ヒヨル 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

だらりと公園のぶらんこに腰かけた宍戸のとなりで壁山がおなじように弛緩している。ぶらんこの幅が狭すぎやしないかと思いそのようなことを宍戸が口に出すと、それよりはやく帰った方がいいんじゃないかなと壁山はやわらかく言った。壁山の言葉はいつも正論で、たとえばそれは目金が無機質で無遠慮にぶつけてきたり、松野が痛みをえぐるみたいに投げかけてきたりするものではなく、やわらかでやさしくて、それがいっそ暴力的なのだ。限りなくなまにちかいふかい場所をそおっと引っかかれるみたいな、こまやかで曖昧な壁山の暴力。宍戸は壁山の正論を聞くたびに、そのいとおしいほどの暴力に埋もれてしんでしまいたいと思う。靴の中であおぐろく鬱血した爪の親指がぐんと反った。
住宅街のどまんなかにあるちいさな公園は、夜の底にひそやかに息をころしている。子どものてのひらとあしあとと嬌声を集めたケーキみたいな公園を、宍戸ははしから踏みつぶしてやりたくなる。生クリームの幸福にぬるくおおわれて、チョコプレートみたいな甘ったるい希望によりかかって、あしもとの暗いろうそくのそばに寝ころんで、それでは満足なんてできないのだった。もう。あー帰りたくねー。ほそい指を組んで、宍戸はそこに額を押しつける。わがまま言うなよ。壁山はそんな風に困ったふりで言いながら、そのくせしっかりと底に笑みをはりつけてある。ずるいよなぁと声に出さずに宍戸はわらう。なんでこんな簡単に飲み込めるんだろ。壁山はいつも気がついたらそれを通り抜けている。喉元過ぎればあつさもわすれる、だ。
壁山がぶらんこをきしませて立ち上がる。ケツいてーと宍戸も立ち上がった。帰るの。帰らね。どこ行くの。どこも行かないよ。サルエルデニムのポケットから携帯を取り出して、サーチライトみたいにぐりぐり回った。あしもとの地面がまるくよじれて、そのぼかっとした光の中を、壁山がなんどもなんども通りすぎる。壁山はわらいながら、目ぇまわるからやめなよ、と言う。止まったとたんにおっ、と足をふらつかせ、ぐらりとかしいだ宍戸の手首を壁山のてのひらがつかまえた。あーもう。ほら。うひひ、と宍戸はわらう。わーなんかおれ今ちょーあたまわりぃって感じ?感じ。壁山はうなづいて、手を離した。宍戸は地面にひっくり返る。夜の巨大な足にゆっくりと踏みつぶされて星座みたいにぺたんこになりたい、と思った。ケーキみたいな公園じゃなく、そのもう少しだけ現実的ななにかに。壁山と一緒に。
壁山って暴力的だよな。その言葉にええっと壁山は声をあげる。おれ、宍戸になんかした?宍戸は地面に寝ころんだまま両手をたかくつき上げた。てのひらで夜を押しのける。どうだ。壁山。きれいだろう。星がたくさんできらきらだ。壁山は宍戸のわきにしゃがんで、ねぇ、と不安そうに宍戸をのぞきこむ。宍戸はばねのように飛び起きて、両手で壁山をつきのけた。地面にしりもちをついて壁山は眉を歪ませる。そういうのが暴力的なんだばーっか。宍戸はひひっとわらった。なるべく絶望的に響くように。なま肉がからだの奥でだらだらに血をながし、壁山はもうとっくにそこを通りすぎてしまっていた。宍戸はケーキみたいな夜の公園に根をはって手を伸ばす。壁山は石のようにかたまってそれを見ている。ああもうやさしいなぁおまえは。やさしすぎて今すぐしんでしまいたいくらいだ。






