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目金はいつもひとりでいる。ながい昼休みのときは、日の当たらない校舎裏か、にわとりのいる飼育小屋の裏、あるいは駐車場のそばの植え込みの裏で、ひとりでぼおっとすわっている。どれも、松野をはじめとする目金をいじめるグループが近づきもしない場所だ。奥歯を折ってしまったときには、言い訳にひどく苦労した。今日は飼育小屋の裏でにわとりの声を聞いている。なぜ飼育小屋を選んだかというと深い意味なんかは特になくて、ただ単に今日が少林寺の飼育当番の日だったからだ。手伝いはしないが、ぐだぐだとしゃべりながらてきぱきとはたらく少林寺を眺めているとなんとなく笑みがこぼれる。少林寺は手際がいい。そしていきものがすきだ。すごくいい、と思う。
それに今日はなんとなく影野にあいたくないなと思っていた。影野はいきものがきらいだから、飼育小屋のある一角には寄りつこうとすらしない。昼休みはときどき影野としゃべる。それは目金が一方的にしゃべるだけだったが、影野がときどきおだやかにうなづきながら聞いてくれるのが心地よくて、いくらでもしゃべれてしまうのだ。ゲームも漫画もアニメもネットも影野は全然詳しくないけど、詳しくなくてもはなから聞かないなんてことはしない。じゃあ趣味はなにかと以前聞いてみたら、影野は口ごもって、ない、と言った。だからしゃべるのは目金の役目になった。
昨日、影野が松野に乗っかられて殴られていた。それは目金にするみたいな、容赦なくつめたいやり方ではなく、むしろみずみずといろいろなものをこぼしているような、そんな殴り方だった。松野はうっすらとわらっていて、影野は無抵抗だった。松野は最後にぱしんと音高く影野のほほをぶって、ばーっかと罵りながら部室を出ていった。見ている目金を空気みたいに突き飛ばして、満足そうにわらいながら。影野はゆっくりとからだを起こして、目金をじっと見た。目金が向かい合わせにぺたんとすわる。ふたりとも無言で、それがちっとも気詰まりでないことに目金は驚いていた。影野の前髪がばさばさに乱れていて、そのすき間から見えるくちびるが、やわらかくむすばれている。
目金が手を伸ばして、そこを直してやった。影野はなにも言わずに、されるがままになっている。影野のほほに指先が触れて、そこがひどくあつくなっているのでああきっといたいだろうなと目金は思った。やわらかな髪の毛をかきわけて、目金は指先をすべらせる。上へ。鼻のわきをとおり、髪の毛の下をくぐるように。眉間をとおって額にたどり着いたとき、指先がびくりとすくんだ。すべらかな影野のひふの、それは異境だった。いつから。十歳。いたかった。うん。今も。今は、もういたくない。なんで。影野はゆっくりとくちびるをわらわせた。きらわれてたから。
ぎゅ、とそこにわずか指をくい込ませるように、目金は力をこめた。十歳の影野がうずくまってないている。十四歳の目金はそれに届かない。十四歳の影野は松野に殴られているので、どれだけつらくてもかなしくても、お門違いな後悔をしても、絶対に届くことはない。目の奥があつくおもくなって、気づいたらないていた。レンズがぶわっと一瞬でくもって、ぼたぼたとしずくが落ちていく。影野は額を目金に触れさせたまま、なかないで、と言った。ひどくしずかに、なかないで、と。肩をふるわせる目金のほほを、影野のほそい指がやさしくぬぐった。
かなしいのはそんなことではない。目金は首をふった。殴られて蹴られて、きたない言葉をはきかけられて、つらいのはそんなことではない。嫌われてそねまれて、ずっとずっとひとりぼっちで、むなしいのはそんなことではない。例えば触れてみないとそれがわからなくて、触れてみたところで理由もいたみももう理解できないことが、かなしいのだ。松野のように伝えるのではなく、それをかばいあって、目をそむけあって、だけどとっくにできることなんてし尽くされていて、それに代わるなにかを見つけ出すことさえできないことが、さびしいのだ。
目金はばっと影野の前髪をはらった。しろい顔がさらされる。あなたはきれいな顔をしてるんだから。しゃくりあげながら、おずおずと目金は手を伸ばした。だから、もうなかないで。抱きよせたあたまは髪の毛がさらさらとうつくしくて、二次元のキャラクタの髪の毛に触れたらこんな感じなのかもしれないと目金は思った。ばかばかしい。影野のてのひらを背中に感じて、なきながら目金はすこしわらった。影野はちっともないてなんかいない。ないているのは、ぼくだけだ。だから。
あーばかなことをしてしまった。飼育小屋に背中をあずけると、いきもののにおいがした。ないてしまった。あんな簡単に。あんな些細なことで。それにひどいことをした。ああ最低だ。恥ずかしい。背中でうろうろとにわとりが歩き回る気配がする。目金は足を交差させて膝をたてる。そこに額を押しつけて、両手であつい耳をふさいだ。だけどあのときは確かにそれができると思ったのだ。ここでふたりで、すべての遠いものを夢見ることが。あー恥ずかしい。だから目金は知らない。ほうきやら餌の残りやらを抱えた少林寺が、突然の訪問者に驚いた顔をして、次ににっこりとわらって、目金がうずくまる飼育小屋の裏を指差したことを。






