ヒヨル おんなのこのはなし 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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木野秋という同級生のことを、雷門夏未はときどき考える。きれいな髪の毛をした、しっかりものでかわいい、サッカー部が誇る敏腕マネージャー。サッカー部が廃部の瀬戸際に立たされていたころから、彼女がなにも言わずに奮闘していたことを実は夏未はちゃんと知っていた。しろい肌をしたかわいい木野秋。彼女はかわいすぎてきれいだ、と、たまに思う。他意はない。ただ単純に、そう思う。隣に立って荷物を運んだり洗濯物を干したりするようになってからは、特に。腕まくりをしておもたい道具を抱えている姿を遠くから眺めているときなんかは、まるで閃光のように去来するその思いが夏未の思考を焼き切っていくのを感じる。木野秋はかわいい。かわいすぎてきれい。
スポーツドリンクを入れておくアミノ酸飲料メーカーのロゴが入ったオレンジ色のボトルを、毎日人数分洗剤で洗うのはけっこうな重労働だ。夏未は今まで洗い物なんか一度もしたことがなかった。隣に立った秋が、あっという間にスポンジを泡立ててごしごし洗っていくのを、魔法みたいだとそのときに思った。夏未さんもやってみて、と、手渡されたスポンジは泡がなまぬるく、いいにおいでも手触りでもなかった、けれど、見よう見まねでごしごしやったら秋はわらう。そうそう。中まできれいに。中は専用の柄のついたほそいブラシを使うということも、そのときにはじめて知った。手が届かないものね。ぽつりとそう言うと、秋は驚いた顔をして、そしてにっこりわらった。そうだよ。夏未はいそいで目を反らす。かわいすぎてきれいな木野秋。指先に泡が不快にまとわりついてきもちわるい。たった十三本洗うのに、かなり時間がかかってしまった。
洗い物も洗濯も片付けもおにぎりの作り方も、夏未はすべて秋から教わった。秋はなにもかも、なんでもないみたいな顔でさらーとやってしまう。そうして他のひとからの気持ちみたいなものも、おなじ顔でさらーとかわしていく。気づかないふりが上手。後輩の春奈は可もなく不可もないといった口調で秋を評価した。断定する言葉にはとげこそないが、妙にきっぱりしている。先輩はちょっとこわいです。わたしはあなたの方がこわいわ。春奈はその言葉におおきな目をまたたいて、そしてわらった。大丈夫ですよ。ちゃんと本人にも言ってありますから。なに、それ。陰口とかきらいなんですよね、わたしも先輩も。陰口。夏未は心中でゆっくりその言葉を繰り返す。木野はベンチで次の試合相手のオーダー予想をしていた。監督と円堂と三人で、額を突き合わせている。わたしは木野さんすきよ。ストップウォッチに視線を落としながらぼそりと言うと、春奈はちょっとわらって、だけどなにも言わなかった。かわいすぎてきれいな木野秋。ストップウォッチが五分を駆け足で過ぎていく。
夏未さん。メンバー全員でのグラウンド整備のあと、ベンチを掃除している最中に、秋が突然たずねた。無人島に三つだけなにかを持っていくなら、なにを持っていく?夏未は手を止めて、首をかしげた。それは、なにか大事な質問なの?秋は首を振って、ううん今思いついただけ、とわらった。三つだけ。思いつかないわ。夏未は眉を寄せる。今まで物足りない思いをしたことなんてない。秋は、そう、とまたわらった。あなたはなにを持っていくの。夏未の問いに秋はすぐに答えた。一ノ瀬くんとサッカーボールと、夏未さん。わたし?驚く夏未に、秋はうなづいた。わたしが今、これだけあったらなんにもいらないなぁって思うもの。ベンチを雑巾で拭く秋の横顔は、夕陽にななめにてらされてさびしかった。夏未は言葉をなくして立ち尽くす。秋はそこで顔を上げて、ほほえんだ。ものだなんて。ごめんね夏未さん。透明でかわいすぎてきれいな秋のほほえみに、初夏の夕暮れが影を落とした。秋が望むなら連れていってほしいと思った。無人島にだってどこにだって、あなたが望むなら連れていって。
秋は円堂がすきなのだと思っていた。円堂もたぶん、秋がすきなのだと思っていた。わたしはあなたがすきよ。その、友達として。だけどそれはどうでもいいことでどうにもならないことでどうなってもかまわない、ことだった。秋が望むなら、それがすべてなのだ。無人島では三人でサッカーができる。一ノ瀬くんは上手だから、きっとわたしたち相手でもうまくやってくれる。木野さんと一ノ瀬くんとわたし。困ることなんてなにもない。夏未の視線の先で秋がふあっとわらう。ありがとう。きれいなかたちのくちびるからのぞく歯の、なんてしろくうつくしいこと。ずっと前にこんな色のドレスを見たことがあった。しろい手袋にベール。きらきらひかる薬指の指輪。そのときからもう何年も経ってしまった。あのときあこがれたあのひとより何倍も、木野秋はかわいすぎてきれいだ。






ダイアモンドバブル
夏未と秋。
マネ三人について深く考えたい時期。
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病院の廊下は広くてしろく、とても冷たい。
