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女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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宍戸はくちびるをへの字に曲げて、あからさまに嫌そうな顔をした。それ聞いて意味あるんすか。ないなぁ、と影野はその隣でひとりごとのようにぽつりとこぼす。じゃあ言わね。木の棒をつまむ指先に、だらりとうすあおく甘ったるいソーダが流れてくる。影野は冬にたべるアイスクリームがすきだ。その自虐的なつめたさ。噛み取っていく歯の根っこがさむい。宍戸はアイスをくわえたまま、寒そうに自分のからだを抱くように縮こまっている。そのあごから首筋にかけてのやあらかなひふが青ざめていた。冬のアイスクリームと宍戸は似ているな、と思いながら影野はまた爛れたような曇り空に目をやった。星のない冬の夜、自虐的なつめたさ。
本当は姉と半分ずつたべようかと思って買ったものだ。まん中からぱきんと割れる、うすあおい120円のふたごアイス。今日はなんだか姉のすきな映画をロードショーでやると言っていて、その時分にはどうせ手持ちぶさたに腹をすかせるとわかっていた。姉も影野とおなじく冬にたべるアイスクリームがすきで、それは姉が産まれるころ、さむいさむい冬の夜には、母がアイスクリームばかりをたべていたせいだと姉は信じている。不健康で不景気な顔をした女の店員がばたばたっとレジを打つ、その指先のパールピンクのマニキュアが剥がれかけていた。コンビニの窓は曇っている。アイスを受け取って自動じゃない扉を押し開けると、さあっと寄せる寒気に目がうるんだ。冬の夜にはなき虫でぇ、というのは、姉がときどき口ずさむ出典不明のひと節だ。まぶたに髪がはりつく。
さむいからさっさと帰ろうと思っていたのに、ふと影野は足を止めた。狭い駐輪場の片隅、錆びだらけの空き缶が雑草に埋もれかけたそんな場所に、宍戸がぽつんとうなだれている。こちらに背を向けて、わずかにからだをかしがせて、片手でうなじを押さえながら。影野はしばらくその背中を眺めた。痩せた背中では、ときどき風に吹かれた学ランが波打つ。歩み寄ってそっとその肩にてのひらを置いたとき、びくりと振り向いた宍戸の顔がどことなく引きつっていたのは気のせいではない。影野もおなじくらい驚愕していた。なにしてるの。それっぽっちの声ががさがさにかすれる。宍戸は一瞬影野の背後を伺うようにして、別に、と小声で言った。そこに他の誰かがいたのなら、宍戸はきっと快活にわらって、なんでもないっすよー、なんて、言ってのけただろう。影野は意味もなくほほえみ、かちかちにこわばった肩から手をどけた。
ちょっと待って。影野はできうる限りはやくふたごアイスの袋を破った。均等に割り、片方を差し出す。たべよう。は。座って(、と影野は車止めを指す)。たべよう。宍戸は怪訝そうに影野を見た。黙ってアイスを差し出し続けている影野にあきれ返った口調で、どうも、とようやくアイスを受け取る。その指先が氷みたいだ。影野は自分が真っ先にそこに座ってアイスを噛む。宍戸が不承不承、といったように隣に座る。ずずっと洟をすすり、手に持ったアイスを持て余したようにたべようともしない。たべなよ。水を向けてやると宍戸はおあいそ程度に端をちょっとかじった。さむいのが苦手なんだろう。黙ったままの宍戸の、痩せた膝ががたがた震えている。なにしてるの。再度訊ねた、その目がまたじわりとゆるんだ。
冬の夜にはなき虫で。影野がぼそりと言うと、宍戸はちょっと首を反らすようにした。からだを抱くように縮こまった、冬眠中の臆病な動物みたいに。やさしい彼がふと、冬の最中、先の見えない春を前に悪夢に目覚めてしまったように。おれは冬にたべるアイスがすきだよ。はぁ。宍戸は、なにがすき。唐突なその言葉に宍戸は黙ってアイスを噛み、ぼんやりと咀嚼し飲み込み、また黙る。影野がアイスをすっかりたべ終わって手持ちぶさたに木の棒を噛みはじめるころ、宍戸は口を開いた。おれは。アイスの断面を見つめながら宍戸は小声で言った。夏がすき。どうして。つらくないから。冬は、つらいの。宍戸はぱっと顔を上げ、あんた関係なくねっすか、と言った。心外だ、と、突きつけるみたいに。影野はまたほほえむ。それしか方法が、ないから。
つらい冬。さむい冬。目の奥が凍ってしまいそう。冬のアイスクリームみたいな宍戸。臆病なやさしい動物。爛れた夜にはふたりぼっちで、冬の夜にはなき虫で。もうひとつ買って帰ろう、と影野が車止めから腰を上げたのは、宍戸がふらりとどこかに行ってしまってから、しばらくあとのことだった。ごみ箱に放った棒がからんと鳴る。目がぐずぐずにゆるんで、思わず袖で押さえた。ないてるみたいでかっこわるい。かなしくもつらくも、なんともないのに。
宍戸、なんで目を隠してるの。