ここにいてすべての遠いものを夢見よう
4月12日に寄せて。


目金と影野は谷川俊太郎「きみ」だと思います。
わりと心にくる詩なので、気が向いたら読んでみてください。
タイトルは同氏「地球へのピクニック」より。
影野と少林寺の「ここでただいまを云い続けよう」も、この詩からいただきました。
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花びらがあまりにもたくさん川を流れているので、宍戸がスパイクを脱いで靴下も脱いで足をひたしてしまった。春の水はまだつめたい。足首にしろくさざ波のように水が立つ。そこを割るように、埋めるように、花びらがどんどんと絶え間なく流れてくる。栗松はその背中をじっと眺めていた。ゆうひのような宍戸の背中。
おまえもしてみれば。気持ちいいよ。振り向きもせずに宍戸が言うと、栗松は口ごもった。えー、なんか。ごにょごにょと言いながら、それでも宍戸のとなりにしゃがみこむ。宍戸はジャージのそでもまくり上げているので、骨ばったひじやひざが夕日にはえている。痩せたしろい腕。ふとそのしろい腕に自分のそれを並べてみたくなるような、筋が目立つ宍戸の腕。
きたなくね?栗松が水面を見下ろしてぼそりと言うと、えーなにがだよと宍戸はわらう。なんか、おれはやだ。まーいんじゃね。おれおまえのそーゆーとこかっけぇと思うし。なにがだよ。なんか。うん、と宍戸はすこし首をかしげた。なんかおまえって、わかってる、って感じ。今度は栗松が首をかしげる。なにそれ、どゆこと?なんかさー、例えばおれなんかさ、あーこれいいかもーって思ったら、あんま考えずにぱーっと行っちゃうわけ。そんであとからすげー後悔するの。うわーやっちまったーアホだわおれ、みたいな。ひひひと宍戸はわらう。ざばざばと足を動かすたびに、しろい波がやわらかく立って花びらがくるくるとまわる。ずーっと向こうにたくさん桜がさいていて、それが散ると全部全部流れてくるのだ。ここへ。そして、ここを通り越して、海へ。
だけどさ。宍戸は両手を後ろについてからだをそらした。栗松ってそーゆー線引きしてんじゃん。嫌だったらやらね、みたいな。やなことをやだって言えるの、おれはすげーかっけぇと思う。ほめんなよと栗松はしたくちびるをつき出し、別にほめてねーしと宍戸はわらった。しろい腕を伸ばして、栗松のほほにかるくこぶしを触れさせて、だからおれはわりとおまえがすきだよ、と宍戸は言った。宍戸は今後悔してんの。ほほを押さえられたまま栗松は言う。別にしてねーよ。じゃーいーじゃん。おれなんてまいんち後悔してっからね。ひひひと今度はふたりで声をあわせてわらう。
栗松は水面に手を伸ばす。もちろん届きはしない。この花びらってさ、海まで行くのかな。さあ。行くんじゃね。海まで行ったら、どうなるのかな。さあ。魚がくうのかな。おれそこまで考えたことねーわ。栗松は想像する。からだじゅうにたくさん桜を咲かせた魚が群れをなして泳ぐ春の海。さびしい、うつくしい、さびしい、その光景。おれもいつか後悔するよ。どうにもならないことになくんだ。宍戸は手を今度は栗松のあたまに触れさせた。じゃーおれもないちゃるよ。つかさびーと宍戸はざばりと足を水から引き抜く。そのしろいほそい足首に花びらがたくさんはりついていた。さびしい、うつくしい、さびしい、わが身の影をあゆまする石の上。





