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女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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おれ・・・この技が完成したら、あいつに伝えたいことがあるんだ・・・。
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髪の毛を引かれて反らした首の、ぽこんと飛び出した喉仏を土門が噛んで、それで終わりになるつもりだった。ただ無言で無言のそれに耐えて、まるく歯形がついた喉を腕でこすると疑問ばかりがかすれて伸びた。当の土門はどこか遠くに行ってしまったままなにも言わなかった。弁解も理由もなにもなかった。ただそのひふに刻んだ疑問を放り出したままゆく彼を、影野にはどうしようもなくてどうするつもりもない。追うべき理由もそこにはないし、嫌悪とか不愉快とかそういうたぐいの感情で天秤が振れたりもしなかった。継いで接いだ日常の延長が、その境目をこすられて濁す。ああ、と思った。ただそれだけだった。
土門の腕はすらりとながくて、ひじや手首にきれいなかたちで骨がでっぱっている。泳いだり飛んだりする生きものが持つような、神経質なわかい画家にていねいにデッサンされたみたいなその腕は、しかし例えば風丸や染岡みたいに、指先までぴんと神経が通って貼りつめているようなあやうさをしない。それはどこからでも開けられます、の表示がなされた調味料のマジックカットに似ている。だらしなく途切れもしないくせに、ぶつぶつと切らせて包容や鷹揚のふりをする。なんでも受け入れますよと言いながら、そのくせ容赦なく捨ててゆく。土門の腕は七輪の炭火にあぶられたさんまに似ている、と、だから影野はそう思うようにしてある。できるだけそれに気づいてしまわないように。気づかないふりをいつまでもできるように。
土門がなんでもないみたいな平然とした顔をしながら、親指を内側に思いきり握りこんでいた。手の甲にすうっと筋がはしっている。どうしたのと聞くと、ん、と土門はわらった。指鳴らすのが趣味なんだけどさー(と言いながら、土門は手をひらいて組み合わせ、ぼきぼきと鳴らしていく)、親指がなかなか鳴らなくて。なんかきもちわりーんだよね。土門は顔の前でわざとらしく、てのひらをぐうぱあとひらいたりとじたりした。まっそんだけ。ふうんと影野は生返事をしながら、土門のよく動く指先を眺めていた。そうしたら髪を引かれて噛まれた。喉がまるくいたむ。肩にくいこむ土門のほそい指を感じで、あんな風に鳴らすのはきっとよくない、と影野は思った。なんでも受け入れますよと言いながら、容赦なく捨ててゆくその指。土門の指は土門そのものだ。守るふりで傷つける。あるいはその反対。
いたいよ、とぽつりと言うと、土門はなにも言わずに離れた。さんまみたいな腕をした、ひとりぼっちの土門。歯形を腕でこすって濁し、影野はじっと土門を見る。包容や鷹揚のふりなら、もう十二分に足りていた。しばらく無言で向かい合ったそのあと、ごめん、と先に謝ったのは土門だった。いたかったろ。ごめん。ああ、と影野は思う。ああ。もうそれ以上なにもない。嫌悪でもなければ不愉快でもない。どうでもいいくらいなにもない。土門が親指を握る。鳴らない骨。だらしなく途切れることもしない、(本当はなにも捨てることのできない、)ひとりぼっちの土門。ありがとう。影野はわらった。土門はぎょっとした顔で影野を見る。その目がせわしなくぎろぎろと動いて、そしてさびしく伏せられた。その腕の中にたくさんあるものを持ってやりたいとも思わないし、土門はひとりなんかではもちろんない。だから言わずにはいられなかった。いつの日かおれを捨ててくれてありがとう、ああ、ありがとう。
骨は鳴らずに土門は手をひらいた。しろく血の気の引いたてのひらを見ながら影野はまるい歯形にふれた。包容や鷹揚なら足りている。マジックカットからこぼれる中身くらいには、ちゃんと足りている。まるい歯形が太陽みたいだと思って、あまりにばかばかしいのでわらってしまった。土門は遠くへゆかないし、影野はどんどん空っぽになる。その顔がまるで傷ついているみたいだったのが不思議だった。おれたちに伝わるものなんてなにもないね、ああ、なにもなかったね。それだけ。






ありがとうの歌
土門と影野。
IrisGot。
コミックフロンティアお疲れさまでした!
一般参加の方、サークル参加の方、皆さまとてもとても楽しまれたようですので、本当にいいイベントだったのだなぁと思います。
一般参加予定だったわたしはと言いますと、まさかのトラブルのため参加できず・・・号泣です。どれくらい楽しみにしていたかと小一時間。
ですが、そのあとのオフにはのうのうと参加して参りました。全体的にうざい感じでほんとすみません。あの場には影野関連の神しかいませんでした。すごく楽しかったです。ファンの皆さまに刺されてもおかしくないくらい、いい思いをさせていただきました。
相変わらず神々のおはなしは面白くて、あの場のすべてを録画して残しておきたいくらいの勢いでした。個人的にはガキ使のはなしとサイレン(みえるひと)のはなしができたので大満足です。ラムチョップはおいしかったです。本当にありがとうございました。
いつかわたしもサークル参加する側になりたいなぁと思いました。そして恩返しをしたいです。