嘘と三秒
影野と宍戸。
強いて言うなら抜けた場所が嘘です。
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稲妻町銀蝿。
塔子は思わず手を振り上げていた。うまくミートしなかったためにへんにくぐもった音、のあとに残ったのはしびれる手のひらと、顔をそむけたリカだった。は。は?リカはゆっくりと打たれたほほにふれる。乱れた髪のすき間から一瞬呆気にとられ、そして次の瞬間には怒りに燃え上がった視線が溢れる。殴ったな。その言葉の瞬間を埋めるように、塔子はもう一度腕を振った。ぎりぎりでのけぞったリカのこめかみの近くを拳はかすめ、さらさらの髪の毛がまとわりつく感触がざらりと塔子の舌の奥を煮やす。衝撃がわき腹を揺らした。リカの膝が下からえぐるように打ち込まれる。殴ったな!塔子は一瞬息をつまらせ、思いきりリカの下腹を蹴飛ばした。ぎっ、とのどの奥で悲鳴を上げてよろけるが、それでもリカは倒れなかった。塔子をにらみ上げるリカのおおきな目が、突然の一方的な被害のためか憤怒にぎらぎらしている。
リカのしなやかな指が伸びて塔子の額を掻いた。はっとしたときにはもう片手で帽子をつかまえられ、逃げようともがくその動きを抑え込まれた。あたまを押し下げるリカの腕は、あんなにも華奢なのに驚くほど力強い。眉間に膝を打ち込まれ、視界がぐらぐらとぶれる。足を突き退けるとリカのからだがふあっと揺らいだ。胸ぐらをつかまえ、その額に自分のそれを思いきり叩きつけてやる。鈍い音とともに、ぱっと火花が開くイメージ。額があつい。リカの額があかい。違う。息を荒らげながら塔子は自分の額に触れた。あつくぬめる指。はっはっとみじかい呼吸と、それよりもずっと速い鼓動。塔子はリカにつかみかかる。それと同時にリカも怪鳥のように翻した腕でつかみ返してきた。髪の毛が根こそぎむしられそうになる。
そのときにはもうお互いの自重も理性も吹き飛び、わけのわからないことをぎゃあぎゃあ吠えながら絡まりあい噛みつきあう、そればかりだ。ふいに鼓膜がびりびりっと振動し、ふたりは強引にもぎ離される。もがくリカの後ろに一之瀬が回り込み、リカをがっちりと羽交い締めにしていた。塔子の後ろには土門がいる。木野が駆けてくる。塔子はわき腹めがけて肘打ちをくれたが、土門はそれを読んでいたようにちょっとからだをひねって避けた。リカの顔がありとあらゆる体液でべたべただ。たぶん自分もそうなのだろうと塔子は洟をすすり上げる。血の味がした。引っ掻き傷だらけのリカ。しくりと胸が痛む。きれいな顔なのに。だけどそれは、罪悪感とは全く別の場所だった。叶うならばもっとめしゃめしゃにしてやりたい。リカの髪の毛が指の間にたくさん絡まっている。
とりあえず思ったのは土門も一之瀬も邪魔だなということで、塔子はリカとふたりっきりでもうすこしめちゃくちゃにやりあっていたかった。どっちかがあえなく戦意喪失、戦えなくなるまで、もしくは、たおれてしまうまで。発情期のけだものみたいに、白目を剥いて死合っていたかった。なぜなら塔子はリカのことをそれはそれは愛していたからで、こんなにも近い位置で吐息が触れる距離で、ぶったり蹴ったりぶたれたり蹴られたりできることが、しあわせだったからだ。この上もないくらいに。
あたしたち生きているもの。そうだ。そのとおりだ。リカがまっかに潤み血走った目で再度腕を振り上げる。どろりとしたもの、得体の知れないもの、光の差さない場所、底のないきれぎれの絶望。そんなものに支配されて、あたしたち生きるべきなのだ。あたしたち生きて、足掻いて、戦うべきなのだ。けだもののように。そうでしょう。おまえだって(、そうなんだろう)。塔子は血の味のする歯をぞろりと舐めて叫んだ。リカの中に眠る野性を引きずり出して、その一番みにくい姿を見たかったのだ。きれいな顔とさらさらの髪とよく磨かれた爪としなやかな手足をしたリカ。理性にくるまれた横顔から全部をはぎ取って、その一番内側にあるひそやかな狂気を、一番そばに寄り添って、見たかったのだ。あたしたち生きているモノ。ひとの皮をまとったみにくいモノ。
木野に急かされてふらっとやってきた円堂が、リカのほほを音高くひっぱたいた。生きているモノ。振り向いた円堂は塔子にもおなじことをする。みにくいモノ。理性に抗い野性に唾するけだもの。高らかに高らかに吠えるいきもの。あたしたち、それをなくしては生きていかれないのだ。塔子は全身をばねのようにして土門を振りほどき、円堂を押しのけてリカに襲いかかる。それを押し止めたのは円堂で、キーパーの強靭な腰はその程度では折れも下がりもしなかった。円堂は塔子を地面に投げ飛ばし、その下腹部にスパイクの足を置いた。リカが塔子を見下ろしている。奥歯を噛みしめた凄惨なうつくしい顔をして。塔子は涙だらけの顔をゆがめてわらった。あたしたち、こうやって生きるべきなのに。なのにリカはなにも言ってくれないからかなしいんだ。あたしたち狂気に塗られて強くなる。あたしたちはふたつ足のけだものだ。永遠に。







まほろば死すべし
塔子とリカ。
※他ジャンル注意
ペルソナ4。小西と海老原。
引き続き、無料本お受け取りのご連絡をお待ちしております。


はるこみはたなさんのスペース辺りでもっさりしている予定です。
特になにも出ませんが話しかけたら喜びます。
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