石の上
宍戸と栗松。
三好達治すきです。
目金が殴られている。無抵抗で殴られている。松野がその胸ぐらをつかんで、容赦なくこぶしをふり上げ、うち下ろす。おもくしめった音、かわいた音、目金のみじかい悲鳴、呻き、松野の怒鳴り声、そしてきちがいじみたわらい声。その全部をていねいに、ひとつも意識に残らないように受け流してやりながら、影野は松野の背中をじっと見ている。松野が目金を部室のコンクリにつっ放した。だらりと投げ出されるやせた目金のからだ。血走った目で肩ごしに振り返り、ぺっとつばを吐く。見てんなよ。うん。悪趣味ぃ。松野はぜいぜいとわらう。松野は目金を殴るたびになんだかんだと騒ぐので、声をがさがさにからしてしまう。おれ今日は部活さぼるわ。はらいてー。じゃーまたねんと影野のほほをぴたぴたと叩いて、松野は去りぎわにさらに、うつ伏せにうずくまる目金のわき腹を蹴り上げた。ごほ、とのどの奥で声がつまる。
松野はいつも力いっぱい部室の扉をしめるので、はね返ってまたすこしひらくのが影野はいやだった。手を伸ばしてそっとそれをしめてしまう。目金が呻きながらのろのろとからだを起こす。緩慢なしぐさは虫が脱皮でもするみたいで、だけど顔をあげた目金はそんなものとはほど遠い、ひどい顔をしている。力なく咳き込んでよれよれと立ち上がって、目金はあばらのあたりをかるくおさえた。メガネのレンズははんぶん歯ぬけになっている。影野はそっとてのひらで学ランについた砂をはらってやった。ついでに髪の毛もかるくはらってやると、目金が切れ長の目で影野を見上げて、にやっとわらう。くちびるの端があかく切れている。あおあざだらけの目金。
影野はしろい手の甲で目金のほほに触れた。いたい?いたいですよ。そう。はははとよわよわしくわらって、目金はからだをくの字に折る。しぬかと思った。影野のみぞおちのあたりに額を押しつけるようにしながら、目金はひくくつぶやいた。影野は手の甲をちらりと見る。そこには血のあとがうすくこびりついていた。かわいた鉄。影野は目金を支えるようにして、壁によりかからせてやった。ごめん。あなたが謝ることないですよ。ゆっくりと膝をまげて、目金はくたりとそこに顔をふせる。松野くんはやさしいですよね。くくく、と肩がふるえた。しねしね言いながら、まだそれをぼくにさせてくれない。
がらりと部室の扉がひらいて、めんどくさそうな顔をした半田がぬうと顔をのぞかせた。あー影野。いたいた。わり、ちょっと来て。なに。松野が暴れてやがる。眉間にしわをこの上なくふかく刻んで半田はため息をついた。栗松がボッコにされてんだわ。まじかわいそうだから助けてやって。影野は目金を見下ろす。目金が手をぱたぱたと振る。手の甲の目金の血。わかった。おーさすが影野。駐車場んとこな。半田が指さす方へ、影野は無言でつうと行ってしまう。おめーまた殴られたん。かばんをどさりとロッカーに投げて、半田はなんでもないことみたいに言った。なくなよ。なきませんよ。おまえしぬなよ。松野犯罪者になっちゃうからなと半田は脱いだ学ランをばさばさと振った。くくく、と目金は肩をふるわせる。大丈夫です。まだしにません。
ひらきっぱなしの扉の向こうから、けものが吠えるみたいな声がした。影野しんでないといーねと半田は言った。目金はゆっくりと立ち上がって外へ出ていく。レンズが欠けたちかちかの視界で、影野が松野に殴られている、殴られている。
(あなたほんとは影野くんこそころしたいんでしょう)
ばかなひとだ。






おとなすぎたきみはげんきだろうか
影野松野目金。
校庭の向こうに松野がたっている。シロップのしみてひたひたになった、居心地のわるい季節はずれのかき氷みたいな松野。松野は両手を口にまるくあてて、メガホンみたいにしている。
校庭の向こうに影野がたっている。それひとつだけしまい忘れたみたいな、小学校の片隅の壊れかけた竹ぼうきみたいな影野。影野は両手をだらりとおろして、だまって突っ立っている。
○○。校庭の向こうから松野がさけぶ。両手のメガホンにおもいきり声をひびかせて。○○。○○。○○!○○!!
影野はなにも言わずに、だまってそれを聞いている。○○。松野がさけぶ。わらいながら。影野。○○。
影野は片手をあげる。それでひかりを遮るようにして、松野をじっと見て、すこしわらう。
○○!○○!○○!○○!
影野はなにも言い返さない。たくさんの言葉が降り積もる。たくさんの言葉がたくさんの形で突き刺さりながら降り積もる。
松野。影野はちいさくつぶやく。なにー。松野がさけぶ。影野は首をふる。○○。松野がまたさけぶ。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○。
影野!○○!聞いてる?○○!
松野の言葉に影野はうなづく。聞いてるよ。ごめんね。
松野はわらう。涙をこらえてわらう。さけびながらわらう。いってはいけない。
ひどくかわいた校庭にはまるい虹が出ていてそれがびっくりするくらいきれいだったので、ああおれたちはもうどこへでも行けるね、と松野はわらった。
『わたくしもまっすぐにすすんでいくから』
『ああそんなに』
『かなしく眼をそらしてはいけない』





イカロスは死んだって生まれ変われない
49記念。
○○の中にはお好きな言葉を入れてください。
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