そして今日はかつおかつお!のびーこさんのお誕生日です。皆さんどんどんお祝いコメント寄せてあげてください。
わたしはおそらく最高であるだろうプレゼントを贈りました。まだあるので楽しみにしててね。
びーこさんおめでとう!また遊ぼうねー。
アメイジンググレイスがプレイヤーから流れる部屋の中でぼおっと膝を抱えていると、そろっと扉がほそくひらいた。じんくん、散歩行こう。顔をすこしだけ覗かせた姉がなんだかなきそうな目をしてそうささやく。思わずちらりとかえりみた窓の外はどしゃ降りの雨だったのに、あまりにも訴えてくる目が心細そうだったので、いいよ、と影野は言った。最近ソニプラで買った傘は色ちがいのおそろいで、骨の数が多くて優雅なかたちをしている。レインブーツはてかてかのしぶい色のドット模様が浮かんだこれもおそろいで、足をつっこむとかかとの辺りがかぱかぱした。こんぺいとうみたいな傘を差しながら、姉がにらむみたいな横目でまるく咲いたあおいあじさいを見ている。車道側をあるきながら立ちこめるアスファルトのくすんだ匂いを呼吸していると、姉がそっと影野の右手を取った。神妙な顔をしているのに歌っているのは忌野清志郎だったので、なんだかぎょっとしてそれから納得した。こんぺいとうのすき間でつないだ手がひたひたに濡れていく。あぁめー、じいんぐれぇ。
部室でぼんやりとスパルタンXの鼻唄をうたいながら文庫本をめくっていると、おまえミサワすきなの、と問われた。影野が顔を上げると染岡が意外そうな顔をして目の前に立っていた。え、と聞き返すと染岡はわらって、額の辺りで人差し指をワイパーみたいに動かした。なんのことかわからなくて首をかしげると、なんだ違うのかと染岡はつまらなそうな顔をする。だよなーイメージねーもんなぁ。なんのこと。染岡はそれには答えず、畳んだままのパイプ椅子を広げながらおまえなんでスパルタンX知ってんのと逆に問いかけた。夜中に映画やってた。えーまじかよ観ればよかった。影野の向かいに置いた椅子の背もたれをまたいですわりながら、あれおもしろいよなーベニーユキーデ出てるしと染岡は嬉しそうにわらった。誰。アメリカギャングだよ。ジャッキーと戦ってたろ。あんまりよく覚えてなかったので首をかしげたら、すげえかっこいいからもう一回観ろと染岡は真顔で言った。
こんぺいとうの傘の下、手をつないだ姉は前を向いてあるきながら泣いていた。くちびるから歌を目からは涙をこぼしながらあるくその凄惨な横顔を、どうしても直視できなくてつないだ手ばかりを見ていた。レインブーツのつま先は水溜まりを十戒みたいにかきわけて、だけどそのあとにはなにも変わらない、孤独に濡れた街並みがあるだけ。びしょびしょの涙に溺れて、そこからどうしても踏み出せなかった。踏み出そうともがくひとの葛藤を、ただ映画みたいな非現実とデジャヴの中に垣間見る。いつまでもないてればそれがいちばんしあわせなのに。姉ががらがらにかすれた声でつぶやいた。どうしてそれじゃだめなんだろう。傘をすこし傾けると雨粒がだらだらっと一気に落ちた。答えを拒んで足を止めると、あるくことだけは止めようとしない姉がぐいと手を引く。踏み出そうともがくひとの葛藤。いつ終わるともわからない喪失に、抗う感情の群れが傘を叩いて流れ落ちた。
すこし前に染岡が、やたらとあつくプロレス(しかもエルボーばっかり)について宍戸に語っていたことがあった。宍戸はヒートアップしていく染岡に若干引いていたのかていねいに相づちをうちながら聞いていて、それなのに染岡自身はへんに落ち込んだ様子だったのがおかしかった。きっとあれも喪失だったのだ。ごめん。そう言うと、染岡はたぶん意味もわからないまま目をまるくした。いいんだよ。染岡はなぜか吐き捨てるように、ぶっきらぼうに言った。いいんだって。そんな風な口調を走らせながら、ひどくやさしいしぐさで染岡のがざがざの指が前髪をすべって落ちた。影野はそっとわらって、だけど黙ったままそれをやりすごした。誰もがそれを乗り越えていく。きっと強くなろう。誰よりもなによりも。世界中のどこからも静かに遠ざかった音のない場所で、願わくはひとりで生きてゆけますように。この指をちゃんと置いておけますように。
「わたしは三つの宝を手にして死ぬ。そのために生きている」
(人をいつくしむ心)
(なにも持たぬ暮らし)
(人の先に立たぬ生)
あの日の雨は追悼だった。





追悼
染岡と影野。
なにも始まらなかったあの日の終わりに。
あとサンクス寒貧。
ブラックジョーカーのポーズがダサすぎてうんぬん。
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無印雷門4番と一年生がすき。マイナー愛。

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