ヒヨル 涙語 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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朝早くから携帯に電話があった。
とにかく髪の毛をとかして厚着をして河川敷まで行った。まだ陽も昇ってはいない。
後輩はちゃんと待っていた。ちいさな両手にちいさな箱を抱えて、うつむいて。
埋めたいんです。
消え入りそうな声だった。まっしろい息が立ち上ってその表情を隠す。
箱の中にいた、ハンカチにくるまれたそれをそっと開くと、ひらひらしたあかい金魚が入っていた。
ひらきっぱなしの目は濁っている。
朝起きたら水面に浮かんでいたと後輩は言った。普段ちゃんと縛ってある髪の毛は、寝起きそのままのようにめちゃくちゃになっている。
箱を受け取って、一度髪をそっとなでてやると、たまらないように腰に抱きついてきた。
こんな風に、何かを伝えてくるようなことはしないやつだと思っていたのに。
手袋をはずして、河川敷の端の、川に近い場所を素手で掘った。指先は冷たく、土はおそろしく固かった。
深く掘りすぎてしまったか、と後輩を振り向くと、箱をしっかり抱えてうずくまるようにしていた。
そもそも生き物がすきではない自分には、よくわからない感覚だった。
だけどたかだか金魚だろうと言うことはとてもできなかった。そのかなしみは、わかりはしないが、想像はできる。
川べりを上ってくる空気がすさまじく冷たかったので、てのひらを払ってマフラーをはずし、うずくまったその上から巻いてやった。
マフラーをはずしたとたんに吹いた風に、髪の毛がばらばらと広がった。指先が石くれを引っかいた。
こんなところに埋められてしまうあの金魚を思った。一瞬だけ。
ここなら練習するたびに見てやれる。そういう風なことを言ってやると、ようよう後輩は顔を上げた。鼻と頬がまっかになっていた。
丁寧に土をかけてやった。指先が痛かった。それよりも、隣の後輩の気持ちがきちんと汲んでやれないことのほうが痛かった。
後輩は掘り返された地面、ひらひらの金魚が埋まっているそこにてのひらをあてた。
マフラーありがとうございます。ぐず、と一度鼻をすすり上げて後輩は言う。
言うべき言葉がみつからなくて、汚れているてのひらをジーンズにこすりつけて、手の甲で後輩の頬を撫でた。あつく湿っていたそこに、ますます言葉を失った。
こんな単純なことにもかなしめないし、理解してやることだってできない。
なのに。
後輩は泣くのだ。腰に痛いほどしがみついて。マフラーを巻いたまま。
(知っておけてよかった)
(なくすことは、かなしい)
せめて今日が晴れればいいと、ふと見下ろした指先に血がにじんでいた。死んだ金魚に似たその色。
赤い金魚。そのひらひらが、どれだけいつくしまれたのか。
指先が痛くて、首筋は寒かった。こんなにも無力なのに、空さえもまだ暗い。




***
影野と少林寺。
少林寺からおもっくそ影野へ矢印出てます。
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