ズベン・エス・カマリの虫
宍戸と壁山。
宍壁宍かもしれんと最近思い始めてきました。
PR
夏は葬式の季節だ、と思う。少林寺がまだちいさい頃には矍鑠としていたひいじいは、少林寺に弟ができたころから一気に、それはもう坂道を転がるように老いて呆けてこわれていった。庭をうろうろと徘徊しては砂利をいつまでも掘ったり、ポストに延々はなしかけているところを少林寺が見つけて連れ帰ったり(どこの坊やかな、と言われたので帰ってからないた)、夕食を摂ったあとにはたりと立ち上がり、もう帰らないと、と玄関で靴をはいたり、する。定番の、ばあさんめしはまだかいのう、こそなかったものの、糞尿を垂れ流し徘徊を繰り返し意味のわからない繰りごとをえんえんとしゃべり続け、どんどん記憶の中に引きこもっていったひいじい。じいさんもばあさんも父も母もどっぷりと疲れはて、ひいじいが一家の病巣になったあつい夏、ひいじいはぱたりと逝ってしまった。鳴き終えた蝉のように。
だから夏は葬式の季節だ。線香と焼香のゆるいにおいと、喪服の樟脳のにおい。汗と香水とハンカチのアイロン。筆ペンで書かれたいくつもの名前。ぞろぞろとならんだ革靴とハイヒール。ひいじいはいかめしい顔で額に飾られていた。まわりのしろい菊が発光しているみたいにぼやぼやする。双子の姉が少林寺の左右に立って、上の姉はなんにも言わずにため息をついた。そこできれいな石拾ってきたんだけど、と下の姉はすべすべのまるいしろい石を見せて、これひいじいのお棺にいれたらだめかなときょろきょろした。ふたりのくろいワンピースがおそろいでかわいくて、弟はかわりばんこに親戚のおばさんたちに抱っこされていた。制服のない小学校に通っていた少林寺は、くろいよそゆきみたいなのを着せられてものすごくあつかった。ひいじいは夏に死んだ。夏はだから葬式の季節だ。
蟻が蝶の羽をひいて行くああヨットのやうだ。突然そらんじられたその言葉に少林寺はぎょっとする。栗松はとなりで駄菓子屋のらむねのびんをからから振りながら、あーこれビー玉でてこないかなーと言った。半袖のシャツからつきだした腕が小麦に焼けている。少林寺は自分の手元のらむねを見おろす。うすあおいガラスの内側で、ビー玉はひそやかにまるく濡れていた。出てきたらしょーりんにあげる。さかさにしたりななめにしたり、びんをいろいろと傾けながら栗松はそんなことを言う。少林寺の頭蓋の内側で、蟻が蝶の羽をひいて行く。ぞろぞろと脳のしわまで蟻はうめつくしやがて行き場を失って目や耳や口から溢れる。どわっと。蟻が少林寺の目を食いやぶり蝸牛を踏みつぶし舌をすり減らしてしまうころ、少林寺の頭蓋の中にはころりとまるい脳だけが、残る。しろい蝶の羽をらむねのようにまといつかせて。ひっそりと夏のにおいで。
いらないよ。少林寺はわらう。その拍子にビンがアスファルトに落ちてがしゃあんと砕けた。栗松が目をまるくする。おまえなにやってんの。飲みのこしたらむねがしゅわしゅわと広がり、そのはしから蒸発していく。熱されたアスファルトがぎぢぎぢと音をたて、少林寺はその破片の中からビー玉を拾い上げた。じゃあこれは栗松にあげる。じゃあこれはあゆむにあげる。あのとき下の姉はそう言ったのだ。石なんかいれたらだめだよと上の姉にとがめられ、それを両手でやわらかくこすって、じゃあこれはあゆむにあげる、と下の姉は少林寺にそれを差し出した。そのすべすべのまるいしろい石は、今でもまだ引き出しに入っている。ひいじいの葬式をまといつかせた、夏のミサイルみたいに。
ビー玉の入った少林寺の頭蓋の中では、蝶の羽のヨットがらむねの海に浮かんでいる。栗松のてのひらにびしょびしょのビー玉を乗せると、ありがとう、とはにかんだように栗松は言った。おれのあたまの中もなんとかして出せないかなと少林寺はびんの破片をとおくに蹴飛ばした。夏のミサイルで頭蓋をぶちくだいてビー玉の脳を取り出し、らむねの海にのびやかに浮かぶ蝶のヨットを、少林寺は栗松とならんで見てみたいのだった。
夏は葬式の季節だ。らむねに蟻が溺れて、びんの破片はとおくで粉々になる。夏はだから葬式の季節だ。引き伸ばされたひいじいの写真はいちばんぶさいくに写っているとひいじいがよく言っていたやつだったので、天国できっと今ごろひいじいはないている。







