから。天国への扉は閉じ、悪夢のような現実が始まる。空洞のようなまなこをして、彼らは高らかにわらうだろう。目を凝らし、息をして、壁山はそのときを迎えるのだ。ほころびていく意識の中で、壁山は怒りのままに友人たちを蹂躙してゆく。断末魔を拾い集め、彼らのうつろな目に空を映すまで、壁山はその手を止めることはない。できることならなんでもする。後悔だってちゃんとさせてやる。あの日壁山の神は死んだ。だから代わりにやらねばならない。代わりに与えなければならない。当たり前に積み上げてきた今までのすべては、もう二度と戻ることはないのだと。
雨の音がする。雨の音が鳴りやまない。雨の音がする。雨の音が消えない。







バイバイヘブンズドアー
DE戦壁山。
リクエストありがとうございました!DE戦に至るまで、がメインになってしまいましたが、壁山は実はDEメンバーに対して一番怒っていたんじゃないかなーと思います。
監督の黒歴史武勇デンデンデデンデン。
もらいもののキャメルのマフラーをぐるぐると巻いて自転車にまたがる。ハンドルのゴムがぱきぱきに冷えていて、思わず手を離すと指のかたちが残っていた。ふわっと吐息が鼻先を渦巻く。チェーンをきしませながらぐっとペダルを踏み出すと、風がかみそりのように肌を舐めた。それと同時に、刺すようにいたむ指にはっとする。あー、あー手袋、あー。忘れ物を置き去りに、家はどんどん遠ざかっていく。まあいいかと影野はペダルを踏む足に力をこめた。冬景色の住宅街がどんどん流されていく。駅までは自転車で二十分くらいかかる。ブレーキがききっとかん高い音でスポークを噛んだ。もうだいぶ手入れしていない。油差さなきゃと考え、ああまぁもういいのか、と影野はすぐに思い直す。一人暮らしの家に、自転車は持っていかないつもりだった。
大通りをわしわしと漕いでいくと、道の傍らをひょこひょことゆるい足取りで歩いていく背中が見えた。一度ざあっとその横を通りすぎ、影野はブレーキをぎっと握った。宍戸がおおげさにからだを傾け、かくかくと右手を振る。あー先輩、ひさしぶりー。うん、と影野は自転車から降りて宍戸が追いついてくるのを待った。宍戸はノーカラーの濃いグレイのジャケットにスーツ素材のサルエルパンツを履き、絵の具だらけのリュックを背負ってなぜか女物のパンプスを無理やりつっかけている。相変わらずがりがりに痩せたひとつ年下の後輩は、別段急ぐでもなくのんびりと影野の隣に並んだ。むき出しの首が寒そうだ。ひさしぶり。影野は自転車を押して歩き始める。いつぶりっすか。あー、と影野はながく声を伸ばした。思い出せないな。宍戸がおれもっすとわらう。
あかるい赤毛を指先でねじりながら、おでかけっすか、と宍戸が訊ねる。うん。影野は宍戸のリュックを半ば無理やり受け取って荷台に乗せてから、ちょっとわらって答える。教習所。あーと宍戸は納得したようにうなづく。合格おめでとうございます。ありがとう。大学生かーいいなー。いいかな。いいっすよ。宍戸はかるく左右に首を揺らすようにしながら言った。一人暮らしとかしてー。そう手放して羨ましがられると面映ゆい。宍戸はまだ絵やってるの。宍戸はうすいくちびるをわらわせる。やってますよー。ふうん。自分から振っておいてうまく会話を続けられず、影野はちょっと焦って言葉を探す。今日は、どこか行くの。先輩が吉祥寺で個展やってんで、それ観に。いいね。つまんないすよーあのひと難しいから。あっけらかんとわらう宍戸の横顔が、記憶にあるよりもずっと大人びてほがらかなことになぜか影野は戸惑った。意味もなく。
荷台に乗せたリュックはずしりと重い。これ、なに入ってるの。あーまーいろいろ。宍戸は照れくさそうにわらう。画材とか椅子とか入ってます。いつでも描けるように。へえ、と影野は感心したようにリュックを撫でる。趣味があるっていいね。先輩、無趣味っすか。うん。もったいねーなー。なんかないんすか。影野はゆっくりと首を横に振った。ながい髪の毛がざわざわと揺れる。高校行ったら、なにか見つかるかと思ったんだけどね。へーえと宍戸は感嘆とも侮蔑ともつかない調子でぽつりとあいづちを打つ。なんだかへんな空気になってしまい、影野があわてて言葉を探している、そのすき間に宍戸が奇妙にあかるい調子で言葉をすべりこませた。まーひとっつうのはそうそう変わらないっすよ。先輩がむっちゃアクティブになって毎週合コンとかやりまくってたら、おれはむしろそっちのが引きます。ひひっとわらう宍戸に影野もつられてわらった。