スプリングのいかれた革張りのベンチに座り、夏未はうつむいている。
父が病院に緊急搬送されてから、もう三日は経つ。
チームメイトはみんな、あの日夏未が父の傍にいることを許してくれた。
のみならず、全国大会初戦突破という、この上ない励ましをくれた。
夏未はしろい額に手をやる。しかし父はまだ目覚めない。
病室にばかりこもっていても気が滅入るばかりだと、執事の強い勧めもあり、夏未は日に数度、病室を出て外の空気を吸うことにしている。
学校も三日休んでいる。このままだと運営にも影響が出てくるだろう。しかし夏未は病院から動けない。
とっくに離れられなくなってしまった。この広くてしろくて冷たい場所から。
「夏未さん」
聞き覚えのある甲高い声に、夏未は顔を上げた。制服を身に着けた目金が、驚いたように夏未を見ている。
「あら…珍しいこともあるものね」
こんなところで何をしていらっしゃるのと問うと、練習中にケガをしたんですよと目金はくちびるの端をかすかつり上げて、左手の薬と包帯を持ち上げて見せた。
「まぁ。あなたまだ練習に参加していたの?」
「チームのモチベーションを下げることは悪かろうという、不本意ながらのことですよ」
中指でメガネを押し上げながら、やや自嘲気味に、しかしきっぱりと目金は言った。近づいてくるその右足を、ひょこひょことわずかに引きずっているのが痛々しい。
「疲れていますね」
「あなたもね」
「僕はいいんです」
ベンチに座る夏未の脇に立って、目金は腕組みをした。僕はサッカーなんてできなくてもいいんです。
今やプレイヤーと同じくらいサッカー部に入れ込んでいる夏未にとって、今の目金の発言に思うところもあっただろうが、目金の予想に反して、夏未は何も言わなかった。
「ここは病院ですよ。あなたもかかればいかがです」
疲労にほのじろい夏未の顔に、目金はなにがしか感じるものがあったのだろう。言い放つ言葉こそ平常と変わらないが、その口調はずいぶんとやわらかい。
「ふたつも心配事を抱えて頑張れるほど、円堂は器用じゃありませんよ」
夏未は顔を上げない。目金の言葉すら、聞こえていないのかもしれない。
夏未の心配事だってひとつやふたつではなかったのだと目金は思う。父の容態、サッカー部の試合の結果、学校の運営や経営。たくさんのものをその細い肩に背負って、夏未はひとり戦っている。
できることなんてなにもない。そんなことは知っていた。ちゃんと解っていた。
うつむいたままのつややかな赤毛の頭に、目金はそろりと手を伸ばし、そこにぽんと置いた。
驚いたように夏未は顔を上げる。戸惑うようにその瞳がさまよう。しかし夏未より、もっと驚いていたのは目金だった。自然に出てしまった手に、自分がしたとは思えないその行動に、顔には出さずに戸惑っていた。
「触らないで下さる?」
その言葉にも、手は引けなかった。
「あなたにこんなことをされても、私は嬉しくもなんともないわ」
「わかってます」
目金は静かに言った。その言葉に夏未はゆるゆると顔を伏せる。
「でも」
「それなら何故?」
「僕じゃなくても」
指の先がちりちりとあつくなる。つややかなその髪の毛に、目金は動揺してため息をついた。
そっとその手を動かした。こんなことをしたことはなかったので、加減はわからなかった。
夏未の頭を目金のしろい手が撫でる。そろそろと、ゆっくりと。
「僕じゃなくても、こうしたと思いますけどね」
夏未の華奢な手が、ひざの上でぎゅうと握られた。
そこにぽとぽとと雫が落ちてはじけた。目金は視線をそっとそらす。それは見られたくないものだろうと思った。
そしてそんなものは見たくなかった。少なくとも自分が見ていいものではなかった。
「こんな場所で泣かないでください」
だからこんな言葉をかけることしかできない。
「理事長が目を覚まされたら驚くでしょう?」
タックルされて転んだひざは痛かった。痛み損だと思った。サッカーなんて自分はできなくてもいいと思っていた。
だけど自分がチームにいることが、どこかで何かに影響を与えていて、そうしてそれが回りまわって今ここにあるのなら、それもかまわないと思った。
その影響が回って回って、誰にもなんにも作用しなくなったときが来たら、そのときにサッカーはやめればいいと思った。
少なくとも今ここで夏未の頭を撫でてやることは、今ここにいる自分にしかできないことだ。
それができたのだから、構わなかった。もう。
「あなた、明日も来た方がよろしくてよ」
夏未は言った。顔を上げて。頬にはかすかに赤みが差していた。
「ケガを放っておくなんて、私が許しません」
そうして目金を見る。それは強いまなざしだった。強い強い、やさしい目だった。
とっくにここから離れられなくなっていた、それでもよかった。来てくれる人がいるのだから。夏未はわらう。戸惑うような目金の手が、とてもやさしかったから。
「マネージャーの言うことは、絶対ですわ」




ベイビースーパーノヴァ
目金→夏未っぽい目金←夏未。
高飛車コンビすきです。というか目金すきです。ゲームでは糞だけど、君がすきです。
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