夏のミサイル
少林寺と栗松。
三好達治すきです。「土」という作品です。
うふふ、と、すぐそばでわらう声がした。目金が肩甲骨をさらしたままそちらに目をやると、影野がとおくを見つめたままくちびるを持ち上げてわらっていた。インナーをずぼんとあたまからかぶり、しろい背中を綿とポリエステルでおおってしまってから目金は目をそらす。影野の見ているさきには格子のはまったがらす窓があって、その向こうはなにも見えない。窓はちいさいし格子がじゃまくさい。影野は首をかしげるようにしながら爪のわれかけたながい指でくちびるにふれ、それからそれをぬうっと目金に伸ばした。どこかしらにさわってしまう前に、ばちんと目金はそれを払いのける。しろい指は抵抗なくはじかれてロッカーにあたった。骨と金属のふれあう音がぼわんぼわんぼわんと耳のうずまきにしずんでゆく。
影野が足の指を怪我したのはスパイクで松野が思いきり踏んだせいだ。部活が終わったあと、影野がゆっくりスパイクを脱ぐとそこにいた全員が絶句した。血でざぶざぶに染まった靴下とスパイクとその中敷き。う、と誰かがみじかくうめき、松野はほそい悲鳴をあげた。血の源泉は靴下の先っぽのまんなかのあたり。あからさまに変なかたちにくぼんだ、そこ。影野はまったく無頓着に靴下を脱ごうとするものだから、土門がその手首をつかんで止めた。だめだよ。もっと血が出る。結局その足で影野は病院に行き、何針か縫ったという。中指がちぎれかけていたとは付き添った土門の談だがどこまで本当かはわからない。翌日影野の足はしろい包帯で幾重にもまかれ、ふとく醜悪なそれを引きずるように影野は学校に来た。平然とした顔で。そしておなじ顔で部活にもふつうに来るから困ってしまう。
目金。見えないの。影野はロッカーにひどく打ちつけた手を伸ばして窓を指差した。見えないの。目金は耳をふさぎたい気持ちを押さえて着替えを終えた。しろくふとく醜悪な影野の足。したたった血はマネージャーと宍戸が水と洗剤できれいにこすり落とした。いまだに部室のすみにはあのスパイクが置いてある。だけど血がついた方は松野が靴底の金属を強引にはがして捨ててしまったため、無事だったもう片方だけが風化しながらそこにある。
あのときの叫び声を今では冗談だったのかもしれないと目金は思う。この世の終わりみたいな、七つ目のラッパの悲鳴。あれが本当にあの喉からあふれたのか。影野はその日確かに喉をからしていた。目金は影野を見る。やっぱり影野はとおくを見ながらうすくわらっていた。そのながい髪をわしづかみにしてつよく引く。ぐっとさがったそのあたまを、目金は腕にかかえてやった。よしよし。影野は目金の腕の中で、うふふ、とわらった。目金も見えてるんだね。うれしいね。おれと目金はおなじものを見てるんだね。つややかな髪の毛をなでる手の甲をぞっとあわ立たせながら、目金はくちびるをやわらかにわらわせる。あのときの悲鳴がぼわんぼわんぼわんと目金の奥に積まれて崩れた。がらす窓を通り越してかたちのないものがじわじわと染み込んでくる。ふたりきりの部室であるならそれは天国に似ていた。(と言えなくもない)







エリエリラマサバクタニ
目金と影野。
つづきに感想。
最近どうにも文章の変化の時期のような気がします。書いても書いてもあたまの中身におっつかない。
というかもう少しエログロいものが書きたい(エロといっても十八禁とかそういうものではなく)のですが、ブログなので自重自重。
だけどここしばらく微グロ続きですよね。不快に思われてたらごめんなさい。

と言ってみるテスト。


続きに拍手返信です。いつもありがとうございます。
それから毎回毎回返信遅くなってすみません。情弱なもので。
皆さんからの温かい言葉をむしゃむしゃ食べて、毎日がんばっております。


[54]  [55]  [56]  [57]  [58]  [59]  [60]  [61]  [62]  [63]  [64
カレンダー
09 2024/10 11
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
プロフィール
HN:
まづ
性別:
非公開
自己紹介:
無印雷門4番と一年生がすき。マイナー愛。

adolf_hitlar!hotmail.com

フリーエリア
アクセス解析

忍者ブログ [PR]