飄々としながら、さらに達観してしまったような宍戸の口調が影野には落ち着く。あのころ宍戸は、こんなふうではなかった。あかるいふりをしながらいつも鬱屈とした、無気力な掴み所のない少年だった。ほんとはね。宍戸が言う。おれたち、あのころもこういうはなしをするべきだったんすよ。あのころ。うん、あのころ。宍戸は首筋にてのひらを当てる。あのころ、おれたちにはサッカーしかなくて、サッカーしかしてこなかったでしょ。思っていたことをずばり言い当てられ、影野ははっとする。あのころおれら、サッカーのことしかはなさなかったから。だから今なんにも思い出すことがないんだと思います。あのころ。影野にサッカーしかなかったころ。あのころ自分はなにを追っていたのだろう。あのころ、宍戸とどんなはなしをしていただろう。影野はちっとも変わっていない。がりがりに痩せたいびつな脚で、飄々と進んでいく宍戸とは違って。
宍戸は歩きながらそっと胸の前で手を組んだ。祈るように。そこに視線を落としながら、宍戸は奇妙に厳粛につぶやく。世界に受け入れてもらうんじゃない。あなたがこの世界を、受け入れるかどうかなの。影野は宍戸の横顔を見る。宍戸はぱっと顔をあげ、なんつってー、とにやりとわらった。つうわけで先輩、美人女子大生との合コンセッティングしてくださいよ。ええ、おれ合コン行ったことないよ。えー先輩彼女とかいなかったんすか。いない。もったいねー!宍戸はいるの。あーーーまぁそこは聞かない感じで。なんだよ。うぇっへっへっと宍戸はわらい、影野の肩に自分の肩をぶつける。ね。え。こういうの、楽しいっしょ。影野は言葉につまる。あのころもきっと、おれらはこーやってくだらねーことはなして、いっぱいわらったり、するべきだったんすよ。
駅の駐輪場に向かう影野の荷台からリュックを受け取り、宍戸は華奢な背中に背負う。ありがとうございました。そう言って手を振り、宍戸はさっさと背中を向けた。宍戸。思わずその背を呼び止めた、自分の言葉に影野は誰よりも驚いていた。なんすかぁ。宍戸は振り向く。あのころよりもずっと大人びてほがらかな顔で。また会えるかな。影野の言葉に、宍戸はこともなげに言った。会えますよ。会いましょうよ。影野は髪の毛の下で目をほそめる。あのころ自分たちは、どんなはなしをしていればよかったのだろう。今からどんなはなしをすれば、あのころを取り戻せるのだろう。そいじゃあまたーと手を振って、今度こそ宍戸は行ってしまう。なんでもないものをたくさん詰めこんだリュックをがちゃがちゃと揺らして。なにか他のものを探すでもいい。合コン、してみてもいい。美人女子大生に声をかける自分は、確かにあのころからは遠く遠くかけ離れていることだろう。今度きみに会ったら、どんな言葉ではなしをしよう。きみとはなしたこの日を、次は忘れないでおこう。
影野はそっと手を組んだ。うらうらと差す日が耳をあたためる。あのころの自分は、なんでもない日々にばかり傷ついていたような気がする。そしてただそれを、不幸だと思っていた。「あなたがこの世界を、受け入れるかどうかなの」受け入れれば世界はどんなふうに変わり、どんなふうに回るのだろう。大人びたほがらかな顔でわらえるなんでもない日が、いつか自分にも舞い降りるといい。そんなことを考えている。







なんでもないようなことが素晴らしかったと思いませんか
影野と宍戸のなんでもない日。
リクエストありがとうございました!勝手に未来パラレルにしちゃってすみません。本当の距離感をつかめるのが、このふたりの場合はすこし遅いといいなぁ、と思っています。
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無印雷門4番と一年生がすき。マイナー愛。

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